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最新IT教育―実践、成果を報告― ICTフィンランド教育
教育マルチメディア
IT基盤が支える協働学習


1)教育課題を解決するネットワーク化とは

2)学校は「外の世界」で生きる「術」を教える場所である

3)サリーの一日から見える「協働学習」

4)21世紀の学校・アイスクール―校長2人で成果

5)コスト効果の高い次世代型ソリューション

 


 

1)教育課題を解決するネットワーク化とは

 シスコシステムズでは、21世紀型スキルを育む学校教育環境を提案するバーチャルイベント「シスコ教育フォーラム2010」をグローバルで展開した。日本向けには6月4日からスタート、日本ブースや基調講演の同時通訳なども提供、8月末に終了した。フォーラムの様子を紙上報告する。

 シスコ教育フォーラム2010」の成果と課題を担当者に聞いた。
◇  ◇
人とITを「つなぐ」ことで新しい教育スタイルの様々な可能性が生まれます。例えば、管理負担の軽減。安全性の確保。CO2削減。21世紀型スキルの育成に資する学習など、その可能性は計り知れません。これらを実現するには、学校をまるごとネットワーク化することが必要です。それには、1校500万円程度の予算と考えると、2000億円程度の予算があれば、公立全小中校を250M程度の無線LANでつなぎ、フルハイビジョン動画を全教室で視聴してもスムーズに稼働するインフラを整備することができます。これは、地下鉄工事でいうと、5メートルほどの予算に過ぎません。5年計画とすると、年間400億円程度で構築が可能です。
日本ほどビデオが発達しながらそれが教育に積極的に取り入れられていないのは不思議なことです。課題は、動画コンテンツを気軽に授業に取り入れることができるインフラ整備が十分ではないことにあります。教育委員会や自治体ごとでのサーバ導入により、限られた予算で最新のテクノロジーを導入し、多角的なシステムを低コストかつ安全に運用することが可能になります。
教育フォーラムでは、アメリカの事例を中心に、様々な可能性を提供しています。最もアクセスが多かったのはアメリカで、約6割程度。そのほか、アルジェリア、ラテンアメリカ、スペインなど、英語圏を中心に世界各国からアクセスがありました。
ICTやネットワークを活用した学習基盤の構築は全世界的に急速に展開されており、日本もその流れを無視することはできないはず。21世紀型スキルを身につけるためにも、引き続き高品質なネットワークの有用性を訴求、提案していく考えです。

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2)学校は「外の世界」で生きる「術」を教える場所である

ジェームズ G レンゲル氏
ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ教授 ボストン大学教授

 学校は、子どもたちが外の世界で生き残るために必要なことを教える場所です。
 19世紀では、農夫や船乗りが多く見られ、日常生活も仕事場も少人数で、様々な年齢の人が様々な仕事を少ないツールで行っていました。
 この時代、学校は、様々な年齢の少人数が少ないツールで学んでいました。
 産業革命が起こり、社会は変わりました。
 工場やオフィスで働く人が増え、仕事場は閉鎖的な空間で、ほぼ同じ年齢の人が隣の人と同じような仕事をしています。
 この時代の学校は、産業革命に合わせ、学んだことを正しく反復できる能力を身につける必要がありました。閉鎖的な空間で同じ年齢の子どもたちが同じことを学んでいました。
 それから100年。
 今、私たちの仕事場では、少人数のグループで様々な新しい課題に取り組んでいます。
 隣の人と同じ仕事をしている人はほとんどいません。たとえ同じ環境にいても業務は様々、外界とつながり、情報交換やコラボレーションが頻繁です。
 これが21世紀の仕事のやり方です。
 では、学校は?
 ツールは紙と鉛筆、隣の人と同じことをしており外界とはつながりがない‐‐という学習方法で、21世紀を生き残っていくことができるのでしょうか?

