「第20回デジタルコンテンツグランプリ」でDCAj会長賞を受賞した「ALWAYS 三丁目の夕日」は、昭和33年の東京を舞台にした映画だ。デジタルコンテンツ産業は今後、日本にとっても重要なジャンルといえるが、山崎貴監督に、デジタル技術の今後の可能性、それを育み支えていくにはどのような人材が必要なのかを聞いた。
「『三丁目の夕日』の受賞は、昭和のレトロな世界を最新のテクノロジーを用いて再現したもの。デジタルらしからぬ使い方をし、かつこれまでにないレベルまでに実現、成功している部分が評価されたのではないでしょうか。
原作を読み、この世界観を表現するためにはこれまでのCGのイメージを打ち破れるか否かが成功の鍵だと思っていました。小さなセットで撮影した映画では出来ないスケール感を表現したかった。そのためにあらゆる知恵を総動員し模索、CGに全て頼るのではなく、ミニチュアなどアナログの力も最大限に借り、それぞれの持ち味を生かしていきました。
特に難しかったのは大通りなどのカメラワークです。人の動きにあわせて変わる景色をリアルに見えるよう、何度も確認を重ねていきました。オープニングの制作だけで、3ヶ月はかかりましたね」。
映画制作の監督は、優秀なスタッフを集め、そのモチベーションを高めることも重要な役割だ。
「欲しい人材ですか?センスのある人で、『一』言えば『十』分かる人。『自分』がありながら素直で吸収が良く、どんどん進歩していく人でしょうか。いい仕事をしていると優秀なスタッフが集まってきますから、こちらがいい仕事をし続けることが重要ですね」。
最近ようやく人に仕事を任せられるようになった、これまではVFX※にしろミニチュア制作にしろ、全て自分でやりたくて、と微笑む。小学校の頃から「ゴジラ」や「ウルトラマン」に憧れ、「特撮マン」になることが夢だった。その夢は早期に果たし、「自分が本当に創りたい世界を創る」ために監督になった。
「小学校高学年のときの先生は、自分の好きなことを最後までやり遂げることに高い評価を与えてくれる先生でした。5年のとき、『登山記』を原稿用紙50枚書くと宣言してやり遂げたのですが、とても大きな達成感がありましたし、評価もされました。それに快感を覚え、修学旅行では、徹夜しながら400枚。ちょっとしたことですが、『勝ち癖』の快感を少年時代に味わったことは、後々の人生で役立っています」。
VFXの第一人者ではあるが、技術はツールに過ぎないと言う。「技術が主役になる時代は既に終わり。技術は、創りたい映像を実現するための力強い脇役です。新しい技術を何にどう使うのか、それを描けるのは、鉛筆できちんと絵が描ける人でしょうね」
(取材 西田理乃)
※Visual Effectsの略。現実には見ることのできない画面効果を実現するための技術
【プロフィール】
(株)白組所属。
2000年「Juvenile(ジュブナイル)で監督デビュー。
「ALWAYS 三丁目の夕日」DVD及びビデオは6月9日より発売開始。
2006年3月3日発表「日本アカデミー賞」では「作品賞」「脚本賞」ほか13部門中12部門を受賞。
【2006年3月4日号】