コンピュータを用いた協調学習支援・ネットワーク上の学習者コミュニティ構築・高等教育機関における学習のテクノロジー支援を研究領域としている中原淳氏に、現代アメリカが目指している教育政策と、日本の教育のこれからについて聞いた。
NCLB(NoChild Left Behind・一人の 落ちこぼれもない教育法)──現代アメリカ教育の合い言葉だ。基礎的な学力、すなわち「数学」の力、「読解」の基礎を早期に徹底的に習熟させること。「科学的」な一斉テストを、3〜8年生までは毎年、10〜12年生までには少なくとも1回は行うこと。テストの成果・結果は、保護者、先生、教育長などに詳細なレポートとして公開すること。
保護者は、レポートの結果を受け、校長に質問したり、学校を選択することが出来る。2年間にわたって成績不振の学校は、改善計画を提出する。3年間に渡り成績不振の場合、親に対して学校選択の通知が行われ、4年だと一部の教員の配置換え・カリキュラムの改善をせねばならず、5年間不振だと、州や民間会社へ、学校経営の移譲が行われる──。
NCLBが2002年、ブッシュ大統領によりアメリカで打ち立てられた当時、実行不可能だ、あり得ない法案だ、と誰もが思っていた。ところが今年5月、アメリカ最大の情報教育カンファレンスであるNECC2003に参加したところ、政策が形になり、それに伴い学校は変わり、教育産業の動きも変わっていた。
「知識蓄積重視」への反省から90年代に主流となった「交流学習」「協調学習」の比重は低くなっており、今年のNECC2003では「基礎的な力」を高めるツールとそれを「評価」「テスト」するためのツール・システムの利活用・開発の比重が大変大きくなっていた。
アメリカの全ての教員が『スーパーティーチャー』であるわけではない。みんな、本気で取り組まなければならなくて、素朴に悩んでいる。それを解決すべく、教員の研修プログラムもe-Learningでオンライン化が進んでいる。
これらの実現のため、学校には、これまでに比べてより高額な運営資金が与えられている。また、それ以上の資金も「競争」によって獲得することが出来る。
日本でも、全く同じ政策がとられる可能性は低いが、同じようなことは問われていくだろう。どんな学校実践をどのような体制で行い、どんな知識が身に付くか、どう改善していくかを保護者にアカウントしていくことになる。
そのとき教師に求められることは、実践を語れる力。その実践が基礎学力を強化するものであれ、協同学習であれ、如何に面白く魅力的かつ効果的かを語れるか、が重要になる。
全ての教員にそれを求めるのは難しい面もあるが、その際に活用できるのが「学校単位のプロジェクト」や「教員グループ」での「情報の共有化」だ。教員の「情報の共有化」の実現にも、学校ITは役に立つはずだ。
「学校ITは学力にどんな影響を与えるのか」
○学習ツールとして活用され、基礎学力の習熟に活用される
○今、どのような教育を行っており、どのように子どもの力が伸びていくのか、それをアカウントしていくためのツールとなる
○教員研修がe-Learning化し、教員の資質が高まる
○情報の共有化により、教員の専門性が高まる
<プロフィール>
文部科学省 メディア教育開発センター 研究開発部
メディア活用研究開発系 メディア環境開発研究部門 助手。
編著書・共著に「eラーニング・マネジメント- 大学の挑戦」(オーム社)
「社会人大学院へ行こう」(NHK出版)ほか。
【2003年10月4日号】