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最新IT教育―実践、成果を報告― |
文部科学省は、教育の情報化の取り組みを計画的・意欲的に進める学校や地域を支援するため、平成20年度から3年間に渡り、調査研究事業「教育情報化総合支援モデル事業」(平成20〜21年度)、「確かな学力の育成に係る実践的調査研究(平成22年度)」を実施してきた。同事業に採択された5つの自治体は、7月7日、文部科学省において「教育の情報化における教育CIOとICT支援員の役割」研究発表会において、3年間の取り組みの成果と課題を報告した。
■群馬県教育委員会 |
■兵庫県教育委員会 |
■広島市教育委員会 |
■半田市教育委員会 |
■西宮市教育委員会 |
■ICT支援員からの提案 |
支援員は業者と学生 成果はWebで共有 指導主事 根岸卓 氏
群馬県教育委員会は、文部科学省の指定を受け、伊勢崎商業高校、富岡高校、大間々高校、前橋商業高校、沼田女子高校、藤岡中央高校を研究指定校とし、取り組んだ。
取り組みの最初の段階で、学校の実態を把握するため、教員に対してICT機器活用状況アンケートを実施した。その結果、教員の65%が授業でICT機器を活用していないことが分かった。その理由としては、「授業で活用した際の効果が実感できていないこと」、「具体的な活用事例の不足」、「授業で使用できる教材の不足」などであった。
ICT整備事業で、県立高校に、プロジェクター、書画カメラ、シート型電子黒板を各1セット整備した(研究指定校には各3セット)。さらに校務用PC400台、教育用PC1064台を整備し、教育センターにおいて整備した機器活用の研修会を実施した。ICT機器に精通していない教員を対象に、各校から1〜2名が参加し、ICT機器の操作方法やICTを活用した授業の進め方などを研修した。研修終了後のアンケートでは、86%の参加者から「今後の授業でICT機器を活用したい」という回答が得られた。
研修に参加した教員は、授業で実際にICT機器を活用し、その内容を「ICT活用 私の実践」として提出する。それをWeb公開し、研修成果の共有を図った。Webはユーザー名とパスワードを入力して利用するクローズド形式である。
ICT支援員は研究指定校に配置し、業者に委託するとともに上武大学や群馬大学の学生に依頼し、生徒に近い視点の支援が行えるようにした。
実際の支援内容は、授業改善支援、校務の情報化支援、セキュリティ対策支援である。支援内容や成果と課題を把握するためにICT支援員に実施報告書を提出させた。
実際にICT支援を受けた学校からは「機器の設定を支援してもらえるので、スムーズに授業を行うことができる」などの感想があがった。
平成20年度は各校の現状把握を行いながら、ソフトウェア活用支援や、校内ネットワークやセキュリティに関する校務支援を実施、21年度は校務支援から授業支援にシフトし、22年度は授業支援が中心となった。最終的にはPCを苦手とする教員からも支援を依頼されるようになり、支援の輪と共に活用が広がった。
週3日常駐で定期的に 学校長とミーティング 教育企画課主任指導主事 中野卓哉 氏
兵庫県教育委員会は、ICT支援員による効果的な支援のあり方について県立高等学校6校で検証した。
初年度である平成20年度は、学校の要請に応じてICT支援員を派遣。しかし、ICT支援員が派遣の度に異なることについて学校から苦情が届いたという。そこで、2年目以降は学校にICT支援員を常駐配置。同じICT支援員がサポートする体制が取られた。
当初は週2日の配置としたが、活動を続けるうちに学校から常駐日数の増加要望があがり、週3日の常駐体制となった。
学校に常駐するICT支援員には、基本的なICTのスキルに加え、コミュニケーション力が求められた。教員とコミュニケーションを取りながら、今求められていることを導きだすことが、理想的な支援につながる。研究指定校の中には、ICT支援員を職員室の中央に配置した学校もあり、教員とコミュニケーションをとりやすい環境づくりが配慮された。
ICT支援員がスムーズに支援を行えるための体制づくりも重要だ。教育CIO、学校CIO、情報教育担当教員、ICT支援員の縦のつながりと、学校間における横のつながりを構築した。
ICT支援員は孤立しないよう、ICT支援員同士の交流機会も設けた。対面だけではなく、ブログや掲示板をICT支援員のコミュニティの場として活用。各学校でどのような支援を行っているか共有するとともに、悩みも相談し合えるようにした。
