早くから「大学改革」に取り組み、その成功事例をいち早く出している早稲田大学。毎年出されている「企業の人事部長が下した出口評価 役に立つ大学ランキング」(ダイヤモンド社)では、早稲田大学文系が1位、2位は同大理系と、高評価だ。かねてより大学改革の要としていくつもの改革案を支える白井克彦総長に、その取り組みについて聞いた。
大学を改革すべきと考えたのはいつから、と問うと「学生時代から」と総長は応えた。
「戦後、高度成長期に貢献し製造業を支える人材を、早稲田は多く輩出してきた。しかし欧米のトップクラスの大学に比べると、その設備や研究層の厚みは、まだまだ。もっと大学らしく、研究機関としてふさわしい雰囲気にしていきたい。それには、素質のある学生が、より自由に、その素質をエネルギーとして出せる “仕掛け”が必要だ」。
教務改革を行い事務を効率化し、学生の英語力底上げのために組織的なトレーニングを取り入れ、アウトソースも活用、かつ自由に研究やプロジェクトを立ち上げられる環境や刺激を次々に用意、改革を進めてきた。
「学生らを引き付ける教師たちのグループが生まれた。研究も同じ。自由に研究プロジェクトを立ち上げ、研究所を名乗り、必要ならば企業などからお金を集めるといった、昔とは異なった動きがキャンパス内で出てきている。それには大学らしい学び方、考え方、行動を教えることが必要。大学の面白さは、高校とは全く異なる。その面白さを、早い時期に学生たちに味わわせたい。それが出来れば学生もエキサイティングだし、教員自身も面白い」。
単位が取れれば卒業、という流れは今も健在だが、それだけだと形骸化が進み、大学らしい教育機関としての雰囲気は保てない、と述べる。
改革の丁度良い刺激剤となったのが、コンピュータやインターネットなどの導入だ。先端技術は、新しいムーブメントを起こすきっかけとなる。「どう教育利用していけば良いのか、データベースをどう用意しどう公開していくべきか。新しいテーマが注目され、人が集まった。企業からは、研究費や機材提供など、エキストラなお金という形での協力を得た。ここで自由度の高い提案型の研究が出来た」。研究に対して企業からの協力が得やすいのは、早稲田という総合大学のスケールの大きさから生まれる「大学力」の1つといえる。
改革のための「仕掛け」の基本は、「意欲のある学生を学問的に満たせる、21世紀型の学習環境」の実現だ。例えば、中国の大学と交換留学を行い、両大学の卒業条件を満たすプログラムを作成した「ダブルディグリープログラム」では、学生の意欲と努力次第で、4年間で2大学の卒業資格が得ることも可能だ。また、私立大学相互間のWEBベース上での授業交換・単位交換もいち早く取り入れた。99年より開始したインターネットを活用した異文化交流プログラムは、いまや21カ国44校にまで拡大し、定着。このほか、「何かをせずにはいられない」「一生を支えるに足る4年間を過ごせる」環境の提供を意図的に用意していく。
学生の実務的な能力を鍛える際には、積極的に外部の力を借りる。日本語文章能力検定協会のプログラムは、学生に人気がある。また、英語力の底上げは、学生1万人を対象に英語教育を徹底して行っており、それに必要な講師は、外部からの人材派遣で補う。従来の英語教員では数的に対応できないからだ。これにより、半年から1年でTOEFL500点程度の実力はつくという。
昨年度の早稲田からの留学生は800人にも及ぶが「留学して積極的に学ぶには、600点近くは欲しい。そこまで底上げするにはどうすれば良いのか、方策を考えている」と述べる。
改革成功の世評に満足してはいない。「一回成功すると、ブランド化が起こり、次のイノベーションが出にくくなる。けれど、ひとつの流れは、大体10年で陳腐化するもの。大学は、少し変えるだけでも時間と労力が必要。先んじて次々に新しい展開を考えていなかければ」。(取材 西田理乃)
<プロフィール>
白井 克彦 (しらい・かつひこ)
・早稲田大学事務システムセンター所長、教務部長、国際交流センター所長、早稲田大学副総長を歴任し、2002年11月5日より早稲田大学第15代総長に就任。
工学博士。
10月、『大学力―早稲田の社から「変える力」を考える』(主婦の友社)を上梓。
【2005年10月8日号】