これまで学校ITの普及が学力にどう影響を与えるのか、という視点で研究者に話を聞いてきた。ここでいう「学力」とは、社会で活躍できる力、という意味でもある。それでは現在IT業界で活躍している人々は、どのような力を身に付け、目まぐるしい技術変革の中において、どう生かしているのか。IT業界の最先端でソリューション展開を担ってきた齊藤氏に伺った。
東京大学経済学部を卒業後、「来るべきネットワーク社会」を予測し、NTTに就職。大企業向け通信ネットワークの販売・構築等新規通信サービス構築に関わるうちに、「分断されたテレコム通信の世界は、今後インターネットに飲み込まれていく」と考え、退職。97年、米国展開できるインターネット・ビジネスの知識を身につけ、マサチューセッツ工科大学(MIT)に入学した。MITでは「ベンチャーマネージメント」を学ぶ。その理由は「インターネットはベンチャーが作っていくビジネスだから。インターネットビジネスは、ユーザーが満足しなければ広まらない」。
卒業後、ネットスケープ・コミュニケーションズ社の日本サイトのビジネス統括マネジャーとなり、ネットスケープを日本にもたらす。しかし、次第にネット上のコンテンツ制作に興味をシフト、「アメリカの日本担当というポジションでは、制作できない」と、99年退社。早々とネットワーク・ソリューション構築を手がけていたデジタルガレージで、大企業とアライアンスを組み、インターネットを活用した新しいビジネスソリューションに取り組んだ。
その後、ブロードバンドインフラの飛躍的な普及に伴い、「通信」と「放送」の融合に可能性を見出す。現在「デジタルネットワークアプライアンス」代表として、テレビオンデマンド(TDO)サービス「でじゃ」(
http://www.deja.tv/)に取り組んでいる。
「高いクオリティをもつコンテンツを、誰でもが発信できる世界がやってきた。このイノベーションから、どんな世界が生まれるのか、まだ誰もわかっていない。しかし、何かが必ず起こる。その真ん中でビジネスを展開していきたい」。
学生時代からITを学んでいたわけではない。経済学部の視点で「次世代に影響を与えるイノベーションとその効果」から「利潤を如何に上げていくか」を学び、そこで辿り着いたイノベーションが「IT」の世界だった。
「MITでは、ビジネスモデルを毎日のように考える。IT業界もまた同じ。毎日のようにビジネスモデルを考えていかなければならない。今は“成功”よりも“サバイブ”することに意味がある。それだけ、生き残りが難しい時代ということ」
常に、「これから起こるイノベーション」が思考の軸となり、行動の起点となっている。
(取材 西田理乃)
「社会で必要とされる力とは」
●世の中が変わっても自分の価値観を持った軸で考えられる力
●世界に通じるビジネスモデルを構築する力
●イノベーションを柔軟に受け入れ、あるいは見通せる力
<プロフィール>
齋藤茂樹 (さいとう しげき)
・日本MITエンタープライズフォーラム理事 デジタルハリウッド大学院教員。
東京大学経済学部卒業後、85年NTTに入社。94年退社。
97年、米国マサチューセッツ工科大学でMBA取得。
その後、ネットスケープ・コミュニケーションズ入社。
99年デジタル・ガレージ入社。
2003年11月より現職。
【2004年10月9日号】