教育家庭新聞・教育マルチメディア新聞
 TOP教育マルチメディア記事         
バックナンバー
最新IT教育―実践、成果を報告―ICTフィンランド教育
教育マルチメディア
「教育の情報化に関する手引き」で実現する学校環境

 新学習指導要領に合わせ、昨年10月から検討が重ねられてきた「教育の情報化に関する手引」(以下「手引」)が文部科学省から公表されたのは3月末だ。80ページにも及ぶ「手引」は、情報教育や教科指導におけるICT活用や校務の情報化、教員のICT活用能力、ICT環境整備、教育委員会における情報化など、これまで取り組んできた「情報化」の集大成ともいえるものになった。今後、各教育委員会はこの手引を元に環境整備や教育の情報化に取り組んでいくことになる。では「手引」ではどのような学校環境が実現するのか。「手引」内容を各章ごとにまとめ、それに関する事例を特集する。

ポイント 教育の情報化に関する手引

文部科学省生涯学習政策局企画官
情報教育調査官
中沢淳一氏

 これまでの「情報教育に関する手引」から「教育の情報化に関する手引」とタイトルが変わったのには、大きな意味があります。
 検討会の中では、情報教育の目標を実現するための礎として「教科」の中でのICT活用の重要性が指摘されました。
 そこで、教科の指導でICTを使うことから情報教育は始まる、という点を明確にしたのが今回の手引です。
 調べ学習やまとめ学習をさせる、教材やコンテンツを大きく提示するなど、スタートするポイントは各先生で違うと思いますが、教科のなかでICTを活用、定着させることで先生の意識が変わり、全体として子どもたちに情報教育がいきわたる、ということです。

 それに伴い、指導例を多数掲載しており、教科ごとのICT活用指導例を充実させています。
 次に、社会的な要請もふまえ、情報教育の一部である「情報モラル教育」を章として別立てし、その中に各教科での指導事例を盛り込んでいます。安全教育に留まらない、よりよいコミュニケーションや人と人との関係づくりのために、どうICTを上手に賢く使うかの判断力や心構えを育てるという「情報モラル教育」の本来の目的を明確にしながら解説しています。

 また、教育の情報化をスムーズに進め、広げていくためには、組織として動く必要があります。ICTのよさを理解し、現場の先生を励ましながら、学校全体でICTの活用を進めていくための力となるのが管理職であり、特に学校長です。そこで、学校長すなわち学校CIOの理解とリーダーシップの重要性も各章の内容に盛り込まれ、強調されています。

 教育委員会、学校、ICT支援員(外部人材)によるICT化のサポート体制を構築することが重要です。
 一見ハードルが高そうに見える内容でも、いざ「教育の情報化」の取り組みを開始した際、改めてこの「手引」を読んで頂ければ、必ず参考になることが書かれていますので、ぜひ有効に活用して頂きたいと考えています。

北川 達夫氏
「教育の情報化に関する手引」概要より



・第一章 情報化の進展と教育の情報化
・第二章 学習指導要領における教育の情報化
・第三章 教科書指導におけるICT活用
・第四章 情報教育の体系的な推進
・第五章 学校における情報モラル教育と家庭・地域の連帯
・第六章 校務の情報化の推進
・第七章 教員のICT活用指導力の向上
・第八章 学校におけるICT環境整備
・第九章 特別支援教育における教育の情報化
・第十章 教育委員会・学校における情報化の推進体制


第一章 情報化の進展と教育の情報化
情報教育の到達点を明示 1章1節は全員が読んで

 本章では、情報教育の到達点について明示されている。
 高等学校教育が終了した段階で、情報社会においてどんな能力を身につければよいか。それについて端的に表したのが本章だ。様々な情報を様々な場所から取得、共有して新しい知識を生みだし、創造的な活動や問題を解決することが今、国民全てに求められている能力だ。
 「1ページ目の第1節は全員に読んでもらいたい。生きる力と情報教育の関係性を明らかにしている」と文部科学省の中沢氏は述べる。
 また、到達点とともに書かれているのが、「教育の情報化」の歴史的背景だ。
 情報教育の重要性が指摘されたのが、昭和60年の臨教審であった。また、平成元年改訂の中学校学習指導要領には、「情報とコンピュータ」という項目が生まれた。しかし一方で、情報教育が各教科の中にしっかりと定着してきたとはいえない。
 新学習指導要領では情報教育の充実を図ることとしているが、それを実現するための礎として「教科の情報化」が重要になった。その経緯についても詳述されている。

