教育長に聞く〜未来の学びを築く―大阪府 中原徹教育長

議論ベタは克服できる
国際社会で活躍できる“力”“意欲”を育む

 大阪府では、来年度から府立高校の入学者選抜の英語の試験にTOEFLを導入する。2013年4月から大阪府教育長に就任した中原徹教育長の実践経験が背景にある。中原氏は、最年少の民間人校長として府立和泉高等学校に赴任。「国際社会で勝負できる人材をつくる」ことを目標に、1年目からTOEFLの専門クラスを設置、自ら毎朝30分授業し、和泉高等学校の進学実績を向上させた。なお、本年より同校は「グローバル科」が2クラス開設されている。(9月13日開催・第4回私学マネジメント定例セミナー・主催株式会社コアネットより)

  米国ロースクール卒業後、米国弁護士としてロサンゼルスで勤務し約11年間米国に滞在。帰国後2010年から校長として活躍、その後教育長となった。この日は府立和泉高等学校長として取り組んだ教育改革を中心に講演した。

  中原氏は民間人校長に応募した理由を「執念」と語る。「グローバル時代に日本人がどうすれば海外と競争できるのか。今のままでは難しいだろう、とずっと思っていた。今夏、国際レベルで活躍するリーダーの育成を目標とした大阪府立高校(グローバル・リーダーズ・ハイスクール)10校の代表各2名計20名の生徒を連れて、ボストンに研修に行き、ハーバード大学やMITの授業を受け、大学生や高校生と交流した。ハーバード・ビジネス・スクールの採用担当者に日本人の悪いところを挙げてほしいと聞いた時の答えが印象に残っている。『悪いところは1つしかない。英語でディスカッションができないことだ』。私が米国に滞在していた時も、ビジネスマンを含めてアメリカ人から疎まれる日本人にはなかなか会ったことがなかった。それは、英語でディスカッションができる人がいないから。そうした経験から、高校生への教育を変えられる職場として応募した」

  中原氏は校長時代、生徒との交流を意図し、ブログを書き続けた。生徒、保護者がコメントを書き、アクセスは一日平均で4000件、議論を呼ぶ話題の際には一日約9万件あったという。

場数を経験して 議論ベタを克服

  学校経営の基本方針として(1)理念を確立して、その理念にすべての施策が合理的につながることの説明を欠かさない(常に理由を示す)、(2)教員を好き嫌いや愛想で評価しない(理知的な経営)、といった実践を続けた。

  取り組んだ施策の一つに「論理的な思考力の育成」がある。できるだけ「正解が1つではない問題」を生徒に考えさせる場を作った。自習室も、静かな自習室と問題を出し合う自習室の2タイプを設けた。

  「国語の教え方を変えることが必要だと思っている。文脈、内容を味わう授業と、論理や言語のルールを学ぶ授業。両方とも教えるべきだ」

  さらに、日本人としての良さと誇りを認識すべきと指摘。「日本人が議論下手なのは、場数が足りないだけ。場数を踏めばできるようになる。例えば、『全面禁煙に反対か、賛成か』、米国人は1時間話しても意見が変わらない。中間の意見を出せるのは、日本人の良さだ」

TOEFLクラス 設置、自ら教壇に

  英語教育改革については、TOEFLの専門クラスを設置、自ら教鞭を取った。TOEFLにしたのは、「TOEICはビジネス用語が多く、TOEFLは米国の歴史など教養も身につく」から。

  まず、「英会話に近く、絶対即役立つ」と宣言し生徒を募集。応募してきた1、2年生108名を4クラスに分け、校長就任1年目に自ら毎朝30分授業。TOEFLコースに入った生徒はその後、TOEFL IBTで60〜70点を半数が取得した。TOEFLクラスはその後、グローバルコース、グローバル科へと発展。和泉高等学校の志願倍率は校長就任後年々上昇、グローバル科の今年度倍率は3・29倍になった。

  パラオへの修学旅行を企画し、パラオの国立競技場で日本、パラオ、台湾の3か国の生徒が生徒の司会進行で話し合うお膳立てをした。日本国内で、中国・韓国からの留学生と、竹島・尖閣諸島について「領土を考える」と題し、話し合う場も設定。本音で話し合い、厳しい意見が続いたが、「意見と人格は別物。笑顔で始まり、笑顔で終わる」ことを約束事とした。生徒たちはそのときの留学生と今も交流を続けている。

  「高校1年生4月の1か月間、『アフリカに行ってきました』『ヨーロッパに行ってきました』。そんな体験を積んで自分のやりたいことを明確にしたうえで、高校生活を送れるような教育環境を作るのが私の理想」と語る。

【2013年10月7日】

関連記事

↑pagetop