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■金融教育元年
冒頭のスピーチでは与謝野馨内閣府特命担当大臣(金融・経済財政政策)が登壇。「金融教育の変化とともに、個人の人生設計も変わってきた。当事者意識を持って取り組めば、その果実を得ることができる一方、リスクやトラブルに遭うケースもある。金融経済の基礎知識に立脚して、自らの判断で意思決定を行うことを金融経済リテラシーと呼んでいる。この金融経済リテラシーを身につけて賢く生きていくことが必要」などと述べ、個人や共同体にとっても金融経済教育は意義があると語った。
シンポジウム
シンポジウムでは、携帯電話に掛かる費用面について、あまり意識していない日本の子どもや、家庭・学校のなかで積極的にお金に関する教育が取り組まれている、英国やフィンランドの事例をVTRで紹介。登壇者はそれぞれの立場から、家庭と学校の双方で金銭教育に取り組む必要性を指摘した。
「基本的考え方や見方をもとに自分で判断する体験が次へのステップにつながる。金融教育も教え込むのではなく、場面を設定して生徒に考える場を作り、体験的に学ばせることが大切」(三枝利多教諭 東京都目黒区立第二中学校)。
「お金と心は結びついているが、それが一緒になると問題を引き起こす。どのようにお金と距離を置いて付き合っていくか、教えることが大切」(香山リカ氏 精神科医・大学教員)
「今の時代、お金を稼ぐためには労力を要するということが子どもには見えにくい。使うことと稼ぐことの2つの側面のうち、稼ぐことの方が見えなくなってしまったため、子どもにとってお金は使うときの手段としか見えていない」(畑村洋太郎氏 工学博士・大学教授)
「人生の本質は夢の追求にある。ほとんど全ての場で人々を仲介するものがお金。上手に使うことで夢の実現を助けるものになるが、狂わせることにもなる。お金との付き合いは、生き方や価値観が反映される。夢を確定させてしっかり生きて、しっかり使って欲しい」(福井氏)。
分科会
分科会では、幼・小・中・高校の実践が各会場に分かれ紹介。シンポジウムでパネリストとして登壇した三枝先生は中学校の部で、「家計のシミュレーションと模擬商談」を発表。
生徒役の参加者は、月収70万円の設定で住居費・教育費・自動車・保険など各月10の支出項目一つ一つに3つの支払金額(選択肢)から答える。
その後5年間の各月に起こること(台風でアンテナ故障10万円支払=住居費/子どもの合格祝いで外食=食費、など)が記されたカードの中から任意のものを引き、出来事に応じて各月毎の収支や預貯金残高、満足度・我慢度(カードに記載。各項目の選択肢により異なる)をシートに記入。
最後に収支残高と満足度・我慢度の合計を出すことで、一定期間の家計のお金の動きや社会との関連性を知るシミュレーション教材だ。
「単元設定の学習内容では価格の働きについて学ぶ場面設定が少ない。シミュレーションゲームは、予算的に限られた条件の中で、どの項目に重きを置き、何を削るのかといった『希少性』『選択』『責任』について学習できる」(三枝先生)だけでなく、そこで学んだ課題意識をゲームで終わらせず、現実的なものにするために先生は更に商談の場を設定。生徒に外部の専門家と実際にやり取りさせる。
「外部の方を授業に招くと事前準備に労力はかかるが、生徒の関心欲が高まる。指摘されたら現実的なことを知ることができて刺激になるし、褒められれば自信にもつながる。大人と対等に話ができたという経験が次につながる」と先生は狙いを語り、学外と連携した授業の有効性について説明した。
【2005年12月3日号】