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【ICT活用】小・中学校、特別支援学校全1565教室に実物投影機
―倉敷市教育委員会

“表現活動”をデザイン

 岡山県倉敷市では市内小中学校・特別支援学校の全1565教室に実物投影機を導入し、ICTの利活用と授業の質向上に取り組んでいる。倉敷市教育委員会倉敷情報学習センターの藤本義博館長に、導入の経緯と活用状況、今後の予定について聞いた。

9割の教員が 活用している

 ICT環境整備における活用について、倉敷市では平成23年3月、小学校の学級担任全員を対象にアンケートを実施した。それによると、実物投影機の全教室整備に伴いICT機器を「ほぼ毎日」を含め、週に1回以上活用するようになった教員は約9割にも上った。藤本氏は「全教室の常設によって活用が一気に進む。まずは実物投影機を100%の先生が使ってほしい」と言う。

 活用促進については研修でもサポート。実物投影機を使って授業を行う教科や学年、領域を具体的に指定することで、全ての教員がなるべく早い段階で活用するようにした。その教育効果と手軽さに気付いてほしいという意図からだ。

発表する活動が 飛躍的に増えた

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児童のワークシートを実物投影機
で提示して解説
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木谷教諭が作成して提示したグラフ
の「誤り」について発表する児童

 全教室整備になってまだ間もないが、授業や児童にどんな変化があるのか。倉敷市立長尾小学校(磯崎校長)の授業を取材した。

 授業者の木谷教諭は、「子ども主体の授業のために、簡単に映して説明することができる実物投影機は大変役に立つ。様々な使い方が考えられるが、子どもたちに『表現力』を身につけさせるための活用を常に意識している」と言う。

 実物投影機のほかデジタル教科書や自作教材・資料を様々なシーンで使っているが、実物投影機のメリットは大きく二つあると述べる。

 一つは、大きくはっきり提示して視覚に訴えることができる点だ。

  例えば図や表、グラフ、絵を大きく提示、説明したり、それらを比較して、じっくりと考えさせたりすることができる。
児童の表現したものを大きく映せる点も大きなメリットだ。これにより、各自の考えを記したノート、ワークシートを映して発表する活動が各教科で飛躍的に増えた。

  「ノートなど児童の学習成果物を提示して説明を求める学習パターンによって、発表できる児童が増えるとともに、このような活動を何度も繰り返すことにより発表することが『当たり前』になった。この繰り返しで表現力、発信力を育てることにつなげたい」

  これまでも資料を活用した発表活動は行っていたが、大判プリンターで印刷したり、発表物を作成したりなどの準備に時間が多くとられる傾向にある。現在は実物投影機の活用により、毎日、毎時間のように「発表の場」を提供できるようになった。いまや「なくてはならない機器の一つになっている」という。

理解度に合わせ 臨機応変に対応

  2つ目は、臨機応変な対応が可能になること。その時間の授業のねらいがはっきりしていれば、子どもの反応に従って何を見せ、何を考えさせるかについて、寄り道をしたり、スピードを変えたりしながらゴールにたどり着くことができる。木谷教諭は、「授業中は、子どもの理解度を測りながら、何をどのように、どのタイミングで映せば理解が深まるのか、発表力がつくのかを常に考えて提示するものを変えている」と話す。

「繰り返し」で 「発信力」つける

  算数の授業でも、木谷教諭は子どもたちのノートやワークシートを実物投影機でデジタルテレビに提示、説明する活動を繰り返すことで、比例についての理解を深めていった。

  「横の長さが2倍になると面積も2倍になるので、この2つの数字は比例していると思います」

  「面積÷横の長さは必ず2になるので、比例していると思います」

  児童が提示しているのは、「縦の長さが決まった四角形の横の長さと面積の変化」について、表やグラフにまとめたワークシートだ。各自のワークシートをデジタルテレビに提示し、児童は「自分の考え」を発表していく。この活動も、木谷教諭の「数、式、図、表、グラフは算数における『言葉』。式のみではなく様々な『言葉』で表現できる変換能力をつけさせたい」という授業目的からだ。45分間の算数の授業で前に出て発表した児童は、教室の約半数に上った。

  木谷教諭は、「時間の制約のある中、実物投影機は、様々な言葉で表現する活動をデザインするツールとなっている」と述べる。

  磯崎校長は、「全教室整備によって活用度が上がった。スイッチを入れたらすぐに使えるという点は大きなメリット。壊れるくらい使って、よりよい授業作りに取り組んでもらいたい」と語る。

  藤本氏は「今日の授業を見て、授業のゴールや、育てたい子ども像がしっかりしているほど、効果的な使い方ができるということを改めて実感した。授業目的を実現させるための活用を倉敷市の先生方に広げていきたい。稀に、使えと言われたから使っている、という声も届く。そのようなスタンスでは効果が上がりにくく大変もったいない」と述べた。

倉敷市の整備計画

  倉敷市では、昨年度から今年度にかけ、市内小学校63校・特別支援学校1校の全教室に実物投影機「みエルモん」を導入した。中学校26校については、今年度は特別教室に、来年度は全教室に導入する。なお高等学校については、平成25年度までに全教室整備を進める考えだ。

  市内小学校には、大型テレビ(50インチ)及びプロジェクターを全普通教室に各1台、教育用PCを全教室に各1台整備しており、無線LANも構築済だ。デジタル教科書については、国語、理科、地図帳を導入済。算数のデジタル教科書の要望も多く、現在1校で実証実験中だ。市内中学校についても、来年度から実施される新学習指導要領に合わせ、準備中だ。

【2011年11月7日号】


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