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海外情報教育
イギリスの情報教育をこの目で
BETT視察
公立学校訪問

イギリス情報教育視察団メンバー
イギリス情報教育視察団メンバー
 イギリスの情報教育の実際をこの目で見てみたい−−教育家庭新聞社では、「イギリス情報教育視察団」を結成、向山洋一氏率いる東京教育技術研究所(以下TOSS)のメンバー及び関係者が1月10日、成田からロンドンへ出発した。ロンドンで開催される「世界最大の教育テクノロジー見本市」といわれるBETT―Education Technology Show(以下BETT)の視察と、学校現場訪問が目的だ。
BETT会場には世界から教育IT企業が集まる
BETT会場には世界から教育IT企業が集まる



教育テクノロジー見本市
  “BETT”

 教育テクノロジー見本市・BETTの開催地はOlympia。ロンドン西方のケンジントン・オリンピアという駅のすぐ前にあるオリンピア・コンベンション・ホールで開催される。

 同ホールはかつてのオリンピア駅であり、その広大なホールでは一年中様々な見本市が開催されている。

スマートテクノロジーのナンシー・ノートン代表と
スマートテクノロジーの
ナンシー・ノートン代表と
 まずはTOSSでも活用・普及に努めているスマートボードのブースへ。ナンシー・ノートン代表に出迎えられ、来春より新発売のスマートボードの説明を受けた。従来のタイプと異なり、音声機能の使い勝手が向上し、教室でより使いやすいものになったという。TOSSのメンバーである波多野先生が作成したインターネットランドにアップしてあるコンテンツを、最新のスマートボードを使い、プレゼンテーションを行うと、足を止める人が増えた。

 驚くべきはその出展企業の数だ。イギリスは「国際見本市」としての歴史が深く、イギリスで見本市を行うと、国内はもとより世界各国から企業が集結するという。ホール内には日本でお馴染みのHITACHIやシマンテック、ワコム、スマートボード、mimioなども出展している。プロジェクターや電子情報ボード、記憶媒体ほかIT機器やコンテンツ・ソフト部門も充実している。中には教員が一人で開発したコンテンツもある。
子ども用キーボードとマウス。
子ども用キーボードとマウス。
カラフルで大きい
 子ども向けのキーボードやマウスがカラフルで目を引く。幼少期から低学年向けのソフトやコンテンツが豊富な印象だ。
「アルゴリズム」の教材を上手に活用した事例も展示
「アルゴリズム」の教材を
上手に活用した事例も展示

 向山氏が最も注目したのは、四則計算の概念と解法ノウハウを視覚的に理解しやすいよう作成されたソフト。退職した教員が1年半以上を費やして制作したもので、「非常に分かりやすい。ぜひ日本でも紹介したい」と、制作者と話し込む場面も見られた。

 イギリスで1年前より開始した「ティーチャーズTV」 ※www.teachers.tvは、インターネットなどで見ることのできる、教師のスキルアップを目標としたインターネットテレビ番組だ。年間850タイトル以上が24時間体制で配信されており、今後もコンテンツは増えていくという。

 元教員4名をヘッドに、12社の制作会社と提携、制作されており、こちらも政府の補助を受けたプロジェクトだ。

 会場にはDfES(department for education skills)のブースがあり、イギリス政府が行っているIT政策の一端を見ることができた。政府が提供する「ティーチャーズネット」※www.teachernet.gov.uk/publicationsでは、教育関連のあらゆる情報やコンテンツが提供されている。
BETT会場にて喫煙の害を訴えるポスターをゲット
BETT会場にて喫煙の害を訴えるポスターをゲット


◇ ◇

学校訪問

カルバートン・プライマリースクール


ブラウン校長
ブラウン校長
 学校訪問では、イギリスの東部、比較的貧しいといわれる地区の公立学校の視察に向かった。カリビアンと呼ばれるカリブ海諸国やインド、東ヨーロッパなどからの移民が多く、家庭的に多くの問題を抱えているとされている地区である。

 最初に訪れたのは、カルバートン・プライマリースクール(イアン・ブラウン校長)だ。

 3才から11才までの児童が学ぶ、全校生徒400人・全16クラスの学校だ。校舎は平屋造りの1階立てで、学校中に生徒たちの作品が飾られており、親しみやすく暖かい雰囲気が漂う。

 教員は校長を入れ、正規教員が26人。このほか、アシスタントティーチャーと呼ばれる職員が数多くクラスに配置されている。

 学校全体の特徴として、外国人の子どもが多く、入学時には満足に英語を話せない子どもも多い。そのため校内には、英語だけではなく中国語、インド語、マレー語その他の言語も書かれたポスターが貼ってある。
すべての教室に電子情報ボードが設置されている
すべての教室に電子情報ボードが設置されている
 カルバートンでは、全クラスにコンピュータに接続された電子情報ボードが設置されている。全クラス導入が完了したのはここ2年ほどの動きで、電子情報ボードが現在設置されている場所には、以前は黒板があったという。

