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韓国の英語教育

全英連企画で教育視察

 全国英語教育研究団体連合会は3月末に韓国の英語教育視察を企画・実施した。小中高等学校・大学教諭など総勢34名が参加し、韓国の小中高等学校、英語村の授業を見学、文部科学省でレクチャーを受けた。韓国の英語教育の進展は目覚ましいものがあり、参加したメンバーは特に小学校の英語授業のレベルの高さに衝撃をうけたようだった。小学校から高校まで授業はすべて英語だけで行われていた。

公立ポジョン小学校 公立ドコック中学校 公立ミョンイル女子高等学校

公立ポジョン小学校

専任教師とネイティブで ワード・絵で"仕事"を推測

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▲投影されるワードを見て職業を推測する
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▲「あ、分かった」3つ目にワードで手があがる
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▲今度は写真から職業を推測する
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▲オーストラリアの小学校とテレビ会議
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▲「ハングル文字を作ったのは誰?」とクイズを出す
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▲英語ルーム・ゾーンの入り口

 公立ポジョン小学校(Bojeong Elementary school)はソウル市の南方、バスで約1時間の龍仁市にある。訪問すると、「歓迎、日本のイングリッシュティーチャー」という横断幕とともに出迎えてくれた。幼稚園が1クラス(29人)併設されていて、児童数759名、クラス数25(学年4クラス、5年生のみ5クラス)。教職員は司書、科学補助教師、放課後教師などを含め46名だ。

  韓国では3月上旬に新学年がはじまる。英語の授業は昨年まで3年生と4年生で週に1時間、5年生と6年生で週2時間だったが、今年度から1時間ずつ増え、それぞれ週2時間、週3時間になった。英語の授業は英語専任教師3名とネイティブ補助教諭1名が担当し、学級担任は他教科を教えている。

 校内を英語に親しめる環境にするため、次のような多数の教室やコーナーが設けられている。ネイティブ補助教諭(以下、ネイティブと略)と専任教師が共同で教える英語専用教室、ビデオ会議専用の教室(グローバルセンター)、英語で買い物や販売を模擬体験するルーム(Activity Zone)、ロールプレイ用のルーム(Event Zone)、ランチタイムと放課後にクーポンを使って英語で軽食を注文できるEnglish Cafeなど。図書館には英語の本が800冊、英語の電子ブックが500巻あり、英語の絵本や雑誌が目立つところに展示されている。

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▲Kim校長

 Chang‐Ryoung Kim校長の歓迎の挨拶とSung‐Jun Park教諭の説明後、校内の施設と授業を視察した。English Classroomでは6年生の授業「Guess the job」ですべて英語でやりとり。専任教師がPCを操作しながら中央のスクリーンに仕事を連想させるワードを順に5段階で投影した。"If you know what the jop is,please raise your hand.""What about this?" " Knife"→" White cup"→" Apron"→…。スクリーンの脇に立ったネイティブが投影されたワードを発音したり"You know,right?"と児童に問い、手を上げた児童を指名したりする。専任教師、ネイティブ、児童一緒にワードを発音しながら、最後まで待たず大体3番目ぐらいのワードで、"Cook""Police Officer""Driver""Doctor"など児童が正解を答えている。

 続いて、写真から仕事を推測する。"Librarian""Publisher""Pharmacist""Butcher"などをイメージさせる写真や絵を投影、児童が答えていく。徐々に調子が上がって手を挙げる人数が増えていく。推測が難しいワードでは、ネイティブが"a Publisher,in a company,makes the books"などと説明、ヒントを出す。

 こんな自然で愉快なやりとりも。ネイティブ"Home school teacher come to your home and teach you." 専任教師"You want to have a home school teacher?" 児童"No." 専任教師"You want to be happy to come to school?" 児童"Yes."専任教師"Thank you."

  専任教師とネイティブの息もぴったり合い、授業が流れるように進行している。ネイティブに使用していたソフトについて聞くと、パワーポイントで自作したもので、授業で効果のある写真についてネイティブ同士で情報交換・共有しているという。ネイティブ同士のコミュニティができているようだ。

5年生が英語で「韓国」を紹介 豪州をテレビ会議

 この日は幸運にも5年生の授業でオーストラリアの公立小学校とテレビ会議「韓国について」が行われていた。相手校とは手紙、email交換、相互訪問もしている。(1)韓国の伝統的な遊び、(2)伝統食、(3)歴史上の人物、(4)国旗、の4グループに分かれてそれぞれ6分間ずつオーストラリアの子どもたちに説明する。10前後から数十ワードの説明を交互に流ちょうにしている。短い文章は何も見ずに話していて、どの子も英語のスピーチが上手だ。説明後、韓国の児童がクイズを出す。"Chop suey is a Korean food. True or False?""What is one of the invention that Jang Young‐Shill made?""What is the name of our national Flag?"‐‐その質問にオーストラリアの児童がテレビ会議で答えている。

