一斉授業からの脱却 反転授業(FlippedClassroom)

 ICT技術の進展は教育スタイルの変革をどこまで可能にするのか。そのひとつの試みが、「反転授業」(FlippedClassroom)だ。大学から始まり、数年前からアメリカの小中学校で試みが増えており、日本においても「反転授業」というキーワードが徐々に広がりつつある。

 「反転授業」とは、伝統的な授業スタイルからの脱却を提案するものでもある。「教室で講義、知識を伝達→家で復習、知識を定着」という一斉授業から、「家で動画による講義を受け、知識を習得→教室では学んだことをもとに議論、発展的な課題に取り組む」と順序が"逆"になり、「講義を受けること」が「宿題」になる。簡単に動画講義やe‐Learning教材を作成したり、生徒に配布できるようになるなど、ICT技術の進展と普及がこうした授業の下支えになっている。

知識習得・定着の効率上がる

反転授業

■大学に最適
 この授業形式について、山内祐平・東京大学大学院准教授は「情報化時代の大学にぴったりの授業形式。eラーニングと対面型授業の併用(ブレンド型学習)は学習時間が確保できるということから効果的。また、大学授業映像のアーカイブ化によって、宿題に使えるインターネット上の教育リソースは爆発的に増大している。ポイントは、実空間とオンラインの組み合わせ方。反転授業はその最初の動きになる」と述べている。

■高校物理で「反転授業」
 また、「物理ネット予備校」に「反転授業」を取り入れている田原真人氏は、講義と家庭学習の順序を反転させることのメリットについて以下2点を挙げている。

  1つ目は、「知識習得の効率が上がること」だ。受講生は、2倍速で講義を聴き、分からないところがあれば、その部分の講義を聴きなおすことができる。また、最初に全体を4倍速で見て全体像をつかんでから、次に2倍速で聴きなおすという方法も選択できる。

  2つ目は、教室を徹底的にアウトプットの場に使えること。物理を始め多くの教科は、知識を使えてこそ身についていくもの。その「身につける場」を授業で提供することができる。この場合教師は「教える人」から、「議論をリード、修正しつつ見守る人」になる必要がある。

■小学校の「反転授業」
 小学校で「反転授業」に挑戦しているのが、富谷町立東向陽台小学校の佐藤靖泰教諭だ。児童は教科書の大問題を解説したビデオを家庭で視聴。授業では分からなかったことを解決していく。算数のみの実践だが、児童は「反転授業」について、家庭学習が楽しくなり習慣化したこと、皆が予習してくることから授業そのもののレベルアップを感じること、自宅で学んだことを授業で話し合えることが学習の見直しにつながることなどをメリットとして挙げている。また、カリフォルニア州の公立学校に通う子どもを持つ保護者によると、「反転授業は現在理科を中心に、歴史でも若干活用されている。反転授業に対する先生自身の考え方、親がどう感じているかを問うアンケート、学習が今後どう変わっていくかについてのプリントも配布された。積極的に試行錯誤している様子が見てとれる」という。

  課題もある。そのひとつが、教師スキルだ。山内准教授は「反転授業では、教室で応用的な課題を協調的に学ぶ活動をする。このタイプの授業は従来型の講義とノウハウが異なるため、対応できない教員もいる。小学校はグループ活動も多く、比較的移行しやすいだろうが、中学校や高等学校は教員養成段階からこのような方法を学べるようにしておかないと、教師によって授業の質がバラバラになる危険性がある」と指摘している。前述のカリフォルニア在住保護者も「場合によっては先生が教えることを放棄している例もあると聞く」と報告している。

  一斉授業から反転授業へ。成功すれば成果が得られるこの手法に挑戦している教員はぜひ事例を報告してほしい。

【2013年2月4日】

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