フューチャースクール推進事業【総務省】/学びのイノベーション事業【文科省】
最終年度迎え報告書をまとめ

教科特性で必要機能に違いも "lCT活用"前提とした教室づくりを

 総務省「フューチャースクール推進事業」、文部科学省「学びのイノベーション事業」が最終年度を迎え、報告書の取りまとめが進んでいる。これらの成果と課題を踏まえ、両省は次年度も引き続き連携して、同一の実証校において「先導的教育システム実証事業」(平成26〜28年度)に取り組む。総務省「フューチャースクール推進事業」の成果取りまとめである「ガイドライン2014」では、ICT環境の構築と運用面、機能的要件などを中心に、学校環境の整備・構築に資するものとする。文部科学省「学びのイノベーション」の実証研究報告書では、学習スタイルの整理と提案、健康面やセキュリティの配慮などを中心とし、教員研修でも活用できるようにする。教育効果についても整理、掲載する。

フューチャースクール推進事業【総務省】技術的要件を整理して追加

 2月20日に開催された「フューチャースクール推進研究会」では、平成25年度実証校の報告と視察結果、中学校の生徒用コンピュータ等の必要機能等、同事業のまとめとなる「ガイドライン2014」に係る討議が行われた。実証校からは、学習者用端末などICT環境を活用した協働学習や持ち帰り学習の実証と成果が報告されるとともに、円滑に協働学習を行うために解決すべき学校環境整備の課題と、次年度以降の取り組みが報告された。

  「ガイドライン2014」は、前年度までのガイドラインの章立てに加え「ICT機器及びネットワーク環境に関する技術的要件の整理」を第4章に追加する。ここではタブレットPCや電子黒板の必要な機能を整理し、ネットワーク環境構築の際の留意すべき事項を段階的に示される。

  また、実証が進むにつれて、協働学習や遠隔学習、交流学習など、学校における利活用が広がったことから、活用事例も充実。構成員からは、「整備手法が乱雑な自治体や学校もある。専門家ではなくても分かるように、整備手法については順を追って整理を」という意見もあった。

  ガイドライン2014の内容は以下。▽中学校におけるICT環境導入におけるポイントと事例・運用における留意点と事例▽特別支援学校におけるICT環境の構築と運用におけるポイントと事例▽ICT機器及びネットワーク環境に求められる技術的要件▽中学校におけるICT利活用の留意点と事例▽特別支援学校におけるICT利活用の留意点と事例▽災害時におけるICT利活用の留意点と事例▽各実証校の成果

教科特性も明らかに

  研究会では、FS推進事業の実践校と生徒1人1台のPC環境を有する中学校を対象に、中学校の生徒用コンピュータ等の必要機能に関する調査を行った。それによると、一体型電子黒板は60インチサイズが、ユニット型電子黒板は70インチサイズが適当であると示された。また、国語では「壁固定の電子黒板」が好まれ、理科では、画面分割・図形補正機能・生徒画面転送・写り込み防止などの、画面に関する機能の必要度が高いなど、教科によって必要機能の特性が異なることがわかった。1人1台端末については、理科ではメモリ・スロットや高速動画転送、共有書き込み機能などの支持が有意に高い。英語・音楽では、音声に関する機能についての支持が有意に高いなど、指導教科による必要性は異なることが明らかになった。これらの調査結果もガイドラインに盛り込まれる。

学びのイノベーション事業【文科省】健康面の配慮事項 教育効果を整理

 第5回学びのイノベーション推進会議が2月4日、文部科学省内で開催され、学びのイノベーション事業の成果としてまとめられる実証研究報告書骨子(案)について検討された。

  「ICTを活用した指導」では、「一斉学習」「個別学習」「協働学習」それぞれの学習スタイルについて、各教科においてどのような順番で何を行っているのか、授業の流れがわかるように「概要」と「指導展開」に分けて掲載し、教員研修でも活用しやすいようにする。ワーキンググループで具体的な学習場面を分類したところ、「一斉学習」1、「個別学習」5、「協働学習」4、計10通りに類型化できたという。これらの学習スタイルについて、わかりやすくイラスト化する。

