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■セキュリティ・ネットワーク・普通教室

全小学校にタブレットPC1300台の試み
    基礎学力向上目標に活用の研究・検証・発信へ
                      和歌山県・和歌山市の情報化

フラッシュ型教材でリズミカルに読みの練習
まずはフラッシュ型教材で腕ならし

 「これから漢字と言葉の勉強をします。空欄に入る漢字を当ててみよう。これわかるひと?」黒板に張られたスクリーンには、「大□、□手」とプロジェクターで大きく映されている。2つの二字熟語に共通して使用される漢字を当てるワークだ。1人が手を挙げると成瀬雅海先生は「ではみんなにもヒントを教えて」と呼びかける。「2画」という級友のヒントに周りの児童の手も少しずつ挙がりだす。和歌山市立有功東小学校の5学年「漢字と言葉」の授業の一こまだ。

 今年度、市内の全小学校52校にタブレットPC計1300台を導入した和歌山市では、10月5日、同環境を活用した公開授業がPCルームで行われた。まず最初にプロジェクターを活用した一斉授業で授業の流れをつくる。続けて、子どもたちはテンポ良く映し出される漢字を大きな声で読み上げる。子どもたちの集中力が増したところで、成瀬先生はタブレットPCへのログインを児童に促した。

  円卓が置かれたPC室に並んだタブレットPCは35台。ディスプレイ上には、「かきじゅん」「音読み」「訓読み」「熟語」などと表示されている。子どもたちは専用ペンで入力欄に1つの漢字を4度入力、「はんてい」をクリックすると、書き順、トメ、ハネについて採点される。自分のペースに合わせて即座に正誤が確認できるので、子どもたちはゲーム感覚で次から次へとペンを片手に問題を解いていく。学び終わった単語は各自のワークシートに鉛筆でチェックを入れる。

円卓に並ぶタブレットPCで漢字の学習
円卓に並ぶタブレットPCで漢字の学習。
自分のペースで学べて、その場で採点してくれる

  改めて手本を確認したければタブレットPCで「かきじゅん」「おてほんをひらく」で見直すことができる。左利きにも対応しており、左利きの子どもも専用画面で違和感なく利用できる。一人一人の学習履歴は保存されるため、教員は個々の学習の進度や問題の正誤の把握もしやすい。

 

 

 

 

 

鉛筆同様、自然なスタイルで専用ペンで練習する
専用ペンで解答。自然なスタイルで誰もが簡単に使える

 

入力データはPCがその場で即採点。熟語、音読み、訓読みなどを同じ画面で確認できる
ペンで解答すればモニター上でPCが採点してくれる。熟語や音読み、訓読みなども提示され学べる仕組み

 

◇   ◇

成瀬先生は、タブレットPCを学習に活用する効果について、「子どもたちの進度に合わせられる点が良い。授業の効率化によって生まれる時間を、進みの遅い子への個別の指導や教材研究に当てられるのでありがたい。子どもたちもノートと鉛筆の感覚に近い形で使えるので、キーボード入力に抵抗のあった子どもでも使いやすく、PCを教育で利用するハードルが下がった」と語った。
また男子児童は「タブレットPCを使うと、ゲームのような感覚で楽しい。自分で消すのも簡単。書き順の採点が厳しいところが面白い。ちょっとだけ勉強する時間が延びた」と話した。

和歌山市内NIME・マイクロソフト共同でWプロジェクト 和歌山市発の先進事例に意欲

10月5日には和歌山市役所で調印式が行われ、大橋健一和歌山市市長(左)とマイクロソフト執行役常務 公共インダストリー統括本部長・大井川和彦氏(右)が署名
10月5日には和歌山市役所で調印式が行われ、大橋健一和歌山市市長(左)とマイクロソフト執行役常務公共インダストリー統括本部長・大井川和彦氏(右)が署名

 和歌山市では教育の情報化の一環として、NIMEとマイクロソフトが進めるNEXTプロジェクトと連携しながら2年間の共同研究「ICTを活用した学力向上のための研究プロジェクト」(Wプロジェクト)を実施。基礎学力の向上にとどまらず、各教科での活用や探求学習での活用も視野に入れた取組みを行う(初年度の研究テーマ「ICTを活用した基礎学力の向上」)。

  研究協力校に指定された、有功東小学校、雑賀小学校、四箇郷小学校の3校には、PC室に一クラス分のタブレットPCを整備、また普通教室での利用にはUMPCの貸与などを行う。

大橋健一市長
  社会の情報化が進み、子どもの生活にも携帯やネットが普及しICTが身近になっている。小学校のパソコンの入れ替えを機会に、子どもたちの基礎学力の向上に役立つものを取り入れたいと考えていた。Wプロジェクトを実施することで、子どもの学習への意欲や創造性を高め、教育の質を上げていきたい。教育の質を高めるため、ノートのように書いたり計算できるタブレットPCの活用は、基礎学力の向上に効果があると思う。筆順、ハネ、まで確認できる。当然PCだけで学力が向上するとは思わないが、これまで培ってきた教師の指導力と融合して、より効果を発揮できる。和歌山市から先進的な事例が広がっていくことに期待している。