  テレビ会議は中央のデジタルテレビにオーストラリアの児童、その隣の大きなスクリーンに韓国側の授業やクイズ文、伝統食や人物の絵が映されている。

  英語の専任教師が一人でリモコンで機器操作しながら、英語で授業の進行までコントロールしている。実力がある。
テレビ会議はオーストラリアのサイトにログインする形で映像と音声の伝送を確保、現在年8回行われているスペシャルプログラムだ。こうした体験的な授業をより広げるため、交流校をさらに探しているという。

 

 

公立ドコック中学校

電子教科書で授業 ワードの意味・表現をQ&A

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▲投影された画像を媒介に、
教師が英語で問いかけ、生徒が英語で答える
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▲別のクラスでは教科書の本文を投影
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▲ネイティブとTT。適切な英語表現を確認
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▲ペアで会話の練習
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▲Jehon校長

 ソウル特別市にある公立ドコック中学校(Dogok Middle School 生徒数889人、クラス数24、教職員数56人)。韓国では英語科で教科教室制を導入していく予定で、同校は昨年から3年間教科教室制を研究する学校に指定されている(英語科6教室)。Soon‐Hee Seo副校長は、「実用的で使える英語を身につけることができるよう、各学校でいろいろな努力をしている」と英語教育の実用化を強調する。Gimu Jehon校長は歓迎の挨拶の中で、「日本の津波災害にとても心を痛めている」とお見舞いの言葉を語ってくれた。

  ソウル特別市の中学校ではネイティブが1校1人配置されている。校内には小学校と同じく、「English Zone」が設けられている。

 英語の授業は生徒のレベルにより5段階にクラス分けされている。各レベルの1年生の授業(45分)を視察した。
授業冒頭は、電子教科書(CD‐ROM 写真)を使った。中央に埋め込み式の大きなディスプレイ、左右にホワイトボードがある。PCやマイク、スピーカー、周辺機器が一体になった電子教卓で教科書38ページに関連する部分を投影し、単語の意味、発音、関連表現の学習を進める。

 Qestion&answerでは、"Where is this place?""England"など教師・生徒の質問・応答、収録されているネイティブの音声を聞いての反復練習が繰り返される。

 教師が1つだけ色の異なる卵の絵を提示し、"Everything is the same.I want to be……"と誘導すると生徒から"Different"と声が上がった。

 "Between""Learn"の絵を提示し、"What is the difference between learning and studying?"と質問したり、時計の絵を映して"How long do you study at school?"生徒と英語のやり取りを進めていく。
その後、生徒にクロスワードパズルのプリントを配布、実物投影機でそのプリントを拡大投影して答えを確認した。
なお、初級レベルのクラスでは、教科書の本文が投影され、本文に関連したQ&Aが展開、疑問文の作り方や答え方を中心に指導されていた。

 ネイティブと専任教師による協同授業では、ネイティブがメインになり、専任教師が巡回してチェックする。
"May I take your order?"。レストランで店員が注文を取りに来て、お薦めのメニューを聞きながら料理を注文するトピック。トピックを通常、高速の2段階の音声を流しリスニング。ネイティブから表現に関して問いかけ、隣り合った生徒同士で会話の練習、などが行われている。

  韓国の中学生は放課後、夜10時ごろまで塾で勉強する生徒が多いとか。生徒に家庭学習時間を聞くと、1年生なのに3〜4時間は勉強している、と答えが返ってきた。

公立ミョンイル女子高等学校

教室に電子黒板整備 ワードの表現、ペアスピーチ

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▲Moon校長

 公立ミョンイル女子高等学校(Myungil girls high school)はソウル特別市にある。英語と数学の授業は3レベルにクラス分けされ行われている。

  教室には左右のホワイトボードの中央に電子黒板が整備され、電子黒板を使いながら英語の授業が行われていた。電子黒板に"relief""timid""irritated""embarrassed"などの単語を表す絵を表示し、英語教諭が絵を指しながらその意味を表すワードを問いかけ、解説していく。その後、各ワードの意味を生徒に英語で説明させる。

  別のクラスにも中央に電子黒板がある。このクラスでは生徒が2人1組でスピーチの発表をしている。
授業視察後、Myo‐Sun Moon校長が歓迎の挨拶。その後、6〜7人の日本の英語教諭のグループに同校の英語教諭が加わり、意見交換が行われた。

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▲どの教室でも電子黒板を使って授業をしていた ▲ペアでスピーチの発表

 


