私学特集
東大生に聞く
「自ら学ぶ力」獲得した場所
家庭、大学、高校がベスト3-学生生活調査-
東京大学広報委員会は昨年12月、第53回学生生活実態調査を公表した。今回は新たに「自ら学ぶ力」に関する質問を加え、学部の在籍者4分の1を抽出。2003年12月に郵送調査した。「自ら学ぶ力」を身につけた場所は、「家庭」、「大学」、「高校」がベスト3で、考える力を向上させる有効な方法は、「議論」「読書」がキーワード。また、「日本の教育の現状とこれから向かうべき方向」に関する自由記述では、ゆとり教育への批判が目立った。
■入学の動機
東京大学に「どうしても入りたかった」学生は48・6%で、その割合は女子よりも男子が6・1ポイント上回った。「入学の動機」は「私大に比べて授業料が安いから」が49・6%と最多で、「社会的評価が高いから」48・7%を若干上回る。「スタッフ・設備が優れているから」36・0%、「将来の就職を考えて」29・9%は4、5番目という結果となった。
学生生活の状況について、インターネットを利用している学生は98・4%とほぼ全員で、コンピュータを個人所有している学生も87・7%と9割弱。利用頻度は「毎日」が45・1%、「1日に2、3度以上」が19・8%と、毎日インターネットを利用する学生が6割を超える。
■「自ら学ぶ力」
今回初めて設けられた質問である。「自ら学ぶ力」をつけるのに最も役立った場所は、「家庭」が37・3%と最も高く、家庭での教育が第一位。次いで「大学」35・9%、「高等学校」34・9%、「学習塾・予備校」27・7%の順。小、中学校は10%台と義務教育の比率は低い。文系・理系別では、文系では大学の比率が、理系では高校の比率が高くなっている。
一方、「疑問に思ったことは、納得がいくまで考える」、「人に教えてもらうよりも自分で考えたくなる」が「大いにある」と「かなりある」を合わせた割合は、中学・高校時代の方が、大学よりも若干高く、「試験に出ないことでも、勉強することがある」は大学の方がかなり高くなっている。
■学力向上の対策
義務教育課程で学力を向上させるのに特に有効と思われる対策について聞くと、「少人数クラス編成にする」が52・0%でトップ。次いで、「習熟度別クラス編成にする」50・0%、「教員の研修を強化し、評価も行う」41・8%と続く。
また、大学時代に「自分で考える力」を向上させるのに特に有効な方法は、「少人数の授業などに出て、教員や学生との議論の場を持つ」が51・8%と第1位。次いで第2位「専門分野の書物をたくさん読む」44・9%、第3位「専門以外の分野の書物をたくさん読む」44・6%、第4位「授業以外の場で普段から友人と議論しあう」37・0%が上位を占め、「議論」「読書」がキーワードだ。
■大学への要望
大学への要望や期待することは、「授業の方法の工夫・改善」が41・1%で前回調査同様最多で、次いで「カリキュラムの改革」30・8%、「少人数教育の実施」25・2%、「進学振分け制度の改善」23・6%の順になった。
■ゆとり教育に対する
批判多く
下記は、「日本の教育の現状とこれから向かうべき方向」について学生の具体的記述からの抜粋。目立ったのは「知識がなければ考えようがない」という趣旨でのゆとり教育への批判である。教育改革への関心が高まっている折、現役学生の考えを少し長いが紹介する。
日本の教育、ここを変えて!
