【校務の情報化】今後は"標準仕様"で推進する―鳴門教育大学大学院 准教授藤村裕一氏

 10月12日(金)、第7回教育委員会対象セミナー「校務の情報化の推進/ICT機器の整備計画」が大阪市内で開催され、全国から多数の教育関係者が参集した。主催は教育家庭新聞社。大阪での開催は今年2月10日に続き2回目で参加者数は前回を上回った。校務の情報化の進捗に伴い、教育委員会では多くの情報を求めているようだ。セミナーの講演内容を紙上報告する。なお第8回教育委員会対象セミナーは11月21日に東京で開催予定。詳細は教育家庭新聞Webで提供中。

鳴門教育大学
鳴門教育大学大学院
准教授藤村裕一氏

 藤村氏は「校務の情報化=帳票の電子化ではない。今あるデータを有効に連携・活用できるプラットフォームを構築し、電子化ならではの付加価値によって教育の質的改善を実現することが校務の情報化の目的。それを実現するためのキーワードが『教育情報アプリケーションユニット標準仕様』と『教育クラウド』であり、今後はそれに加え『テレワーク』(持ち帰り仕事を安全に行う環境構築)の導入促進も欠かせない」と話す。

「教育情報アプリケーションユニット標準仕様」
仕様書に明記して調達を

■標準化が動き出した

  藤村氏は、一般財団法人全国地域情報化推進協会(以下、APPLIC)のアプリケーション委員会(主査=清水康敬・東京工業大学名誉教授)教育ワーキンググループ(以下WG)の主査を務めており、2つのWG「データ連携標準仕様検討SWG」「教育クラウドガイドブック検討SWG」において、指導要録等原本の完全電子化を実現するための高度な情報セキュリティと20年間の保存に耐えるデータセンターでの運用ガイドライン、多様なアプリやベンダーの参入も活用できるようなデータ連携実現のための仕様、小規模市町村でも導入できるサービス調達のためのガイドライン作成に取り組んでいる。

  校務支援には、教育委員会事務と学校内事務があり、教員、事務職員、養護教諭など様々な立場の人が関わっている。「データ連携標準仕様検討SWG」では、教務システム、保健管理システム、給食システム、徴収金システムなど様々なシステムを提供している事業者のデータ様式を連携できるように標準化、異なったシステムであっても連携して稼働できるようにし、学習者に関する様々な情報データを統一して管理、必要に応じて抽出できる「学習者情報管理・評価指導支援データベースシステム」を構築、効率的な事務処理や教育の質的改善に活かすことができるようにする。標準化によって、異なるメーカーのシステムであっても必ずデータを継承できるため、「ベンダーロック」をかけられなくなり、次期更新時には安価で高性能な使い勝手の良いシステムへと更新しやすくなり、調達側の選択肢が広がる。

  その第一弾として、「教育情報アプリケーションユニット標準仕様V1・0」を平成24年6月に公表した。これは、小学校、中学校の指導要録、健康診断票等のデータ仕様だ。既に文部科学省より都道府県・政令指定都市教育委員会に周知済で、今後はこれに準拠した製品の導入が必要になる。高等学校と特別支援用も検討中で、年度内に学齢簿連携と特別支援用を加え、1・1にバージョンアップ予定だ。

■教育クラウドのメリットを生かす

  教育クラウドの導入により、システム開発や構築をせずに、迅速にサービスを利用できる。ハードウェアの更新も不要なので毎年度のサービス利用料金のみで費用負担を標準化できる。

  「教育クラウドガイドブック検討SWG」では、教育クラウドをハイコストハイパフォーマンスで活用するために、すでにあるシステムを共同でサービス調達する工夫も必要であるとし、データを「センシティブ」「ノンセンシティブ」に区別、「コミュニティクラウド」「プライベートクラウド」両者を組み合わせて活用していくことを推奨している。

  さらに、教育委員会あるいは地域ネットワークセンター単位で「共通」な「Web‐based」システムを導入することで、域内での情報共有や業務連携がしやすく、ブラウザだけで全てのシステムが活用できることで、利用者・管理者の負担が軽減される。また、割り勘効果により単独調達より安価に導入することができる。

  「『教育情報アプリケーションユニット標準仕様』『教育クラウド整備ガイドブック』の2つは今後強力に推進していく。『標準仕様』のバージョンアップ後は、校務支援システム調達の際には仕様書に『教育情報アプリケーションユニット標準仕様V1・1以上で準拠登録を行っていること』と入れてほしい。これに準拠し相互接続試験に合格した製品にはオレンジマークが付与されるので、目安にすることができる」

■札幌市も教育クラウド化

  藤村氏は今後のモデルケースとして札幌市の導入を紹介した。

  札幌市では、全国に先駆けて「教育情報アプリケーションユニット標準仕様」に準拠した校務支援システムを小・中・高・特別支援学校(全317校・児童生徒数約15万人、教職員数約1万人)に一括導入。教育クラウドは5年間のサービス調達で、データセンターは札幌市内で運用、超高速回線で帯広市内のデータセンターにバックアップ、それぞれ震度7相当に対応している。教員の負担増とならないようヘルプデスクやICT支援員も配置した。

■首長部局と連携して構築を

  「校務の情報化は教員を縛るためのものではなく、教員が安心して情報を活用できるようにすること。『校務を合理化することで教員の負担軽減をする』ことを校務の情報化の目的と定めると、予算がつかない例が多い。校務の情報化を進めることで、『児童生徒情報の共有・連携による質的改善・教師の力量アップ、安全の確保、子どものための時間増』など『子どものための教育改善』を実現することを目的に据えなければならない」と話す。

  導入の際には業務を見直し、紙入力と電子化入力を二重で行うような教員の負担増となる仕組みとしないこと。VLANによる校務用・教育用回線の切りわけや別端末利用はひと昔前の設計であり、教室等から入力できないのは問題と指摘する。
その解決のためには、教員だけでの検討では負担増になると共にセキュリティ上の問題解決が困難であることから、首長部局情報政策課と連携し、セキュリティと使い勝手の両面に配慮していくことが求められる。

  藤村氏は「授業の情報化・情報教育に必要な専門知識と校務情報化に必要な専門知識は別なので注意が必要。校務用端末と教育用端末に求められる要件も異なるので、一律にしないこともポイント」と話す。

  さらにICT支援員の配置や研修、ヘルプデスクなど導入時や運用時の教職員への負担軽減策を講じることや、学校文化に十分に配慮し、例えば高校用のシステムをそのまま小中学校に導入するなどがないようにすることなどもポイントとしてあげ、調達についてはプロポーザル方式(提案型)による総合評価法が望ましいとした。

  なおAPPLICでは地域の情報化の導入検討や計画策定に関するアドバイスのための地域情報化アドバイザーとAPPLICテクニカルアドバイザー(ATA)を無料派遣している。詳細=http://www.applic.or.jp/

【2012年11月5日】

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