ICTの活用においては、情報担当の教員に集中しすぎないよう、「ICT能力向上ワーキングチーム」「校務処理ワーキングチーム」など、複数の教員によるチームを編成した。全教員がどこかのチームに所属し、定期的にチームの報告会を実施。各チームにリーダーを置いて、組織的なICT推進への取り組みが進められた。
学校CIOのビジョンを達成するため、学校長とICT支援員による定期ミーティングの場を設け、どこまで支援が進んでいるのか話し合うようにした。その中で、次の段階の依頼が校長から出てくると同時に、学校長と話し合うことは、ICT支援員のやりがいを生み出した。また、若手教員のミーティングにも参加、どのような支援が必要か現状を把握した。これらミーティングへの参加は、常駐先の学校の特徴を把握し、求められている支援のあり方を見極めるのに有効であった。
支援員は学生メインで 電子会議室で情報共有 総務課・教育ICT化 推進担当課長 末定勝実 氏
広島市では、ICTを活用した授業の記録を残すため「ICT活用実践共有シート」を作成している。授業でICTを活用した場合、活用の類型や使用機器、使用コンテンツやソフトなどをシートに書き込むことで、教員同士が授業情報を共有するものだ。
ICT支援員には専門的な知識並びに学校教育への興味関心が必要となるが、広島市のICT支援員の特徴として37名のうち31名が、大学生または大学院生ということがあげられる。広島市周辺の7大学に依頼し、平成22年度は37名がモデル校となった21校(小学校11校、中学校8校、高校1校、特別支援学校1校)に派遣された。児童生徒と年齢が近いため、すぐに打ち解けられるほか、教員が気軽に相談できるというメリットがある。教員志望の学生がICT支援員になる場合が多いので、職業体験ともなる。その反面、大学の授業がある時は支援ができない、遠隔地の学校に派遣できる支援員が限定されるという課題もある。
ICT支援員は平成20年度に14名でスタートし、21年度は30名、22年度は37名となり、23年度も45名から申し込みがあった。活動時間は平成20年度に1010時間。21年度は3153時間、22年度は7606時間と急激に伸びた。
ICT支援員のコミュニケーションツールとして、支援員相互の情報交換を行うための電子会議室を開設した。教員と支援員の連携を図るための情報交換ノートなども活用し、支援員同士や教員とのコミュニケーションを深めることで活動の活性化が図られている。
また、大学生のICT支援員とは別に、広島県の緊急雇用対策基金を活用し、求職者を雇用、全ての市立学校を対象に、ICTサポート員の派遣も行っている。ICTサポート員は、教員に対して基礎的なICTスキルの研修・指導を行い、PC設定やウイルス対策ソフトのインストールなど校務関連もサポート。昨年10月から今年3月末まで、1校あたり週3日派遣された。今年度も引き続き週1回程度派遣される。
モデル校の教員約500名を対象にICT活用指導力についての調査を実施したところ、モデル事業開始時点と比べ、教員のICT活用指導力が向上し、概ね100%達成した。児童生徒の情報活用能力も、87・1%にまで上がった。
ICT支援員は シニアボランティア 教育CIO補佐官 長尾幸彦 氏
愛知県半田市では、教育CIO中心のサポート体制によって「ICT活用による授業改善」と「システム活用による校務の効率化」を目指している。これにより子どもと向き合う時間を増やし、豊かな学びを実現させることがねらい。
半田市のICT支援員は、20年度は民間の人材派遣会社に委託していたが、21年度から地元のNPO法人PCマザーズによるシニアボランティアを活用している。
派遣の目的は、ICTを苦手とする教員の底上げだ。教員への講習、授業での操作支援、普通教室での機器セッティングなどを行う。機器の故障やシステム保守などのトラブルは、ヘルプデスクがワンストップで対応し、依頼内容に合わせ、保守業者などに割り振る体制だ。
教育向けコンテンツ作成など、高度なプログラミングを要する依頼の場合は、厚生労働省の緊急雇用創出事業の予算で確保したデジタルコンテンツチームを学校に派遣する。これにより、平成21年度は77コンテンツ、22年度は44コンテンツが作成された。
ICT支援員を派遣するにあたり、まず解決すべき課題となったのが「外部の支援員を受け入れることへの学校のアレルギー払拭」だ。当初は学校とシニアボランティアの間で軋轢を生じることもあった。そこで「支援員と学校のコミュニケーションを密にする」、「支援員研修を頻繁に行う」といった解決策が図られた。
2つめの課題は「派遣の目的の認識のズレによるミスマッチ」だ。教員のICT活用力底上げが目的だったにも関わらず、PCの保守点検などの依頼を受ける場合もあり、教員が多忙で打ち合わせができなかったこともコミュニケーション不足につながった。そこで解決方法として、WEBから支援員の派遣を申し込むシステムを導入。申し込む際に「希望する支援内容」を明記するようにした。その結果、機器準備などの支援が減少し、デジタルカメラを使った調べ学習で児童をサポートするといった具体的な授業支援が増えたという。
