教育長に聞く〜未来の学びを築く―杉並区 井出隆安教育長

5年間で1人1台端末を整備 教科別に反転授業の手法を検証

杉並区 井出隆安教育長教育におけるICT活用の最先端を走り続けてきた杉並区。今年度から、区内すべての小中学校にタブレット型端末の導入を進めることでPC教室をなくし、パーソナルユースへの移行を目指す。「杉並区の今後の基本戦略はPC教室からの脱却」と語る井出隆安教育長に、新たなるステージに突入した杉並区のICT活用について聞いた。

パーソナル ユースを実現

学校のICT環境整備において、PC単体のスタンドアローンで学習をしていたのが第1期とすると、校内LANで教える側と学ぶ側が結ばれ、ネットワーク型の学習ができるようになったのが第2期です。第1期と第2期で共通しているのはPC室で学習していたということ。第3期は、PC室からの解放によるパーソナルユースの実現ではないでしょうか。囲われた空間で一斉に学習をするのではなく、ICTの特性を活かしてPC教室から解放され、高速無線LANが整った環境で一人ひとりがタブレット型端末を持ち、様々な学習を展開できる学習環境の構築が求められています。

図書室や理科室にはPCがある、しかし必要ならば自分でタブレット型端末を持ち込んでも良い、それがパーソナルユースです。今後の方向性としては、PCを使うためだけの空間はなくしていきたいと考えており、杉並区では今年度から第3期に取り組んでいます。現在、総合計画等の改定時期であり、教育委員会ではICT環境を全ての教室に整えていきたいと考えています。

電子黒板整備率を普通教室100%に

電子黒板の導入率は現在、全小中学校の理科室は100%ですが、普通教室は10%。

これを今年中に100%とするため850教室の導入を進めます。

デジタル機器に馴染みがない教員が「便利」と感じ、かつ単体の機器を使う感覚で実は複合的に使いこなしていた、という環境としたいですね。

タブレット端末については今年度、約600台を区立小学校3校に先行して導入します。

そのうち1校はPC教室を解消するモデル校、2校はサポート校として実践結果を反映させ、PC教室からパーソナルユースへ切り替えるプロセスを検証してガイドラインを作り上げ、先行導入校での検証結果によりますが、向こう5年間を目安に全児童生徒にタブレット型端末を整備していきたいと考えています。

来年4月に開校する小中一貫教育校・杉並和泉学園には、初年度から6年生以上全員にタブレット型端末を配備し、次年度以降、順次、他の学年にも配備を計画していきたいと考えています。

特別支援学級も 1人1台環境へ

特別支援学級には昨年度までにタブレット型端末は27台導入済みで、今年度は新たに40台を導入します。研究指定校では小中学校連携という形で特別支援学級におけるICT活用の研究を進めていきます。特別支援教育で何ができるのかを検証しながら、それを普通学級での学習にいかに展開していくかというのが一つの流れ。特別支援学級で有用ならば、さらに普通学級では有用です。しかし、1人1台端末は、全ての学校に一斉に導入しても手に余ります。できるところから導入して、そこから拡大していくというステップが必要です。

反転授業学習会

反転授業に関する勉強会も4月に立ち上げました。タブレット型端末を導入した小学校3校、導入予定の学校、特別支援学級の関係者で検証します。その勉強会で得られた知見を導入校に還元し、導入校の実践を広げていきたいと考えています。反転授業の検討事項の一つが、算数・数学型と社会科型のアプローチは異なるということ。算数・数学は系統学習ですから、自宅で学習してから学校で学ぶというスタイルは比較的、行いやすい。一方、社会科は多用な見方や考え方が求められる学習ですから、自宅で学習した質と量が、学校での議論を大きく左右します。反転授業型の学習は、算数であれば低学年からも可能でしょうが、社会科型や国語型は高学年からが良いのではないか。社会科型や国語型は資料や作品等とリンクした総合型とも言えるかもしれません。こうした検証結果を実践に反映させていきます。

杉並区は長くICT教育のトップランナーとして走り続けてきましたが、常にトップランナーであり続ける必要はありません。他の自治体で優れた点があれば、それを取り込んでいけば良い。既にICTの可能性は十分に分かっており、杉並区においては「教育改革の目玉」としてICT活用を掲げるのではなく、全ての児童が日常的にPCを使うパーソナルユースへの道のりを歩む段階と考えています。

【2014年7月7日】

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