学校ITは様々なジャンルで活用されるべきツール
といえるが、今回はデザインという立場から、コンピュータ
グラフィック(以下CGと略)創生のころよりプログラミング
によるデザインに携わってきた大平教授に伺う。
ITリテラシーというと、メールやワープロ等ツールのオペレーションがほとんどですが、我々の立場から言うと、ワープロ活用やネット活用だけでは困るわけです。もちろんフォトショップやイラストレータなど優れたソフトウェアもありますが、それも一つのツールにしか過ぎず、CGコンテストを行うと、まるで「フォトショップの使い
方コンテスト」となってしまう現状は否めません。ひとつひとつの作品が皆似通ってしまい、独創性やオリジナリティが見えにくい作品になってしまうのです。そこで私は、C言語を使ったプログラミングで作品を制作する授業を行っています。コンピュータを、ソフトを動かしたりネットにつなぐという使い方ではなく「自分の思考プロセスを確認する」ために使うわけです。
ソフトウェアツールで作った作品は、プログラミングは残らず、結果思考の過程が見えません。画像や印刷物として残すことはできますが、PC環境が変わると、色ひとつ、サイズひとつとっても再生状況が変わってきます。しかしプログラミングが残っていれば、的確な再現や応用がいくらでも可能なわけですし、第三者に伝えることも容易になります。
デザイナーは実際の製造に関わるわけではありません。その分、的確に制作プロセスを製造者へ伝達しなければなりません。出来上がった印刷物や画像だけでは、デザイナーの意図は正確には伝わらないのです。正確な再現のためには制作プロセスの厳密な表現が必要です。それをプログラミング言語が実現するわけです。
ツールだとマウスで対話的にやらねばならず、膨大な時間がかかりますが、プログラミングは、時間をかけるのは「組むまで」である、ということも特長です。一から作るわけですから、自らの審美感や世界観、オリジナリティもごく自然に出てきます。
プログラミングは理数系のもの、美術大学に入学する学生は数学がそう得意ではない、と思われがちですが、彼らが苦手とするのは入試を目指した数学で、作品制作に関わる論理的な数学には意欲的です。結果、これまで疎遠だった数式や三角関数、確率・統計といった数学にも自ら取り組んでいきます。彼らのためにも、制作プロセスを理解しやすく、興味を持ってもらえるような授業作りを心がけたいですね。多くの人にプログラムすることの面白さを伝えていければと考えています。
アメリカでは、第二外国語としてプログラミング言語が認められる方向にあると聞いています。これは、よりインターナショナルな傾向といえるでしょう。今後日本でも同様の動きが起こることが予想しています。
「学校ITは学力にどんな影響を与えるのか」
●プログラミング言語が第2言語となる可能性がある
●プログラミングにより自分の思考の過程が明らかになる
●美術系の学生でも、作品制作に関わる論理的な数学には意欲的に取り組む
<プロフィール>
大平智弘
千葉大学大学院工学研究科修了。
1971年、通産省工業技術院製品科学研究所入所。
1977〜78年、マサチュセッツ工科大学アーキテクチュアマシングループ客員研究員。
1985年より東海大学短期大学教授、東海大学芸術研究所所員を歴任。
1999年より現職。
【2004年6月5日号】