【韓国英語教育政策】実用英語を強力推進 英語環境の構築多重支援

 日本でも「外国語活動」として今年からようやく小学校5・6年生で週1時間の小学校英語教育が正式にスタートする。それに対し、韓国では既に1997年に週2時間の英語教育が小学校3年生から始められている。日本で入手できる資料によると、この強力な推進役になったのが金泳三・第14代韓国大統領(1993〜1998)だった。金大統領は就任時に出版した「新韓国21世紀へのビジョン」で、科学技術教育の重要性を、当時大きかった日本と韓国との技術力格差を引き合いに出して強調するとともに、国際会議への出席で痛感した「共通言語としての英語」の重要性を認識した経験から、英語教育に力を入れる方針を打ち出した。この方針は李明博・第17代大統領(2007年〜現在)まで引き継がれ、さらに一層強力に推進され、実用的な英語教育の効果を高めるために必要と考えられる英語教育環境が多重かつ、着実・長期的に整備されている。

  小学校の英語授業時数は、3年生から6年生まで週2時間でスタート、その後、2001年度から「裁量活動の時間」が拡大されたことに伴い、3年生と4年生が週1時間に減少した。しかし、世論の意見を背景に文科省は英語スキルをより向上するため授業時数増を決定し、現在は3年生と4年生で週2時間、5年生と6年生で週3時間への移行が行われている。

  小学校英語授業の担当者は韓国では英語専任教諭が多く、開始1年後の1998年度で学級担任(60%)、英語専任教諭(40%)(『韓国の英語教育政策』関西大学出版部 参照)。2005年度には何らかの形で専任教諭が担当している学校(約60%)、学級担任(40%)になっている。(日本の文科省の調査資料「韓国における小学校英語教育の現状と課題」より)

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▲英語教育政策課長
oh氏(韓国文科省)

  韓国文科省は英語に触れる、親しめる環境づくりを奨励、推進している。例えば、ロールプレイなどを行う英語専用教室など。また、ネイティブの英語補助教員が配置されていない学校のために、ネイティブスピーカーや留学経験のある大学生を小学校に派遣するTalkプログラム(Teach and Learn in Korea)を実施し、2010年度で596人を派遣、放課後の補習に活用されている。さらにネイティブスピーカーによる遠隔授業、また、24時間どっぷりと英語環境に浸ることができるEnglish Villageが全国に設置され日帰り・1泊・数週間など様々なトレーニングメニューを選択できるようになっている。

  2012年度には実用的コミュニケーション能力スキルを向上させるため、政府主催の英語能力テストの実施を計画中だ。1級から3級まであり、1級は大学生対象、2・3級は高校生対象。大学や高校の卒業・入学判定材料、就職、海外留学の能力判定などに活用されることを想定している。

  「すべての高校卒業生がやさしい英語でコミュニケーションできるようになることを保証する」とは韓国文科省の目標だが、着実に目標の実現に向かって進んでいるようだ
(『Education in Korea』http://english.mest.go.kr/enMain.do

韓国の学校概要

 韓国の学校数(2007年) 小学校5756校、中学校3032校、高等学校2159校(国立17校、公立1200校、私立942校)。学級平均人数(2008年) 小学校29・2人、中学校34・7人、高等学校33・7人。
1時間の授業時間 小学校40分、中学校45分、高校45〜50分。

韓国を視察して 大いに刺激に

  韓国の英語教育政策の現状を視察できたことは、同じアジアに住む者として、大いに刺激になりました。
  訪れた小・中・高の韓国人の英語の先生方は、活発に英語を使って指導し、生徒達は積極的に英語で答えていました。
  初等学校の児童は、自国の文化を英語でオーストラリアの児童に向けて発表し、中学生は、多量の英文のディクテーションを行い、クリエイティブ・ライティングに取り組んでいました。

  高等学校では、インターネットでリビアや日本の原発に関する最新情報を視聴し、リーダーシップについて考える機会を設けていました。小・中・高とも教室にはIT機器が整備されており、教師間で共有できる電子教科書などの教材を効果的に用い、IPTVを活用し、少しでも多くの英語に触れる場を作っていました。ペアやグループでの学習を取り入れ、発音の良い生徒も多く見られました。また、校内に多数の英語の本や雑誌を備え、読書の習慣を重視していました。
訪れた中学校の目指す "Learning and Teaching as One! Spread your dreams for the future!" という言葉が、全体の向上心を表していると思います。

  この背景には、教員研修や教育設備の充実、大学入試制度の改革などの韓国の国を挙げての英語教育への熱心な取り組みがあります。

  日本では、今年4月から小学校で新学習指導要領が全面実施になり、5・6年生で外国語活動が本格的に始まりました。中学校の新課程は2012年度、高等学校は2013年度から本格実施されることになりますが、「コミュニケーション力」をつけることでより良い日本、そして世界を目指していけるよう、小・中・高・大が連携し、努力を続けていかなければ、と思う研修となりました。自分の(兵庫県・高校教諭)

【2011年5月9日号】


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