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◆教育の情報化実態調査 〜校務支援システム 上級学校ほど整備
◆福岡県直方市教育委員会 〜ビジョンを構築してシステムを選定
平成23年3月における「教育の情報化実態調査」によると、校務支援システムのうち「グループウェア」を整備している公立小中高等学校は、いずれも6割弱。また、出席情報や成績情報管理など「校務支援システム」を整備している学校は、小学校では46・5%、中学校では55・3%、高等学校では75・8%と、上級学校ほど高い。
どちらも整備している学校については、高校が最も整備率が高く5割強。小学校及び中学校では、4割弱となる。また、どちらも整備していない学校は小学校で最も高く、3割強。高等学校においてどちらも整備していない学校は16%弱であった。
福岡県直方市では、今年度より校務支援システムを導入している。その導入の経緯と活用状況を聞いた。
直方市立植木中学校の大塚教諭は、「校務情報化の進において、市内中学校では学校間格差があり、個人的に構築したシステムにおいても、ハード・ソフト両面に精通した教員が在籍している必要があった。また、校務情報化の推進について、管理職や教員の意識の差も大きく、校務情報化の大きなメリットよりも、小さなデメリットに目を向ける状況であった」と話す。
そこでこれらの状況を解決するため、校務の情報化が必要と考える植木中学校・石田栄一校長が教育委員会に働きかけ、直方市としての組織作りに着手した。その組織では、課題を明らかにしてビジョンを構築、ソフトやシステムを選定して研修を進めていった。
組織作りと同時に、校務支援システムの構築についても検討した。他自治体の導入・活用の実態や状況を調査し、同市において最適なシステムを検討、予算を確保した。予算確保の際は、校長会での説明が重要なポイントになったという。
現在同校の職員室には全教職員にPCが配備され、校務系ネットワークが別回線で構築されている。市では、同様のシステム構築を全小中学校に進めているという。
市内中学校では、グループウェアとしてサイボウズを導入し、スケジュール管理や提出文書、会議等の資料配信・送信などに使っている。これにより、会議用資料の印刷が大幅に減った。過去文書は専用キャビネットにNASを配置、ここにデータを保管している。これにより過去文書の閲覧がしやすくなり、資料作成の時間を削減することができた。
学校文書データや校務の持ち帰りは原則禁止だが、パスワードで保護できるセキュリティUSBメモリを配布し、自宅でも仕事ができるように配慮している。
具体的には、USBメモリ内のデータについては、登録されたホストPC上でのみコピーや別名保存、印刷ができるが、それ以外のPCではUSBメモリ上でしか作業できず、コピーや印刷などはできない仕組みとした。
データセンターにファイルサーバを設置し、全教職員の個人データはそこに保存することで、異動先でもデータにアクセス、取りだすことができる。
さらに、出席状況や成績管理、通知表、指導要録や調査書などを一元管理するために導入したのが、校務支援システム「幸曜日(こよみ)」だ。
直方市教育委員会では、導入を決めたポイントについて、直感操作で簡単に使うことができ、教職員の校務スタイルをそれほど変えずに導入できる点、これまでExcel等で作成管理していた校務データを活用できる点、名簿や成績などの個人情報を安全に一元管理できる点を評価したとしている。
校務支援システムについては、円滑に活用できるよう慎重に導入を進めた。
校務支援システムの最初の一歩は「出欠管理」から始まるが、導入当初から全教職員が毎日PCに向かって入力するのは負担が大きいという考えから、当初は、週末にまとめて出欠データを入力し、自動集計機能で通知表に入力していくというスタイルからスタート。その後、月ごとに入力、週ごとに入力するなど、学校事情に合わせ、徐々に進めている。
校務支援システム導入によって一元管理が可能になったため、校務に関する作業も楽になり、校務作業に伴う情報漏えいリスクも低減したという。
導入企業は定期的に学校訪問してサポート。システム管理の負担も少ない点もメリットだという。