第二章 学習指導要領における教育の情報化
新学習指導要領に盛り込まれた 「教育の情報化」を表で示す

 第1節「学習指導要領における教育の情報化の概要について」では、新学習指導要領において情報教育がどのように改善されたのか、各校種ごとにコンパクトにまとめられている。ここでその必要性やポイントについて大まかに知ることができる。
 第2節「新学習指導要領を踏まえた情報教育とICT活用の推進」では、第1節を踏まえ、総則及び教科ごとに、学習指導要領や解説における記述からICT活用・教育の情報化という軸をピックアップ、表にした。表を見れば、情報教育が各教科においてどのように盛り込まれているのかが分かるようになっている。
 本章では、「情報」科だけではなく、教科指導におけるICT活用や情報教育を積極的に実施することが必要であり、かつ重要である点が示されている。
 本章は、第3章の教科ごとの指導事例へとつなげる役割を持つ。

第三章 教科書指導におけるICT活用
各教科・各校種での具体例提示 活用しやすい教室環境は重要

北川 達夫氏
ネイティブ・スピーカーの音声をICTで
聴かせながら説明(「手引」P36より)

 2章の指導要領上の根拠を理解したうえで実際の指導事例を示したのが本章だ。
 教員がICTを活用して指導する場面と児童生徒がICTを活用する場面、両面から、教科のどのような場面でICTを活用するかについて、その具体な方法や場面が記載されている。
 「どの校種のどの指導場面でICTを活用するのか、なるべく具体的にわかるようにしたかった。そこで教科別に整理した」(中沢氏)。
 3章を見れば、これまで蓄積されてきた各教科におけるICT活用の事例が各学年、各教科、各校種においてほぼ網羅されており、授業のヒントとなる。
◇   ◇
 教員のICT活用については、様々な目的ごとに例示されている。例えば、「興味・関心を高める」ためのICT活用、「わかりやすく説明したり、児童生徒の思考や理解を深める」ためのICT活用、「児童生徒一人1人に課題を明確につかませる」ためのICT活用、学習をまとめる際に「児童・生徒の知識の定着を図る」ためのICT活用など。
 教科におけるICT活用では、各校種、全教科にわたって具体例が提示されている。


◇   ◇

 3節では、日常的にICT活用を行うための準備として、ICT活用と板書の連携、教室環境の工夫、研究・研修の重要性について述べられている。1(1)では、「情報提示のためのICT活用と板書」として、「スクリーン等に提示された情報を用いて説明を行い、押さえるべきことは板書する」という組み合わせについて紹介。

北川 達夫氏
教科書の図などを大きく
映しながら説明(「手引」P29より)

(2)日常的なICT活用のための教室環境の工夫では、準備時間をできる限り短くすること、そのためにIC機器が普通教室や特別教室などすべての教室に常設されており、機器の設置や調整が簡単で、デジタルコンテンツを提示するまでの準備が短くて済むことの重要性が指摘されている。また、教科書がそのまま映る教科書準拠教材、実物投影機を用いた児童生徒のノートやプリントの投影など、授業の流れに応じて
臨機応変な対応ができる環境整備の重要性について言及されている。


第四章 情報教育の体系的な推進

本章では、情報教育の目標と系統性について述べられている。  その目標は「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」の3観点からなる。とくに「情報活用の実践力」について新学習指導要領では、小学校段階でICTの基本的な操作を身に付けるべきものとされており、確実に習得する必要がある。中学校段階では、技術・家庭科で「情報の科学的な理解」を中心とした学習を行うが、それと相互に関連を図りながら、各教科でICTを「より主体的、積極的に活用」できるようにする。  高等学校教科「情報」は、新学習指導要領において「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」にそれぞれ重点を置いた2科目構成となったが、このことが、小中学校段階における「情報活用の実践力」の習得が前提になっているのだ、ということが理解できる。  では、情報活用能力を身に付けるためにはどのような学習活動を進めるべきなのか。それについて、情報教育の目標の3観点に分けて、教科ごとの指導例が詳述されているので、まずは自分の関わる校種や教科に目を通すことが必要だ。それを踏まえ、各教科での学習活動が情報教育としてどのような意義をもつのか、学校全体として指導計画を立てて取り組むことが望まれる。

