教育長に聞く〜未来の学びを築く―東京都 比留間英人教育長

留学前に半年間研修―次世代リーダー育成道場
国際バカロレア公立高校で初導入 東京都 比留間英人教育長

 東京都では、様々な形で「学力向上」を始めとする人材育成に取り組んでいる。2020年の東京オリンピック開催を視野に、どのような教育に力を入れていくのか。東京都の比留間英人教育長に話を聞いた。

 2020年の東京オリンピックではボランティアや運営などで都内の子どもたちが多様な形で関われるよう、そのために必要なツールとして英語力強化に一層力を入れていく。グローバル社会で活躍できる人材育成に向け、高校生を対象に平成24年度から開始している「次世代リーダー育成道場」は、事前研修が特徴だ。6〜8か月間(全28回)かけ、英語による社会・科学分野の講義や演習・プレゼンテーション、伝統文化体験・学習、日本の先端技術に関する体験学習、留学生との交流、オンライン英語学習、合宿などに取り組む。その後1年間ホームステイで留学。派遣先はアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなどで、新学期開始時期に合わせ、1月から留学するコース、8月から留学するコースを設置。今年度は二期生として前回の倍にあたる200人を募集し、応募者数は320人に上った。また、今年1月に留学した一期生が12月に帰国予定で、年明けには報告会も実施される。

  道場の実施をきっかけに、海外語学研修や修学旅行を実施する学校も増えており、24年度は100校・3000名を超えた(語学研修86校585名・修学旅行15校3149名)。そのほか、留学や海外からの短期訪問、短期留学などのプログラムを実施する学校も増えつつある。

  さらに、公立高校初の国際バカロレア導入を都立国際高校で進めており、この10月に申請を済ませたばかり。平成26年度末に一期生を募集予定だ。25人以下の少人数指導で英語によるディプロマプログラム(DP)を導入し、数学等で実施。かねてより海外大学進学実績を持つ同校でのDP導入により、平成30年度には海外大学への入学者がさらに多数輩出されそうだ。

理数教育の強化

  「日本の将来を考えたときに、理数は極めて重要分野。好きな子ども、得意な子どもを増やすためにも実験や観察は大切な要素」と話す。
都では理科の実験が苦手な教員をサポートする仕組みを提供、教員として採用後、学校開始前に実験授業などの研修を行っている。

  今年度から次年度にかけ、理数フロンティア校事業を小学校50校、中学校50校、計100校で実施。小学校には理科教育推進教員を指名、小・中学校ではサイエンス・サポーターの配置を可能とした。区市町村教育委員会等と連携して理科指導に関する研修の実施を義務づけ。算数・数学においては義務ではないが研修の実施を推奨している。

  学校公開週間等で、理数教育の授業公開や保護者対象の理数教育に関わるワークショップや講演会等も実施する。研究成果発表会も行う予定だ。

  高校でも5校が理数フロンティア校に、12団体・クラブが理数教育チャレンジ団体としてそれぞれの研究に取り組んでいる。

全国トップレベルのICT整備率目指す

  教育の情報化については、全国トップレベルのICT整備率を目指し、平成20〜21年度に都立高校のICT環境整備を開始。その後、増学級や新設校に対してもプロジェクターやタブレット端末配備を進めてきたが、今年度更新期を迎えたことから現場教員のニーズに対応する形で、これまで移動式であったプロジェクター等の固定設置とハイブリッド端末、書画カメラの設置を進行中で、今年度予算として25億430万円を計上。また、都立学校ICTセンターにおいて教材共有化を進めており、現在約4000学習コンテンツを格納している。
校務については、小中学校の校務改善の推進に取り組んでおり、11月に校務改善推進事業発表会を行った。

学力低位層に焦点 バックアップを強化

  これらに加え、来年度以降は学力低位層の子どもの引き上げを強化する。

  全国学力学習状況調査によると、都内の小中学生の学力は全国平均並み。しかし上位県と比較すると、低位層の多さが顕著であったという。そこで、下位層の底上げを急務とし、様々な手立てを講じる。同時に上位県のヒアリングを通じて東京都の課題を抽出、来年度以降のさらなるバックアップ方策を検討中だ。

  習熟度別の少人数指導を算数で推進する方針は先ごろ明らかにしたばかり。「つまずいたところまで戻ることを想定」しているのが特徴だ。

  「5年生の内容がわからない児童は、3年や4年の内容が分からない場合が多い。習熟度別の少人数指導では学年を超えて、分からない箇所まで確実に戻る仕組みとし、小学校でのつまずきを中学校に持ち越さないようにしたい。分からないところまで戻らない限り、その先の内容は何度教えても分かるようにはならない。下位を引き上げることは全体の活性化につながる」と話す。

特別支援教育に適合した教室を

  特別な支援が必要な児童生徒への対応も強化を予定している。

  特別支援学校の児童生徒が増えており、教室不足は課題の1つでもある。

  そこで都では、特別な支援が必要な子どもたちの授業を実態に合わせて実施している実情を踏まえ、学校の施設整備と活用形態の見直しを図る考えだ。

  「特別支援教育の在り方に沿った学校の仕様を考えてみたい。授業形態が弾力的ならば、学校の教室ももっと弾力的になっていいのでは」。

  発達障害に対する支援の在り方も検討中だ。

  「現在は現場の努力が先行しており負担が大きい状態。都として発達障害に焦点を当てた教育の在り方について捉えなおし、基本的な対応を提示した体系的な指針を提供したい」

【2013年12月2日】

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