  特別支援学校については、障がい者の「できないこと」を補うツールとしてのみではなく、交流を深める点からもICT活用が重要であり、ICT活用と合理的配慮、学習環境の整備が進められている。特別支援教育におけるICT活用の成果は広く、学校教育、共生社会に向けた教育環境として活用できるものであることにも触れる。

  学習者用デジタル教科書・教材の開発状況や主な機能、実証校における活用状況、システムの在り方にも触れる。

教育効果を分析

  ICTを活用した教育効果として「児童生徒の意識の変化」「学力等の変化」「教員の意識・指導力の変化」に分類し、各種アンケート調査や全国学力・学習状況調査結果から分析。実証校では、学習のために必要なICTスキルについても調査しており、効果と課題を整理する。

  ICT活用の留意事項については「情報セキュリティ」と「健康面における配慮事項」を記載。教育現場の「心配」「懸念」に応える支援という視点でまとめる。

  どのような点が問題なのか、あるいは不安なのかについて24学級704名を対象に実地調査を行っており、そこで「現在の教室はICTの日常的な活用を前提とした教室設計になっていない」ことが明確化、問題点は大きく以下の3つに分類できた。▽映り込み▽児童生徒の姿勢▽ヘッドフォンの使用

  そこで調査結果とともに新しい教室作りに役立つアイデアも盛り込む。

セキュリティポリシー 学校に適した策定を

  情報セキュリティに関する調査も実施。それによると約20%の学校が市役所等と同じポリシーであった。これについて委員からは「学校には適切なポリシーの必要性を明記すべき」という意見が出ており、セキュリティポリシーの作り方や留意点、ベストプラクティスも紹介。最終章では、教育の情報化を推進するための施策(指導方法の開発・教員の指導力向上・教育環境の整備など)を記載。各章から見えてきた可能性を広げていく章としたいという意見があった。

  資料編では、本事業において実施した各種調査結果も盛り込む。

実証校の報告

■新地町立尚英中学校
下位20位の生徒を対象に学力向上の変容を分析。数学では63・2%の生徒に偏差値が上昇し、タブレットPCの持ち帰りによる学力向上の効果があると報告。家庭でのインターネット接続率が75%であることから、持ち帰り学習はオフライン教材で利用。次年度以降もICT利活用を継続。消耗品等についても予算化することで、スムーズな運用を目指す。

■横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校
ICT支援員の運用体制について、3名一律だった勤務時間をシフト制に変更。放課後に多い教員からの相談に対応できるようにした。同事業終了後、同校ではICT支援員を学校予算で2名雇用する。

■上越教育大学附属中学校
交流授業や、協働学習支援ソフトを活用した学び合い、家庭での調べ学習など積極的に活用。学習者用端末の修繕費が想定外にかさんだことから、速やかな修理ルートと修理費用の確保の必要性を指摘。次年度以降は大学予算により実証研修を行う予定で、同事業が終了する27年度を見据えた施設整備、予算要求について検討中。

■松阪市立三雲中学校
持ち帰り学習活動を含めた利活用を継続的に実施。市内中学校2校でタブレットPC、無線LAN等のICT環境を構築、市内全域に広めていく。現在、松阪市「教育の情報化」指針(仮称)の策定を進めており、同事業をきっかけに機運が高まっている。

■和歌山市立城東中学校
家庭への持ち帰り学習で、モバイル通信を活用。和歌山市では平成26年1月、小学校53校2分校にタブレットPC1900台を導入。さらに市内全教員1人1台の校務用PCも配備。次年度以降も1人1台のタブレット端末活用の検証を継続。

■新見市立哲西中学校
1年生は週1回、2、3年生は週2回持ち帰り学習を実施。協働学習支援システムサーバを市情報センターに設置。域内サーバ配置で経費を大幅に削減した。新見市では平成26年度に市内全中学校(5校)で、無線LAN等のICT環境を構築。1人1台のタブレットPCと電子黒板の配備を実施する予定。

【2014年3月3日】

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