第五章 学校における情報モラル教育と家庭・地域の連帯

情報モラル教育の必要性、具体的な指導法、教員が持つべき知識、家庭・地域との連携の重要性について述べたのが本章だ。情報モラル教育とは、より良いコミュニケーションのための判断力と心構えの育成のこと。新しいメディアとして、インターネット上でのコミュニケーションが当たり前になった。誰もが気軽に情報の送り手、受け手両方の役割を持ち、その特性を理解しないまま利用している状況だ。そこでは、自分自身で判断できる力を育成していく必要がある。  情報モラル教育の具体的な指導としては、これまでの道徳教育で扱われていた不易の部分が大きな前提。その上で、インターネットに関わる危険への対応と共に、よりよいコミュニケーション活動を展開していくための基礎となる正しい知識を身に付ける必要がある。  前記の点を踏まえ、情報モラル教育は、国語や社会、図画工作、特別活動、総合的な学習、保健など各教科の中でも総合的に展開する必要がある。本章では、各教科における題材、ねらい、具体的指導内容などを掲載。教員が日ごろ何気なく行っている活動・指導の中に情報モラル教育の素材が含まれていることを改めて認識し、さらに効果的な指導に発展していくことが望まれている。  情報モラル教育を効果的に展開するためには、インターネットの発展の実態や影響に関する情報の入手が必要だ。そのためにも、地域と連携した講演会などを実施、参加者がさらにその輪を広げていくことも重要だ。

第六章 校務の情報化の推進

北川 達夫氏
1人1台のPCを配備。校務システムで
情報を共有する(「手引」P90より)
校務の情報化の目的、情報化による学校の変容、進め方モデル、進める上での留意点について述べられたのが本章だ。  管理職、教員、養護教諭、栄養教諭・学校栄養職員、事務職員にとって、校務の情報化がどのような形で機能し、どのような業務の変化があるのか、具体的に述べられている。  
校務の情報化は、保護者や地域との関係も変える。  CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)の導入により、WEB発信も頻繁になり、日々の様子を発信できるようになる。
 メールの利用も学校と保護者で頻繁に行われており、これまで以上に密な連絡が可能だ。  児童の安全・安心情報の提供にも有効であり、登下校情報の発信などは、学校や地域ぐるみで利用できる。  学校の教職員でデジタル化された事務文書が共有され、再利用が可能になることが校務の情報化のスタート。これにより、児童生徒情報を共有、児童生徒の学習活動や成績情報、出席情報、身体情報を処理、通知表や指導要録に反映することができる。  
また、グループウェアを利用して教職員間の情報伝達やコミュニケーションを図ることができる。  次の段階では、電子決済の利用や、児童生徒の進学・転出情報を、市町村単位、都道府県単位で共有を図る。  校務の情報化を進めるには、教育委員会と校長のリーダーシップや、教職員間での意義の共有が必要だ。校務の情報化をスムーズに進めるために制度や公文書規定も見直していく必要がある。


第七章 教員のICT活用指導力の向上
ICT活用指導力 必要な理由


北川 達夫氏
提示装置で拡大して
説明(「手引」P110より)
教員のICT活用指導力の重要性を訴求、その具体的内容と、その力を身に付けるための研修の重要性、その進め方、例示について述べられているのが本章だ。教員に必要となるICT活用指導力とは、「教材研究・指導の準備・評価などに活用する能力」「授業中にICTを活用して指導する能力」「児童生徒のICT活用を指導する能力」「情報モラルなどを指導する能力」「校務にICTを活用する能力」の5つ。それぞれどのような能力なのかが例示されている。

 すべての教員にこれら5つの能力が求められており、それを身に付けることは極めて重要だ。


 その大きな理由の1つが、学習指導要領だ。

 小学校学習指導要領では、児童生徒がコンピュータやインターネットの基本操作や情報モラルを身に付けるとともに、適切に活用するための学習活動の充実が求められている。教員が「まったく活用できない」と、子どもたちへの指導に支障が出る。