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3)サリーの一日から見える「協働学習」

シンシア Jテメシ博士
シスコ グローバルエデュケーション、エデュケーションストラテジスト

 協働学習でどんな学習が可能になるのでしょう。サリーの一日からWeb3・0の可能性を知ることができます。
 サリーは今、環境科学の学習に取り組んでいます。朝6時半。サリーは目覚めます。6時35分。サリーは飲料水の中のPCB成分を調べ、インターネットで図書館にアクセス、オンラインでその数値の意味することについて調べます。
 6時40分。市の飲料水のモニタリングの調査結果を確認しました。大学のカリキュラムでは、リアルタイムの調査結果の利用を推奨しています。
 6時50分。環境科学に取り組むプロジェクトグループのメンバーに調査結果を知らせます。グラフや表計算による資料も添付します。
 6時55分。短いレポートにデータソースを添付してWebサーバ上のポートフォリオに掲載します。
 7時。バイオリンを練習してから朝食をとります。食事中には、学校で取り組んでいる課題について話します。家族間で今取り組んでいる課題について話すこともカリキュラムでは重要視されています。
 通学中には、ポッドキャストで学校サーバからダウンロードした資料を閲覧します。
 7時半。渋滞しています。その間もサリーは、iPodで英語クラスの課題をダウンロードして読みます。
 7時40分。学校に着くと図書館に向かいます。本を読むためではありません。仲間に会い、プロジェクトについてこの2日間でわかったことについてディスカッションし、今後の課題について討議するためです。この討議で、現在議会で議論中の法案につき、PCB上限が0・7pppになっていることを知ります。このように、図書館はラーニングソサエティとして機能しています。
 8時10分。大人数教室で数学の講義を受け、統計的サンプリングについて学びます。ワシントンから科学者がビデオにより講義に参加しています。遠隔地にいる教師がリアルタイムで教室に参加できることもWeb3・0の特徴です。
 8時20分。自分のデータのサンプル数が少ないことに気が付きます。これは、統計的手法を学んだことにより気付いた点です。そこでこれまで調べたデータを見直し、仲間とPC画面を共有して結論を見直します。大学では、オンラインで連絡を取り合うことが奨励されています。
 サリーは、サンプル数を増やすために、フェイスブックで環境科学に興味を持つひとで川のそばに住んでいるを探し、協調学習を呼びかけ、付近の川のPCB計測を依頼します。
 11時50分。中国新聞にアクセスして、中国ではPCBに関して0・5pppがガイドラインであることを知ります。
 12時。化学の授業で、PCBがなぜ有害なのか、どこからきたのかを学びます。
 13時25分。プロジェクトコーチに連絡し、進捗状況を報告します。コーチから、プロジェクト内容を水質保全法案に絞り込むというアドバイスを受けます。
 サリーは、それぞれの教科と連動して課題の解決に取り組みます。教師は必要なときに助言し、様々な機会を提供し、学生たちがツールをうまく使いこなせるよう促す役割を担っています。
 社会科の講義では、法案が法律になる流れを学びます。数学の時間に学んだ統計学で、現在審議されているPCB基準では危険度が高いのでは、という疑問を持ちます。
サリーは、コラボレーションの仲間から届いた測定値から、潮の満ち引きがPCB値と関連性があることを発見します。
 サリーは、自分たちが調べた調査結果についてのメールを上院議員に送ります。サリーは、水質保全法案についての担当者と知り合い、プレゼンテーション用に作成しポッドキャストに保存したデータを送る約束をします。
 15時。学校は終わりますが、サリーの学習は終わりません。放課後に多くの作業を行う必要があります。サリーはプレゼン用に使うバッハの音楽データをiPodにダウンロードします。
 仲間と、プレゼンデータについて修正箇所を連絡し合います。
 20時半。メールが水質保全法案の担当者から届きました。サリーたちの調べたデータ結果を委員会で流したいというメールです。
 グループプロジェクトにより、今の社会で何が問題になっており、それを解決するためにどうすべきか、あらゆる教科の知識とツールを使って課題を解決していきます。
 学生、教員、地域の人、これらをつなぎ、意見を交換し、データをやりとりしながら結果を導き出す学習は、インフラの力によるものです。科目、教師、仲間、それらがうまくつながり、様々な情報を入手することができるからです。
 また、これらを活かす力は、慎重に組み立てられた教育プログラムの中で身につけることができます。
 Web3・0を実現し、成功した学校は、リスクを恐れないリーダー、共通したビジョンを持っています。わたしたちは、サリーの学習を全世界で現実にしていくための努力をしていかなければなりません。

