「今、子どもたちに求められている力。それが『確かな学力』だ」と原氏は定義する。具体的には「課題を見つける意欲や主体的に学ぶ力」であり、モノを調べ、インタビューし、まとめる力でもある。
しかしこれらは放って置いても身に付くものではなく、訓練が必要だ。さらに、ある程度知識や技能がなければ身に付いていかないものでもある。両者はスパイラルに高めていかなければならない。
「学校は、確かな学力を定着させるためにも、知識や技能といった基礎基本を確実に習得させていく場でなければならない。その際、学校ITを『教科書』同様に『どのように使うか』を考えることが今、必要とされている」。
そこで問題となるのが、教員の「指導する力」だ。「コンテンツをどの場面でどう使うかを工夫したり、どう授業を展開すれば良いか、考えていくことが必要。教員が覚悟を決めて乗り越えていかなければならない『壁』でもある。それには、『教えるべき内容』と『考えさせるべき内容』を明確にし、かつ両者を関連づけていかなければならない」。
では、具体的に教員に望まれている力とは何か。
それを原氏は以下のように定義する。
・授業や校務処理で利活用するソフトウエアやコンピュータなどの情報機器の基
本的な操作ができる。
・ネットワークやコンピュータなどを利活用して教材や資料を作成できる。
・情報教育の3つの目標(「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」)が説明できる。
・教科や「総合的な学習の時間」で情報教育の目標に即した授業を計画することができる。・学習活動で活用する情報手段やメディアを準備することができる。
・情報手段やメディアを活用した学習指導ができる。
・情報通信ネットワークを介した情報送受信でのルールやマナーを知り、それらを守ることができる。
・著作権に関することを理解し、説明できると共に生活において守ることができる。
これらの力をつけるためにも、教員のための研修は、これまでのような座学ではなく、体験的に体で覚えるような方法が必要になってくる。
「例えば教員が、ネットワークを使い、悩みを共有し、仲間を見つけ、問題を解決していくコラボレーションの楽しさを知っていたほうが、授業は生き生きしてくる。これまで実績を上げている優秀な先生は数多くいる。しかし、誰もが認める優秀な教員ではなくとも実行可能でなければ、全国4万校の児童・生徒が気の毒だ。ごく普通の先生でも出来る方法に落とし込んでいかなければ」。
各学年ごと、学期ごとに1パターンづつでの教材パッケージを提案し、そのモデルを示すこともその方策のひとつだ。ドリルをHP上にアップしておき、いつでも印刷して使えるようにしておくことも、手軽で効果的な活用といえる。これまで一斉授業で行ってきた知識や技能の習得だが、これら基礎的な力と呼ばれるものの基本は「ドリルである」と考えている。教科書だけでは分かりにくい素材をアニメーション化した教材やデジタル化された教科書を用い、生徒の理解を促すことも可能だ。
また、児童や生徒のモチベーションを最も効果的に高める方法として、原氏は「評価をリアルタイムで行うこと」を提案する。「例えば問題をさせ、その場で点数を計算し、それに対する評価を行う。これを即日行うだけで、児童・生徒のモチベーションは高まる。ところが、「一日おくと、とたんに意欲が落ちていく」という。
原氏の主催する研修会「はら研」には現職の校長も2人参加しているが「意欲的にIT活用を考え、2年先にどんな生徒像を目指すか、そのために今できることは何かを考えており、全体が見えている。だから説得力がある。これからは、校長の力が問われる時代でもある」。
また、今後の教育委員会の動きにも注目している。
「教育委員会が力を持っていれば、もっと学校の環境整備は進むはず。光る人材が教委にはまだまだ少ないのでは。これからの教委は、文科省からの指示伝達機関ではなく、教育サービスをもっと研究しなければならない。学校ITの前に、教委ITについて真摯に考え、教委自身が変わらなければならない」と述べる。
「ITは学力向上にどんな影響を与えるのか」
○教師の工夫次第で児童生徒の興味関心に応じた教材の提供ができる。
○教師自身が「新しい力」をつける機会を増幅させる。
○学習者の能力に応じた基礎学力向上のための環境が提供できる。
○学校以外の学習の場が拡大し「学力」のとらえ方を変える可能性を秘めている。
○「学力」は学校以外の場で磨くものだという社会になる。(過激かな?)
<プロフィール>
園田学園女子大学情報教育センター助教授・日本教育工学会企画委員・科学技術
理解増進事業推進委員会「サイエンスQA広場分科会」委員・日本教育工学協会理事
園田学園女子大学情報コミュニケーション学科
http://www.sonoda-u.ac.jp/private/k61011/
情報教育センター
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【2003年10月4日号】