IT教育は多様な環境で
教育の情報化をオープンソースソフトウェア(以下OSS)で進めることの利点と課題を明らかにすることを目的に、現在数地域でプロジェクトを実施、検証が進んでいる。オープンソースプラットフォーム(以下OSP)の課題は何か、教員の負担は軽減できるのか、初期導入・管理コストは低減できるか、教育効果は――OSPが教育に果たすべき役割について中川教授に聞いた。
「技術の世代交代はどんどん進み、既存のシステム上での限られたアプリケーションの使い方を教えるだけの情報教育はすぐに陳腐化してしまいます。今後も継続的な発明や発展が続くことが予想されるIT環境においては、その環境はオープンであることが望ましい。OSS環境は既存のものを排除するものではなく、多様な環境で学ぶ機会の提供を目的としています」と中川教授。多様な環境で学ぶことで技術的な課題と本質的な問題が自然と区別できるようになる。みんなで作る共協の文化も大切だ。そのひとつの方策としてOSS環境の教育効果を研究している。
平成17年度は、岐阜県及びつくば市でリナックスPCを4700名以上の児童生徒が授業で利用、京田辺市では3つの小中学校において210台のリナックスPCを1000名以上の児童が活用した。岡山県総社市では、シンクライアント型のOSS環境も検証。「その結果、生徒は何の問題もなくOSS環境を活用していました。また、シンクライアントによる一括ダウンロードは維持管理を大幅に軽減、導入・維持コストの低減分をサポート経費に回すことで、先生方が教育に専念できる可能性も見えてきました。小中学校の段階から、クラブ活動でプログラミングにも取り組みたいという前向きな姿勢も見られました」。
これら検証結果を踏まえ、平成18年には、普及パッケージの作成、コミュニティの支援、校務での活用、セキュリティの確保、普及方法についてを次なる課題として設定。新たに仙台市、柏市、大分市、つくばみらい市ほかに実験地域を拡大し、積極的に検討を進めていく。
「これからは本当に必要なのは、イノベーション(革新、創造、改革)が出来る人。モノではなくてヒト重視に移行してきており、技術だけでなく、ビジネスモデルでもオリジナリティがないと勝てません。文系理系関係なく個体の能力を発揮するためにも、『情報』の骨格は知っておいたほうが良い。そうした面からも、教育系の大学を出て先生になる人材にも、情報の専門基礎教育を行い、ちょっとした教材が自分でプログラミングできる程度のスキルが欲しいですね。教師にとって、自分の授業構成のための教材は自分で作ったほうが使いやすいのですから」。
(取材 西田理乃)
〈プロフィール〉工学部情報コミュニケーション工学科 ヒューマンインターフェイス及び手書きインターフェイスの論文多数
【2006年10月7日号】