■校務支援システム 「幸曜日」(こよみ)
成績管理を始めとする小中学校の多彩な事務作業(校務)をサポートする校務支援システムとして、昨年10月発売。教育現場の多様なニーズに合わせて設定できる柔軟性、直感的に扱える操作性、小中学校の教職員などが日常的に活用しやすい点が評価されている。校務支援システム導入の際、各学校からは、カスタマイズが求められる場合が多い。細かいカスタマイズによる追加料金がかさむことで導入に支障が出る場合もある。そこで「幸曜日」は、柔軟なカスタマイズ機能を同梱。これによりカスタマイズによる追加負担をなくした。
現在、高知県や福岡県苅田町など自治体単位で導入が決定しているほか、約70自治体で導入が検討されている。私立学校からの問い合わせも多い。クラウド展開に向けた準備も現在進行中だ。
佐賀県では平成23年度より、先進的ICT利活用教育推進事業を展開している。今年度は、職員研修やインフラの整備と共に、学習者管理システム(LMS)、教材提供学習者ポータル(LCMS)、校務支援システムの3つを統合した新たな教育情報システムの構築を進める。
平成23年度においては、ソフトバンクグループのエデュアス及びベネッセコーポレーションが共同で開発してプロトタイプ版を作成。実証研究の中心校である致遠館中学校・高校(中高一貫教育校)において教育情報システムの検証を行う。同校では、電子教卓・電子黒板・学習者用端末を備えたユビキタスルーム(モデル教室)も設置する。
このほか、今年度は中原特別支援学校、太良町及び玄海町において実証研究に取り組み、平成24年度は、県立学校において対象校を拡大し、各市町と連携、市町立学校でも取組を促進する考えだ。
なお平成25年度は、ICT利活用教育の先進的事例として全国に向けて発信していくという。
同事業の推進に当たり、同県では、本部となる教育情報化推進室を新設。県及び全市町の教育長等を会員とした「佐賀県先進的ICT利活用教育推進協議会」を設置し、県教委が委嘱した推進員や外部人材等から成る「推進チーム」を発足、県全体での推進体制を強化、推進していく。
佐賀県では現在ICT関連で様々な事業を展開している。
主なものは、総務省フューチャースクール事業(佐賀市立西与賀小学校、県立武雄青陵中学校)、総務省教育絆プロジェクト(佐賀市立赤松小学校、同若楠小学校、武雄市立山内東小学校、同武内小学校)、東京大学先端科学技術研究センターとの研究協定による「魔法のふでばこプロジェクト」(県立ろう学校、県立金立特別支援学校)など。また、県立太良高校では、電子黒板やニンテンドーDSなども活用した個別学習支援等も推進中だ。
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7月20日に開催された第1回佐賀県ICT利活用教育推進協議会で、佐賀県教育庁教育情報化推進室の福田孝義室長は、「ICTの利活用が学力向上に効果があることはすでに諸調査等で実証されている。佐賀県では『どのように整備を進めていくのか』、『どのように授業に活用していけるのか』という観点から検証していく。各市町においては、今後教育の情報化を、それぞれがどのような手順で進めていくのかを首長に判断してもらいたい」と述べた。
参加者からは、「今年度からICTに関わる問題を教員採用試験の中に入れているが、これから教員を目指す人は、機器を一定程度使えるようになっておくことも必要」、「ICT利活用教育を実のあるものにするためには、それぞれの年代の教員にあった研修が必要」、「県の教育長が強い意志で取り組むという言葉がうれしい。前向きに取り組んでいきたい」という意見が出た。
大分県教育委員会では平成22年度から情報化推進班を発足し、組織強化を行うため教育情報化ファシリテータや教育情報化コンシェルジュ、教職員のICT業務全般をサポートする教育委員会ヘルプデスクを外部委託により設置した。
また、ICT支援員を雇用し学校のCMSや機器の取扱などの研修支援やソーシャルネットワーク、教育クラウドサービス、iPad支援などに積極的に取り組んでいる。校務支援システム等の整備についても同時に整備の検討や導入を開始した。