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4)21世紀の学校・アイスクール―校長2人で成果

NYC ischool アリサ バーガー氏
創立者兼共同校長 メアリ モス氏

 子どもたちの成功に必要なことは変わっています。それに対応できる高校として2008年に開校したのが「アイスクール」です。
 世界を大きな文脈で考え、大学以降も役立つスキルを身につけることができるカリキュラムと同時に、ニューヨーク州で実施されている5教科試験で成果を上げる必要がありました。そこで「アイスクール」では、5要素を満たす学習アプローチを考案しました。
 1つめは、短期集中型カリキュラムです。実社会を想定し、仕事の体験に即したカリキュラムで、批評的な思考能力やコラボレーション能力を育成します。生徒が専門家に出会う機会を作ることで授業内容を広げ、時間と場所にとらわれない学習を促します。
 例えば歴史では、十字軍を9月11日の同時多発テロ事件と比較するなど、複数の視点で学びます。学習の過程で、10代のパキスタンの生徒たちとビデオカンファレンスでコラボレーションも行いました。学習過程は博物館のアーカイブの一部となりました。また、他の課題で、生徒たちは学校の古い建物に関するグリーン設計を提案しました。21世紀型スキルを身につけるには、学校外の世界と関係する作業や専門家とのやりとりが必要です。
 2つめの要素は、各自のペースで取り組むことができるオンライン指導です。生徒は個別学習で必要に応じたサポートを受けることができ、かつ興味関心に応じた多彩なコースを受講することができます。苦手な問題についても解決しやすくなり、テストに向けてどのような学習が必要なのかも明確になりました。また、オンラインでの学習方法を身につけることもできました。この手法は、小規模学校の制約を超えることができます。
 3つめの要素は、大学に入るだけではなく大学卒業後も必要な力を身につける「体験学習」です。
 4つめの要素は、実体験です。「アイスクール」では9年生でインターンシップを行い、キャリア体験をすることで専門知識を身につけます。21世紀型スキルを身につける最適な場所は、仕事場であるからです。
 5つめが、アドバイザリープログラムです。生徒たちが自分を開発していくには指導が必要です。「自分が今何をしていて何を知る必要があるのか。どのように答えを見つけていかなければならないのか」と常に考え捉え直し、自分の学習の責任を持つことが「メタ認知」です。「メタ認知」は21世紀型スキルの土台となります。学校は、それに向けたプログラムや学習を提供していかなければなりません。
 これら5要素を実現するために必要なのは、ユビキタスな学習環境です。生徒たちはすべての学習をweb上に保存し、記録することができます。すべての活動情報をホワイトボードに映すことができるのです。これはとてもすばらしいことです。
 アイスクールでは1教室あたり30のデバイスが整備されており、ワイヤレスで100%アクセスすることができます。
 サーバが必要なため初期投資は必要ですが、メンテナンスは簡単です。
 構築して2年ですが、その成果にはめざましいものがあります。
 ニューヨーク州の統一試験での合格率は高く、その合格のための試験準備学習に1、2年かかっていたものが5カ月ほどで可能になりました。
 学校への出席率は95%と高く、入学試験は定員100人のところ1500人の希望者が集まります。学校が役に立つと生徒も保護者も感じており、自分の学びが社会とつながりがあるという実感が、学習意欲を後押ししています。
 保護者の満足度も高く「学校のことをよく話すようになった」という喜びの声が聞かれます。
 成功のポイント
 まずは、共同のリーダーシップです。「アイスクール」で短期間に実績を上げるために校長は2人必要でした。バーチャルスクールとリアルスクールの両方を1人で担当することは負担が大きすぎます。
 2つめはシスコとのパートナーシップです。必要な学習環境を低コストで実現するためのサポートが提供されました。
 3つめはニューヨーク市教育部のサポートです。専門知識を集大成して学校改革に活かすことができました。
 4つめはテクニカル面でのサポートです。技術的なサポート支援はスムーズな運用に必要です。

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5)コスト効果の高い次世代型ソリューション

シスコシステムズ キャピタル株式会社
執行役員 伊東卓民


 シスコシステムズの提唱する「スマートコネクティッドラーニング」では、学校外への多様な協力が求めやすくなり、様々な学習形態が可能になります。
 そのためにはIT機器への投資は欠かせません。しかもテクノロジーは常に更新されています。一度導入した機器を長く利用する従来のスタイルは、いまやそぐわないものになっています。
 ではどうすればよいのか。
 シスコキャピタルでは、低コストで常に最新のソリューションを活用できるシステムを提供しています。現在利用中の機器を買い取るサポートも提供しており、希望の使用期間の柔軟な設定にも対応しています。

最先端の環境は 大学の役割です。
慶応大学 村井純氏


 慶応大学SFCでは、シスコキャピタルのサポートにより、常に最新のネットワークを実現しています。大学のキャンパスライフは社会の縮小版であると同時に社会の先駆けでなくてはなりません。情報ネットワーク整備は生活基盤であり、命綱ともいえます。
 先端技術を活用しつつ常に新しい問題を発見、解決していくのが大学の役割であり責任です。そこでシスコキャピタルの利用により、常に先端技術を取り入れることで先進性を保持しています。
 シスコのネットワーク技術はインフラとして信頼性があります。また、常に先端性と社会との親和性を考えていることから、大学の考え方と親和性もあるといえます。

◆ シスコの教育ソリューション
http://www.cisco.com/web/JP/solution/industries/education/index.html

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【2010年9月4日号】


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