基礎知識こそ前提
ゆとり教育への批判目立つ
〈文一・文二・文三男子〉──東大生具体記述- 小・中学校までの極めて緩慢な授業進度に比べて、高校の授業進度が速すぎる。校種別の学科内容の配分がうまく行われていない。
- 小手先の教育改革やカリキュラム変更に固執するあまり、学問人にとって最も重要で、学問への情熱の土台となるべき価値基準の育成・教育を疎かにしてしまっているのが現状だと思う。小・中学生などの精神的に未熟な時期には伝統・道徳教育を中心とし、高校・大学生の時期にこそ、自己のアイデンティティや価値基準を相対化させる教育を重視すべきである。
- 学力低下は国の衰退を早める。学習意欲につながる競争を模索すべき。
- 現行の教育は基礎を疎かにしすぎている。若いうちはとにかく知識を吸収すべきで、「考える力」はあとからいくらでも学べる。
- ゆとり教育といって量を減らしたため学力が低下して問題になったが、効率を上げてゆとりを作るべきだった。
- システムの問題で言うと、初等・中等教育と高等教育、職業教育のつながりがあまり考えられずに政策が決められている。大学や産業界で求められている知識や技能と初中教育の内容が離れすぎている部分がある。
〈理一男子〉
- ゆとり教育は止めた方が良いと思う。学力低下により素晴らしい人材が育たなくなる可能性がある。
- ゆとり教育とか言っているが、自分で考えるにはそれなりの知識(技術・方法)が必要。義務教育の年頃はまだ自分から先に進むのは難しいだろうから、義務教育としてできるだけ多くの道を提示してあげるのが良いと思う。
〈理一女子〉
- 中学や高校での多少つめこみ主義的な勉強は、応用を学ぶ上での基礎になり、応用的なことを学んでいくうちに勉強が楽しくなってくる、という考えです。
〈法学部男子〉- これからは外に向かって発信する力、具体的にはプレゼン能力とディスカッション能力を身につける機会を小さいうちから多く与えるべきである。
- まもなく大学を卒業する今になって小中高校大学と振り返ったときに感じるのは、「詰め込み教育」の有り難さです。読み、書き、計算をドリルで徹底的に習熟させ、歴史の流れを把握しながら人物や地名、事件について覚える、このような「学問をする上でもっとも基礎的な体力」を習練させてくれた親や兄弟、学校の先生に私は深く感謝します。なぜならば、「考える力」というのはこれらの前提知識という「基礎体力」抜きには決して身に付かないものだからです。
- 量だけを減らすのではなく、とび級、留年を柔軟に認めて、時間を増やしてゆとり教育を実現すべき。
- 今の教育は、それぞれの段階での目標のスパンが短すぎるのではないかと思う。大学入試にとらわれる高校教育のみでなく、小学校、中学校の段階から、子どもたちが将来に関して主体的に考えられるような教育を模索すべきだと考える。
- 現状において、「自分で考える力」が強調されすぎているように感じます。まず、考えるための知識、先人の歩んだ道、業績をしっかり身につけることが大切ではないでしょうか。それができれば、おのずと自己の考えを表せるようになると思います。
〈工学部男子〉
- 教育者はもっと評価を受けるべき。サラリーマンの様にしないと改善しない。
- 知識を植え付けるだけでなく、その先の知識の運用方法を教えるべき。
- 日本の若者は自分も含めあまりに“夢”がなく、何とか子どもたちが“夢”を持てるような教育にできないか。
- 国際化へ対応できるよう語学教育の充実、交換留学・語学留学などの学生への積極的あっせん、制度充実、ゆとり教育の見直し。
〈教育学部男子〉
- 市場主義化、選抜化志向の流れを見直し、子どもの学びを中心に捉える教育の流れを作っていくべきだと思う。
- もっともっと少人数で、自分で調べたりする機会が増えるとか、大学のゼミ的要素を取り入れるべきだと思う。
〈教育学部女子〉
- 教育の地方分権化、自由化などの中で市場原理の介入など顕著ですが、教育は最低限の保障はすべきと思う。公立校をもっと充実化させ、機会均等の原理を大事にしてほしい。
- 日本はどうしても学力偏重型社会でそれが序列化・差別化の原因になる。しかし、「学力向上」を目指すなら、もっと子どもが可能性を拡げられるだけの公的支援(教育費軽減、奨学金充実、学校施設や学校法人等への補助拡大など)が求められる。日本の何よりの財は「人」であり、人材育成にもっと力を入れるべきだ。
【2005年2月5日号】