文部科学省の「教育の情報化実態調査」(平成23年3月)において、大分県全校種での校務用PC配備率は115・3%だ。これは、大分県立学校では事務職員、講師、養護教諭を含めた全教職員に配備しているのに対し、調査対象が教員となっているため。平成22年度に全小中学校・約500校の全教職員に、平成20年度に全県立学校・73校の全教職員に配備済だ。
校務用PCのさらなる活用及び教員の負担軽減を目指すため、校務支援システムの導入を検討しており、今年度より、全県の小中学校及び県立学校において、メールや掲示板、スケジュール管理、教材の共有等が学校外でもできるよう、OEN(大分教育ネットワーク)システム(Google社のクラウド技術)の導入を進めている。
県教育委員会・情報化推進班の岡田克文氏は、「教材や教育情報、連絡事項などを共有できる仕組みが必要であると考えた。クラウドサービスを利用すれば、出張中や自宅などの校外からでも情報を利用することができる。システムの活用によって各学校は朝礼などでとられる時間の短縮化や連絡体制を強化することができる」と述べる。
今年度は同システムの全校稼働に向けて取り組み、現在各校で順次活用がスタートしている。
成績処理や成績管理などの校務支援システムについては、現在機能について設計、開発中。来年度の新入生から情報管理をスタートできるよう準備中だ。
岡田氏は、「ICTを使うメリットを感じていない教員にその良さ、有用さをどう伝えていくのかが今後の課題。研修などでフォローしていきながら、校務処理を効率化し生徒と向き合える時間を創出したい」と述べる。
群馬県では、教員の負担を軽減する目的で、全県で統一した校務支援システムの導入を決めた。県下の各市町村ではその方針を受け、「群馬県版校務支援標準システム」の導入を順次進めており、平成23年度現在全506校中、220校が「群馬県版校務支援標準システム」の活用をスタートしている。そのうち通知表まで活用しているのは180校だ。県統一版導入の方針を打ち出した意図と経緯を群馬県教育委員会・義務教育課指導主事の木口卓哉氏に聞いた。
平成17年度、群馬県内の小中学校教員を対象に「教員のゆとり確保」のための調査を実施したところ、多忙感を感じている教員は97%にも及んだ。そこで平成18年度より群馬県市町村教育長協議会「教員のゆとり確保専門部会」の中で、校務の効率化・IT化について検討を開始。平成19年度、「群馬県版校務支援標準システム」を導入し、県全体に定着させていく方針を決定した。
その結果標準システムとして採択されたのが、(株)EDUCOMの校務支援システム「エデュコムマネージャーC4th(シーフォース)」(以下、「C4th」)だ。グループウェア機能に加え、子どもの出欠や通知表、調査書、指導要録の作成、保健管理など学校に特化した機能が特徴で、選定にあたっては、学校に特化したシステムとして開発されている点、研修やサポートが充実している点などが各自治体の指導主事、情報化整備担当者から評価された。平成20年からは、各市町村の担当者が参加する連絡協議会において、具体的な導入方法、予算取りのための情報交換などが行われ、準備が進んだ各市町村から順次「群馬県版校務支援標準システム」の導入を開始した。
県統一版化で コスト削減も
県統一版としての導入には、様々なメリットがある。
第一に、経費面のメリットだ。調査書や指導要録などを県統一版としてカスタマイズすることで、市町村ごとに必要なカスタマイズの手間などを大幅に軽減でき、導入費用の軽減につながる。
統一化により、校内はもちろん、学校をまたいだデータ連携もしやすくなる。成績から指導要録まで一元管理が可能になり、過去の指導経緯も集約・蓄積、参照しやすくなる。市町村間で教職員が異動しても、同じ仕組みを使っていることで業務に慣れるために必要な時間を軽減できる。
特別支援学級や中学校などでも標準化を進行中
県統一版としてシステムをカスタマイズするためには、帳票そのものの統一が必要だ。群馬県では、小学校において指導要録の様式が大幅に変わるタイミングで、県統一版を作成。来年度は中学校においても統一を進めていく。また、特別支援学校や特別支援学級の指導要録も子どもに合わせ、複数のパターンから選択して使えるようにした。さらに、児童生徒ごとに評価項目や内容が細かく異なることから、統一することが難しい特別支援の通知表についても、パターン化された通知表を利用したり、各校で簡単に通知表のレイアウト変更ができるようにするなど、柔軟性を持たせることで統一を図る計画だ。