北川 達夫氏
ネットでの情報収集を
指導(「手引」P110より)
北川 達夫氏
「繰り返し学習」を指導(「手引」P111より)
 中学校学習指導要領でも同様に「各教科等の指導に当たっては、生徒が情報モラルを身に付け、コンピュータや情報ネットワークなどの情報手段を適切かつ積極的に活用できるようにするための学習活動」が求められており、「視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」も示されている。

 そこで重要となるのが研修だ。本章では効果的な研修のロードマップを記載。校内での全体研修、個人研修、教育委員会・教育センター等での研修のそれぞれの重点や研修プログラムの事例にも触れられており、「どのような研修をすべきか」考える際に役に立つ。また、校内において教務主任や情報主任などによる組織的な研修体制や教育委員会との連携の重要性も示されている。




第八章 学校におけるICT環境整備

北川 達夫氏
デジタルテレビ・電子黒板と
関連機器との接続(「手引」P133より)
 学校における具体的なICT環境整備について言及されているのが本章だ。  普通教室、コンピュータ教室、特別教室それぞれの特性により整備が必要だが、特に普通教室のICT環境整備が重要視されている。コンピュータ、デジタルテレビ、電子黒板、実物投影機、プロジェクター、学習ソフトウェア(教育用コンテンツ)が普通教室にあり、それを日常的に活用していくことの効果、必要性、重要性が認識されてきている。  授業活用のためのICT環境と校務活用のためのICT環境もまた違いがあり、とくに校務用ICT環境では、情報セキュリティ対策を視野に入れた環境整備が必要だ。また、校内LAN整備に当たっては、安全性や拡張性が重視されなければならない。  環境整備と共に考える必要があるのが、ICT環境の運用だ。周辺機器の整備、サーバ等の保守管理、運用経費なども必要で、必要な予算を確保しなければならない。整備の際はランニングコストも踏まえた予算計画が必要だ。  本章では予算確保のための知識として、地方交付税措置の概要や予算確保のための留意点、補助制度にも触れられている。


第九章 特別支援教育における教育の情報化

北川 達夫氏
ICT利用で障害のある児童
も一緒に(「手引」P139より)
 教育の情報化は、特別支援教育に大きく貢献する。ICTにより、障害のある児童生徒も、ストレスなく共に授業を受けることが可能になる(図参照)。  音声リーダー、スイッチ操作による障害者用ワープロソフト、視覚聴覚障害を併せもつ場合に有用なピンディスプレイなど、障害の種類や程度に対応したICTによる支援機器を使うことで、コンピュータ活用もより取り組みやすくなった。病弱者であり病院に長期入院している児童生徒ならば、テレビ会議システムで在籍小学校の児童と交流することもできる。  特別支援のICT活用は「障害の種類や程度」に応じた検討が重要。いずれの場合も、教員のICT活用指導力はますます必要になる。

第十章 教育委員会・学校における情報化の推進体制

 教育の情報化においては、その推進体制が非常に重要だ。1人では進捗しない計画でも、体制を整えて段階を踏むことで円滑に進む事例が多い。 体制を作ることで、担当者だけではなくすべての部署でビジョンが共有、その重要性について各自共通見解を持ち、周囲に広めていくことができる。  情報化の統括責任者「教育CIO」は、教育長や教育次長などが務め、学校のICT化について責任を持ち、ビジョンを構築、実行する役割を持つ。具体的な役割として「情報化による授業改善と情報教育の充実」、「学校のICT環境整備」、リスクマネジメント、情報公開・広報、人材育成・活用など。教育CIOは、「学校CIO」(学校長などの管理職)と連携、情報提供しながら教育の情報化を進めていく必要がある。  学校CIOの重要な役割は、校内の情報化におけるリーダーシップを発揮すること、管理職や主任クラスなどが連携したチームで情報化を推進する体制を構築することなど。  それに加え、今後重要な役割を担うのがICT支援員だ。ICTの基礎的スキルを持つ人材を配置、各校のICT活用を支援サポートする役割を担う。教員の負担軽減のためにも、教育の情報化の円滑な進捗のためにも、各教委はICT支援員を積極的に配置・活用していく必要がある。

【2009年06月06日号】

記事のご感想をお寄せください

新聞購読お申し込みはこちら