一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS・辻本憲三理事長)では、ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害行為や学校などの組織における不正コピーの防止啓発、国内から海外まで著作権侵害における摘発の支援など著作権保護に関わる様々な活動を行っている。ACCSの久保田裕専務理事に、その一部が10月1日に施行される著作権法改正に伴って学校教育現場での情報モラル教育で何をどう取り組むべきかについて聞いた。
著作権法改正 経緯を知る
コンピュータソフト ウェア著作権協会 専務理事 久保田裕氏 |
携帯電話、スマートフォンなどをはじめとするインターネット端末の普及と、デジタル化技術の急速な進歩に伴い、漫画やアニメ、音楽などの著作物を違法にアップロードする、コピーして販売するなどの著作権侵害が蔓延し、摘発事例も増えています。また、検挙してみると未成年であった、という場合も少なくありません。
これらの著作権侵害は、日本のコンテンツ産業に深刻な影響を及ぼしています。
著作物の違法利用・違法流通が常態化していることから、今回の著作権法改正では、著作権等の技術的保護手段に係る規定の整備と違法ダウンロード行為の刑罰化が規定され、これらによって著作権等の保護が強化されました。具体的には、技術的保護手段の対象として、暗号型技術(DVDに用いられているCSS、Blu‐rayに用いられているAACS等)が加えられました。また、違法にインターネット上に公開されている有償の音楽・映像を、そうと知りながらダウンロードする行為には、2年以下の懲役または200万円以下の罰金、あるいはその両方が課せられることになります。
改正著作権法のうち、技術的保護手段に係る規定と違法ダウンロードの刑罰化の規定は10月1日から施行されます。アイフォンなどの携帯端末に音楽や映像をダウンロードしている若者も多いと思いますが、今回の改正により、自分の行為が問題となるかどうか心配になるところでしょう。
ダウンロード行為すべてが刑事罰の対象となるわけではなく、対象となるのは一般に販売されている音楽や映像を、勝手にアップロードしているサイトからダウンロードすることだけです。著作権者等の権利者が自らアップロードしている動画や著作権者等の許諾を得てアップロードされている音楽は、これまで通り私的使用目的の複製として著作権者の許諾なくダウンロードすることができます。また、アップロードされている動画をそのサイトで視聴する行為は著作権侵害には当たりません。
リッピングについては、技術的保護手段を回避して行う複製が私的使用目的であっても違法となります。レンタル店から借りた音楽CDをリッピングする行為は、今回の著作権法改正では影響を受けず、これまで同様に著作権者の許諾なく行うことができますが、レンタル用DVDをリッピングする行為は違法です。ただし、刑事罰は規定されていません。
表現教育から著作権教育を
情報化の進展に伴って、法整備もそれに従い行われることでしょう。そのような中、著作権教育はますます欠かせないものとなってきます。この情報社会で生きていくために、学校では今から何を教えるべきか。例えば今回の法改正についても「違法なダウンロードは処罰されるようになったからやってはいけない」という説明だけでは、何の教育的効果をもたらしません。既にその便利さを享受している子どもたちにとっては、知識としては持っていても、腑に落ちないあるいは納得できないものではないでしょうか。
学校ではまずは、「なぜ著作権法があるのか」、その上で、「今回の法改正はなぜ行われたのか」について教えていただきたいのです。著作権とは「自分でつくった著作物」を「無断で使用・利用されない権利」です。著作物とは「自分で考えたことや自分の気持ちを創作的に表現したもの」です。創作は人間だけができる知的な活動であり、漫画家の松本零士先生は、創作について、『「マインズ・アイ」、すなわち心の目を通し1人ひとりが生み出す作品はその人の人格そのものであること、そしてその創作の道は決して楽なものではない』と述べられています。いわゆるプロのクリエイターやアーティストだけでなく、学生・生徒も立派な著作者です。著作権法は、すべての創作者の人格や努力が守られる社会を築くことを目指して整備されており、その創作を守り、育てているのです。
そういう観点では、著作権教育を下支えするのは情報モラル教育です。ただし民主的手続きを経て作られた法律とは、「モラル」ではなく「ルール」であり、多くの場合、「ルール」に従わなければペナルティがありますので、注意してください。
情報モラル教育においては、著作物を生み出した人が得るべき権利をはく奪してはいけない、という倫理観の育成が必要です。その権利を侵害することはもってのほかであるという感覚を育むことが学校教育において求められているのです。
また、学校で散見されるのですが、まねぶ(真似る)ことと学ぶことについて誤解があるようです。表現教育においては、絵画や文章などについて、真似ることから学びが始まるという面もあります。真似ることで創作物のオリジナリティの尊さが初めて実感できますから、学ぶために尊敬の念をもって真似ることはこれまでもされてきたことですし、著作権法上は権利が制限されています。
教員の方々には、未来の表現者、創作者を育てているという思いで児童生徒の前に立ってほしいと考えています。
【2012年8月6日】
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