K12(幼・小・中・高)の一貫教育を行っている玉川学園(東京都町田市)では、平成23年9月から低学年校舎(小学校課程1〜4年)の全普通教室に電子黒板と実物投影機を導入、分かりやすい授業づくりに取り組んでいる。導入後5か月を経た1月27日、低学年校舎で授業が公開された。
書写のポイントを提示 |
電子黒板上で県ごとに学習 |
児童の書写を手本と重ね、拡大して比較 |
ワークシートにまとめる |
存在感ある迫力の大画面
全普通教室に導入されたのは、プロジェクター一体型のボード型電子黒板(「しゃべるくん」(サカワ))、超短焦点プロジェクター(エプソン)、実物投影機(エルモ社)、PC(Apple)、ブルーレイプレイヤー、スピーカーなど。電子黒板は87インチの大型ディスプレイを黒板に設置して使うスライド式16台、移動して使えるスタンド式9台、計25台だ。
ICT機器の導入について同校の渡瀬恵一教育部長(K‐4担当)は、「導入にあたり、本校の特色である探究学習を支援するためのツールとなり得るもので、従来の黒板と併用しやすく、導入による負担が可能な限りないものを選定するように配慮した。最も優先したのは、教室のどこからでもストレスなく見ることができる大きさ。当初はプロジェクターとスクリーンの導入を予定していたが、電子黒板の機能が進化したことから導入メリットが高いと判断し、導入当時の最大サイズ87インチの電子黒板とした。児童とやりとりしながら授業を進めるためには、拡大したり書き込んだり自作教材を作りやすいなどの機能は魅力」と留意点を述べた。
電子黒板などICT機器の導入後5か月を経た現在、教員はどう感じているのか。それについてのアンケート(教員回答数31)よると、導入前、機器の導入によって忙しくなるのではないかと懸念していた教員もいたが、導入後、ほぼ全ての教員が、電子黒板等の導入により多忙になったとは考えていないことが分かった。
また、電子黒板と実物投影機などの周辺機器の利用について、すべての教員が「資料提示がしやすく、授業の能率が上がる」、「指導内容を視覚的にとらえさせることができて効果的」、「実物投影機で手元を大きく映すことは効果的」と考えていることから、これらは導入後すぐに使いこなせる機能であることがわかる。
全学年全教科の授業を一斉公開
電子黒板に提示された○と□の関係を熱心に 考える児童たち |
クラス用PCを整備済。普通教室でも 全員でPCを活用した作業ができる |
当日公開されたのは低学年校舎全学級の21授業だ。そのうちこの日ICTを活用していなかったのは2授業のみ。
1年ゆり組では、硬筆書写の授業が展開された。導入で、電子黒板に自作教材を提示し、とめ、はね、はらいの注意点について児童に理解させた後、書写を練習する。留意点に注意しながら児童が書写をしたワークシートは、実物投影機で提示。赤字で書いたお手本の形と重ね、拡大して詳細を比較、廻谷教諭は「お手本と『ね』の結び方が同じだね」と確認すると、児童からは「すごい」と感動の声が起こっていた。
4年橘組の算数は、「いろいろな考え方を身につけよう」。峯尾教諭が自作教材を提示して、児童に2数の関係を考えさせた。□が5のとき、○は15。□が2のとき、○は13が提示される。児童からは「わかった!」と手が上がる。峯尾教諭が「□が14のとき○は?」と聞くと、「1」と正解がすぐに出る。□と○の合計が15であることを全員で確認する。
次の問題では、□が8のとき○は56、□が10のときは90、□が6のときは30が提示された。えー、わからない、と言いながらも熱心に考えている児童たち。正解は「□×(□‐1)=○」と、少々難しいが、演算の基本的な考え方を無理なく身につけることができる活動だ。電子黒板を使った提示により、少々難しい課題でも集中して考える様子が見られた。
3年月組では、九州地方の学習で、デジタル教科書や自作教材とワークシートを使って授業を展開した。
電子黒板に佐賀県の形を提示する。「これは何県かな?」
児童からの回答により何県か全体で確認した後、九州の全体地図を提示して佐賀県の位置を確認。県のシンボルマークやその理由、特産品、特徴などを写真や図などで電子黒板に提示、考えたり説明しながら学んだ後、児童は各自のワークシートで今学んだ「県」に色を塗り、特徴をまとめていく、という流れ。特徴を学ぶときは電子黒板でテンポよく進め、ワークシートを使って色鉛筆で県の形をなぞり、色を塗りまとめながら定着を図る。小宮山教諭は「丁寧に色を塗ったほうが記憶に残るよ」とアドバイスした。
4年松組では普通教室において児童用のノートPCを使い、調べたりまとめたりの活動をテーマに沿って行った。テーマは、「私たちの暮らしと水・ゴミ」。板書には課題を提示、電子黒板にはPPTでまとめるためのポイントを表示し、渡瀬教諭は児童1人ひとりの様子を見ながらアドバイスしていった。
玉川大学教職大学院 堀田龍也教授
公開授業後、堀田龍也教授(玉川大学教職大学院)は同校のICT活用について、「導入して間もないが、教師も子どもも無理せず普段の授業をより良くする形で使っている点が評価できる。玉川学園では伝統的に体験学習に力を入れているが、ICTはそれを強化、サポートするものとして活用できる。全ての授業で何らかの形で活用するためのスタートは、全教室整備にある。ICTは環境に過ぎないが学校環境に教育の質が左右される場合もある」と述べた。
同校では自作教材を授業の主流とする伝統があり、それはデジタルでも同様の傾向にある。それについては、「一斉指導を前提にした場合の良いデジタル教材とは、それを提示することで疑問や議論が起こる教材。全てのデジタル教材を教師が自作するのは無理がある。今後、既存の良い教材を見極めて使い分けていくことが必要」と述べた。
また、2008年の調査結果から「全教室に整備した学校では、教員は1時間あたり平均で3・3回、19分間電子黒板や実物投影機などのICTを使っている。また、83%の教員が導入時に使っている。ベテラン教員のほうが短時間の活用を様々な場面で行う傾向があり、多様な学習活動の蓄積から、ICTの使いどころを絞っている様子がうかがわれる」と分析した。
ネットワークで学校と家庭結ぶ
同校では1998年から24時間可能なコミュニケーションを目的に学校と家庭を結ぶネットワークCHaT(Children,Home,andTeachers)Netを構築している。学校生活の様子が画像や動画を通して家庭で見ることができ、欠席連絡や各種届出用紙、学校行事予定、試験範囲、休み中の課題なども提供できる。CHaTNet学習室ではK12(1〜12年生)までの計算プリントや国語、社会科などの学習ツールを提供している。
なお同校の新校舎が完成した1992年以来継続して利用され評価されているという経緯から、同校の導入PCはMacだ。デジタル教科書はMacOS上にWindowsOSを共有させて活用している。このため使い勝手が重くなる場合もあり、同校としてはMacでも軽快に活用できるデジタル教科書や教材を期待している。立教小学校や関西大学初等部などMacを活用している私学は多い。教材提供社にとっては、今後の検討課題となりそうだ。
【2012年2月6日号】