事業の成果として、「ICT機器を積極的に授業で活用したい」教員は2年間で14・5%増加、「ICT機器を利用することへの不安」は11・1%減少、「ICT機器活用は授業改善につながる」は13・2%増加した。
ICT支援員で 学力向上に成果 指導主事 森本英治 氏
兵庫県西宮市では、平成21年度には行政職2名、教育職2名からなる「学校情報化推進グループ」を新設。サポートデスクを設置して、支援環境を整え始め、平成22年7月にはワンストップ体制を整えた。教育CIOは西宮市長、教育CIO補佐は教育長、学校CIOは、各校の校長もしくは園長だ。さらに具体的な事務をする役目として学校CIO補佐2名を設置。うち1名は事務職員、もう1名が教員だ。
教育CIOを市長が兼ねることにより、教育委員会だけでなく、情報政策部などと連携して情報化を推進できる。
教員に対して実施したアンケート調査の結果からは、以下の3点が重点課題として求められた。(1)「ICT関連機器やシステムが十分に活用できるよう教職員対象の研修を拡充する」、(2)「セキュリティを確保しつつ、使いやすさを実感できるシステム開発をする」、(3)「教職員のICT活用を支援するため、サポートデスクやICT支援員の活動を充実させる」。
西宮市のICTサポーターは、平成21年度と22年度は市内全校に各校あたり4時間×15回配置された。推進モデル校については、さらに追加の時間を用意。活動人数は22名で、1人あたり2〜4校を受け持つ。
こうした体制で実施してきた内容は、「支援体制・推進組織の確立」、「学校情報化のビジョンの策定」、「教員からの意見の集約・フィードバック」など。取り組みの効果としては、「教育CIO、学校CIOの位置づけと学校情報化の役割が明確化した」、「教育委員会の各部署が進めていた学校の情報化を一本化した」、「予算化やセキュリティ設計が実現できた」、「課題を明確にして支援を焦点化できたこと」などが挙げられた。
西宮市では、学校の情報化のビジョンを示したリーフレットとして「HOP STEP JUNP」を作成し、平成21年度に全ての教員に対して配布。リーフレットには、それまでPC教室で特別に行われていたICT活用ではなく、普通教室で普段の授業からICTを使うことや校務負担の軽減など情報化の目的について明記されている。
22年度の取り組みとしてモデル校では、ICT支援員の配置時間を増やし、指導主事が重点的に訪問した。また、ICT支援員の中からリーダーを設定し、リーダーを中心にサポーター会議を開催し、横のつながりを強化してきた。
元・西宮市 ICTサポーターリーダー 吉田将司 氏
求められる能力は5つ
西宮市では、実際に学校に派遣され、ICTを活用した授業のサポートにあたっているICTサポーター(ICT支援員)により、3年間の活動を通した成果と、ICT支援員を活用してもらうための提案がなされた。
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「まだ支援時間が十分とは言えないので、より支援時間を増やすことが求められている。1回の支援時間は、例えば授業前の準備から授業後の反省まで行えるだけの時間が望ましい。ICT活用格差については、学校内での教員の格差と学校間格差の両方を解消する必要がある。これまでICT支援員は、教員や児童生徒のICTへの興味を引き付け、ICTを活用してもらうことが役割と考えて活動してきた。しかし、ICTを使うだけではなく、ICTを活用して、子どもの学力や学習意欲を向上させることが、これからの目標となる」と述べ、そうした目的を達成するために、ICT支援員に求められる能力について以下5点にまとめた。(1)人間関係力(先生・児童生徒と信頼関係を築くコミュニケーション力)、(2)ICTスキル(ICT活用に安心を担保できる確かなスキル)、(3)学校理解(学校教育、学校現場に対する理解と意欲)、(4)授業力(授業への理解、授業へのICT導入のイメージ)、(5)共感性(児童生徒の「楽しそう、やってみたい」に共感できる心)。
これら5つの能力の全てが常に必要というわけではなく、「導入期」は(1)(2)(3)の能力を持ち、特に(1)が最も重要なICT技術者系の支援員、「展開期」は(1)〜(5)全てを持ち、特に(1)(2)が重要なICTインストラクター系の支援員、「充実期」は(3)(4)(5)が重要な教員系の支援員が求められると整理した。
【2011年8月1日号】