 コンピュータ教室にはPCが30台。移動式のラックの中にはさらにタブレットが15台。このPC教室は1年生から4年生が使っている。訪問した日は、次の授業の準備のためにクラスの係の子どもがPCの起動などの準備を行っていた。

 5、6年生にはノートPCが一人1台配布されている。また、ナーサリークラスと呼ばれる幼稚園にあたるクラスにも電子情報ボードとそれに接続するPC、子どもらが自由に使えるPCが1台設置されている。

 PCや情報ボードなどの機器が十分に整備されたことについて、イアン・ブラウン校長は「教師が喜んでおり、やる気も出たようだ。非常によい影響がある」と述べる。近隣の学校の設置率は、イアン・ブラウン校長によるとだいたい半数程度ということであった。

 カルバートンでは、各クラス平均1人以上のアシスタントティーチャーがつく。また、情緒障害児も最大14人まで受け入れ可能な指定校となっており、それについての補助も政府より受けている。

 11時からのアセンブリーと呼ばれる集会は毎日行われる。毎週金曜日は校長からの「表彰式」だ。「ライティングがすばらしかった」「計算で良い成績をおさめた」「クラス全体の出席率は良かった」「笑顔が良かった」などの表彰が行われる。表彰された子どもたちはみなうれしそうだ。


ストックウェル・パーク・ハイスクール


生徒に学校の様子を質問
生徒に学校の様子を質問
 次に訪れたのはセカンダリースクールにあたるストックウェル・パーク・ハイスクール。同校は12才から18歳までの生徒が通う。訪問日は、残念ながら本校で試験を実施しているために授業見学は叶わなかったが、隣接するICTラーニングセンター(以下ICTセンター)での懇談となった。

 ICTセンターもまたブレア首相のICT政策の一環で整備された施設だ。地区の住人なら誰でも自由にコンピュータなどのテクノロジー施設を使用することができる。これは、テクノロジーを持てる人と持てない人のギャップを埋めることを目的に、家庭にコンピュータを持つことが難しい、社会的に低収入の地区をターゲットに設置された。同地区のICTセンターは、将来的にストックウェル校に吸収される予定という。

 ストックウェルでは、ビジネスとエンタープライズ(起業)のスペシャリストを目指した教育を行っている。

 同校は50年前にランベス区に設置された公立学校だ。ノリス副校長はそれまで教育委員会の諮問委員会に在籍、各地区の公立学校が基準を満たしているかどうか、チェックする仕事に携わっていた。基準に満たない学校は閉校もあり得る。

 ストックウェル校にも97年訪問したことがあるという。「以前はひどい状況でしたが、過去5年間で改善されました」とノリス副校長。5年前、タッパー校長が、翌年ノリス副校長が赴任、政府によりICT始め様々な投資がこの地区及び学校にもたらされた。

 校内には各階にPCルームがあり、各教室に電子情報ボードが設置されている。また、政府からの支援により、授業で行う内容がインターネットを通じて全て予習復習できるシステムが整備されている。ランベス区のセカンダリースクールに通う生徒900人のうち300人がこのシステムを使用している。この数字は、コンピュータを家庭に所有しない貧しい地区であるという点から見てそう悪い数字ではない、という。

 また、従来「科目ごとに教室を移動する」方式が一般的であったが、新入生に限っては教室を固定、クラスルームとしての帰属意識を育みやすい環境とした。飛び級制度を取り入れ、3年間のカリキュラムを2年で終えた生徒はシニアクラスに入ることができる。

幼児クラスにも電子ボードが設置
幼児クラスにも
電子ボードが設置
 特筆すべきは「授業以前の問題」にも政府からかなりの援助がもたらされている面だ。主に生徒のモラル教育に従事するスクールカウンセラーが配属されており、いじめなど生徒間のトラブルの解決に従事、場合によっては双方の親も含めた話し合いがされる。

 かつてクラスの友人とトラブルがあったというセルマは、同級生にいじめられ困っていたときにカウンセラーに相談、セルマと相手の子、カウンセラーとテーブルを囲み問題点を話し合い、解決したという。

 週に1回、クラスで起こっている問題について先生に伝える役割を担う「スクールカウンセル」や、クラス間で起こった問題を解決する役割を担う「メディエイター」などの役割は、生徒が担う。メディエイターは1クラス2名が、スクールカウンセルは1クラス1名が選出される。メディエイターになるには、トラブル解決のノウハウを身に付けるため、12週間トレーニングしなければならない。メディエイターの講習を受けたクリストファーは「時間をかけてトレーニングを受けるだけのことはあった。来年以降も継続したい」と、自信にあふれた様子だ。

 また、生徒同士のコミュニケーションをはかり、彼らの気持ちを落ち着かせる目的で「サークルタイム」と呼ばれる時間が設置されている。こちらの指導員は「ラーニングメンタル」と呼ばれ、専任で配置されている。

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