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各校からはどのような声が届いているのか。
県では実態調査を毎年実施しており、平成22年度末には、校務支援システムの導入年度ごとに、負担減になったと感じられる校務内容と効果が上がったと感じられる教育内容について調査した。
それによると、教育内容について特に回答が多かったのは、「休日及び時間外勤務時間の減少」、次いで「授業準備・教材研究時間の増加」、「作品やノート評価の時間の増加」であった。
最も負担減になったと感じる校務は「出席簿の作成」だ。導入後半年以上を経過すると効果を実感する教員数が急増し、8割以上がその効果を実感している。次いで、「通知表の作成」、「指導要録の作成」が続く。これら3つは最終的には全校で使用することが推奨されており、データ連携の効果が最も現れやすいものと言える。いずれも導入時期が早いほど、負担減を実感する教員の割合が多くなる。
木口氏は、「校務の情報化の目的は、子どもと向き合う時間を増やすこと。今回の調査結果では、子どもと向き合う時間が増えたと回答した教員数は増えつつあるものの、多いとはいえない。今後はその部分の伸びを期待したい」と話す。
JMCでは教育専用クラウド「and.T(アンドティ)」を提供している。これは、教育クラウド上のポータルサイトをベースにWebアプリケーションを安全に利用できる環境を提供する「教育の情報化基盤サービス」だ。
スケジュール管理や掲示板などの基本機能のほか、ICT支援員予約カレンダー、グループウェアメール、学校連絡網・携帯メール配信、校務支援システムなどを利用できる。
現在導入している校務支援システムのクラウド化も可能で、いつでもどこからでも安全にアクセスできる環境が提供される。
活用促進のために、ヘルプデスクやICT支援員派遣、教育情報化を進めるためのコンサルティング、情報セキュリティ保持のためのコンサルティングなどのサービスも提供。ICT支援員カレンダーでは、支援員の支援内容を蓄積でき、各校で必要とされる支援内容が上位に提示されるなど、活用促進につながるものとしている。
詳細=http://www.jmc.ne.jp/service/andteacher/
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校務用PCの配備率は9割を超えた。それに対して教育用PCの整備率はまだ途上と言える。
しかし整備予算は限られている。同じ予算で倍以上のPCを導入することができれば問題は解決する。それを可能にするのが「Zeroクライアントシステム」(セイロジャパン)だ。
これは、1台のPCを利用して5〜10人のユーザがPC環境を利用できるシステム。
同社が日本の教室向けに推奨しているZeroクライアントシステム「L300モデル」は、モニターの後ろに設置、ホストPCとキーボード、マウスと接続することで、各ユーザに固有のPC環境を提供できる。リプレイスする際もホストPCのみの入れ替えですむことから、PC教室のPC導入費用の大幅減が可能になる。
導入実績は全世界にあり、教育関連では、PC教室のほか、図書館、語学学習室、事務室、普通教室など3年間で260万台以上が普及した。この数字はAPEC地域でナンバー1だという。
アメリカにおいては、小中学校に20か月で4000校・50万台を納入しており、1人当たりの導入費用を75%、運用費用を70%削減できたという。マケドニアでも、「Zeroクライアントシステム」により、全公立校の児童・生徒1人に1台のPC環境を実現。導入コストは半分以下で済んだという。
セイロジャパンでは、「電気代は約50%、機器導入コストや約40%、メンテナンス費用は約25%、次期リプレイス費用は約30%を削減できる。これにより、例えばPC教室をリプレイスする費用で、普通教室でのPC配備や校務用PC配備に寄与できる可能性がある」と話す。
【2011年10月3日号】