5月15日にEDIX専門セミナーで発表された広尾学園中学校・高等学校の講演内容は、ほぼ満席の教育関係者に強い印象を与えた。同学園の「生徒全員のiPad活用」効果は現実的だ。「生徒のモチベーションが上がる」「海外との交流ができる」「集中力がアップする」「教員の授業研究のきっかけになる」など、新しい機器は新しい教育のきっかけになり得るものだが、同校の成果はそれにとどまらない。「生徒数500人が1500人になった」「受験者数が倍増した」「4年前と進路先が変わった」とリアルな部分も明確で、だからこその説得力がある。発表者は同学園広報部の金子暁部長。
協働学習はiPad、プレゼン制作は |
広尾学園は大正7年に順心女学校として設立された私立学校だ。しかし2005年には生徒数約500名と低迷。ここから大改革が始まった。
まず2007年に広尾学園中学校・高等学校と改称し、「特進コース」を共学化。インターナショナルコースも設置した。2010年には中学校のインターナショナルクラスにスタンダードグループを設置、翌年には、高校に医進・サイエンスコースを設置した。教育にiPadを始めとするICTを積極的に導入したのは2011年だ。
これらの成果から、中学校受験生数が東京都で連続トップとなり、進路も変化した。2010年当時から比較すると、2013年には国公立大学入学者が4人から20人に、早慶上理ICUは6人から77人に、GMARCHは14人から129人に、医学部はゼロから4人になっている。さらにカリフォルニア大学やニューヨーク大学、トロント大学、ブリティッシュコロンビア大学など海外大学への進学も増えた。
金子氏は「どん底を体験して多くのことを学んだ」と話す。「どん底は大きなチャンス。共学化もICTの導入も時期尚早と言われたが、変化を拒む人は必ずいる。この不安を踏み越えることで世界は変わる」。
■協働学習でiPadが活躍
ICT活用のきっかけになったのが、iPadだ。「これまでは、圧倒的な知識を持つ教員がその知識を伝授する場が学校であった。iPadを見たとき、デジタルネイティブに向いた教育を提供する圧倒的なきっかけになると直感した」。
2011年度、校内に150台のiPadを導入。医進・サイエンスクラス生徒38名にiPadを貸与した。次年度は中学校の新入生204名及び医進・サイエンスクラス38名全員にiPad購入を義務付けることで、iPad280名、マックブック131名の1人1台体制となった。
医進サイエンスコースでは当初、Googleなどから活用。数か月後、生徒に必要なアプリについてアンケートを行い、「電卓」「手書きノートアプリ」などを導入した。その後1人1台体制となることで、様々な活用が行われている。
漢字が苦手なインターナショナルクラスでは、個別学習で成果が上がった。特別講座として希望制でキャリア教育やロボットのプログラミングを継続して行っているが、今年は生徒自らiPadを持ち込み、実際に動かしているロボットの様子をiPadで撮影してプレゼンにまとめた。
インターナショナルクラスでは、プレゼン制作はマックブックを使うが、話し合いなどの協働学習ではiPadに切り替わるという。
■校務も効率化
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校務も効率化した。同学園では試験問題と補足などをまとめた500ページにも及ぶ「解答解説集」を作成しており、試験後すぐに使うため、試験数週間前には入稿する必要があった。これが現在はPDF配信に変更、これによりテスト数週間前のテスト・解説完成というタイトなスケジュールから解放された。
同校では年2回、「広尾学園×iPad×ICT教育」カンファレンスを開催し、公開授業を行っている。昨年は多くの教育関係者が来校し、その授業の様子について、ツイッターなどを中心に多数の人が発信しており、多くの反響があった。これにより同校の評判は一層高まった。
■ICT導入は重要な仕事の1つ
金子氏は「情報端末の導入は、もはや教育に携わる人間にとって重要な『仕事』の1つ。日本では、教育関係者の不安が最優先される。しかし、生徒の未来を考えると、活用していかざるを得ない。デジタルネイティブをデジタルイミグラント(digital immigrant)の考え方で教えることに疑問を持つべき。『なぜ導入すべきなのか』の理由を並べるのではなく『なぜ導入しないのか』を問いたい。学校でネットワークやICT機器を活用することは、デジタルネイティブの活躍の場を学校で用意しているということ。禁止していては、才能あるデジタルネイティブは校外活動に移行してしまう」と話す。
「今後育みたいのは、本質を感じる力、それを捉える思考力や全体を見渡せる力。それを育むツールがICT。ICT活用推進と共に人間的な力を育みたい」と述べた。
【2013年6月3日】
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