欧州の日本アニメ事情
── 「日本アニメ」海外発展の”分岐点”
今、日本のアニメーションが海外から注目されている。今後さらに、日本のアニメーションがより飛躍するためにはどうしたら良いのか。質の高いアニメーションと「売れる」アニメーションに違いはあるのか。3月27日、東京ビッグサイトで開幕された東京国際アニメフェアで、新作アピールや多彩なイベントが開催される中、日本貿易振興機構(JETRO)で輸出促進を担当する豊永真美氏が「日本アニメはステップ・アップを遂げられるか│欧州の日本アニメ事情」について講演した。
幼児期にアニメーションを見て育った人たちが大人になり、深夜に放映する大人向けのアニメーションニーズが高まっているのが、現在の日本だ。それに対して欧州、特にフランスでは現状「アニメーション」はいまだ「子ども」特に「小学校入学前の子どもたちのためのもの」という位置付けである、と豊永氏は指摘する。「フランスでは、学校が休みの日は、一日中アニメーションを放映している。幼児向け教育的アニメーションの需要は非常に高い」
一方で、規制も強い。EU内では「放映するコンテンツの5割がEU制作のものであること」という規定がある。フランスではその規定は6割とさらに高く、そのうち4割がフランス制作のものでなければならない。また、「アニメーションは子どものもの」という概念から、「暴力シーン」は歓迎されない。世界的に成功した日本アニメ「NARUTO│ナルト」はフランスでも放映されたが、ほとんどの戦闘シーンが削除された。
それでもノーカット版のニーズは高く、ノーカット版が放映されたものの、10歳以下は視聴禁止。日本では深夜に放映されているアニメ「MONSTER」は、フランスでの放映時間が18時であったために、「子どもには刺激が強すぎる」と強い批判があった。「EUは子どもの暴力に対して非常に厳しい規制がある」と豊永氏は話す。
その一方で、日本アニメのニーズは高く、ケーブルTVなど地上波以外の新しいチャンネルで紹介されるようになり、加入者が増えたという事実もある。
さらに、文化人からの「日本アニメ」を芸術的に評価する動きもある。ドイツでは、1800年から2008年までの日本のアニメ展を開催した。フランスでは、「マンガ学者ネットワーク」が2007年に設立、各地の公立博物館で、日本のアニメやマンガ関係の企画展が開催されており、大学でのマンガ・アニメ研究が、主に文化論の観点から進んでいる。「欧州でも活字離れが進んでおり、日本のコンテンツだと集客が見込める、という意図もある」と豊永氏は述べる。
一方スペインでは、日本アニメに対する好意は非常に高い傾向がある。海外受けが良いとはいえない「ドラえもん」や、殺人事件がストーリーの主体となっており通常放映が難しい「名探偵コナン」、倫理的な問題から受け入れられにくい「クレヨンしんちゃん」などが地上波で放映されており、日本のアニメ放映率は全体の36%以上にも上る。
衛星・ケーブルTVなどの有料チャンネルはスペインでは300万世帯(約20%)が視聴しており「NARUTO」はもちろん、古いところでは「みつばちマーヤの冒険」「アルプスの少女ハイジ」から「遊戯王」「聖闘士星矢」まで放映されているという。「ホラー系がEUでこれほど売れるのは珍しい」と豊永氏は述べる。
一方スペインでは、海賊版が横行しており、DVD販売による利益を上げにくい実情がある。家庭用ゲームに関しても同様で、簡単にプロテクトが外される。
また、映画に関しては「公開第一作は非常にうまくいくが、第二作目以降が成功しにくい。これは日本にとって真剣に考えるべき課題」だ。
(西田 理乃)
【2008年4月5日号】