高校新学習指導要領により新設された普通教科「情報」が、全国の普通科高校で実施されている。普通教科「情報」実施の3年目を迎え、「教科『情報』の授業における工夫と課題」をテーマに8月26日、関東地区情報教育研究会合同研究大会第1回東京大会が開催された。
講演する永井教科調査官 |
文部科学省教科調査官の永井克昇氏によると、普通教科「情報」の研究会は全国35都道府県に設置され、着実に広がっている。同氏は、「こういう会をどんどん組織化していただき、全国的に普通教科・情報・を元気づけていってもらいたい」と話した。そして、普通教科「情報」の最終目標は、情報活用能力を身につけさせるといったことではなく、学力の向上、学習意欲の向上にあると指摘。例えば、良いデジタルコンテンツがあれば良い授業になる、のではなく、良い授業を作るのは教員の力量であり、ITによって引きつけた生徒たちの興味を次のステップに発展させていかなくてはならないと言及した。
文部科学省は、「初等中等教育における教育の情報化に関する検討会」と中央教育審議会初等中等教育分科会「家庭、技術・家庭、情報専門部会」で教科「情報」を含めた情報教育の今後の在り方について検討を行っている。永井教科調査官は「教科『情報』に吹いているたくさんの風」に注目しよう、と強調した。
続いて、分科会で17校・研究会が概要報告した。神奈川県高等学校教科研究会情報部会では今年4月、生徒の高校入学前の情報に関する知識がどの程度であるか把握するため、県内の高校に呼びかけ「導入テスト」を実施した。4択問題で50問(50分)からなる導入テストに46校が参加し、うち35校(8427人)が実施データを提供した。問題は多少難しかったようで、「この問題内容で1年生全体の平均点が56・6であることから、『情報』の知識のかなりある生徒が高校に入学してくることがわかる」と分析している。(http://www.johobukai.net/)
また、「情報」の学習は資格取得とも関連するが、神奈川県情報部会では早くから情報にかかわる技能審査の標準例の新設を県に要望してきたが、その神奈川県「技能審査の成果の単位認定に係る標準例」も紹介された。資格取得などにより認定できる単位数の上限は文部科学省により今年度から、従来の20単位から36単位に拡大されている。
茨城県立並木高校は1学年と2学年で各1単位、「情報A」を履修している。「大学進学ジャンプアップスクール」の県指定校で、土曜授業、到達度テストも頻繁な学校だ。そうした中実施されている「情報A」の実習課題は、文化祭のポスター制作、企業・研究所訪問レポート、3次にわたるプレゼンテーション大会、学校紹介広告、CM作成などが主な内容だ。情報Aの実施により、生徒の著作権意識が深まった、と塩野雅代教諭は報告した。
フリーソフトを使った「マルチ情報教材」の共同研究も静岡県立御殿場高校の渡森和彦教諭により発表された。Web上に、画像合成学習用「バーチャル世界旅行」、ネットワーク学習用「リアル世界旅行」、3DCG学習用「モデリング」などの教材、実習評価シート、レポート提出用のフォーマットなど盛りだくさんな内容が公開され参加者の注目を集めた。(http://jyouho.dip.jp)
ティームティーチングの方法について、千葉県立東葛飾高校の大橋真也教諭が発表した。千葉県ではTTが92%の学校で行われ、情報の主担当・副担当で実施している学校もあれば、全教科の担当教員が関わっている学校もある。メリットは、生徒のスキル差のサポート、自習のない授業の実現、授業内容の検討の容易さ、だという。
続いて、「授業内容の工夫」をテーマに参加者から寄せられた質問用紙に主に答える形でパネルディスカッションが行われた。「生徒のスキル差、家庭環境の違いによる指導と評価」について、千葉県立行徳高校の福島毅教諭は、1つの題材について複数の課題を用意し、生徒の内面における成長の評価と絶対評価の両方の割合を見る、と話す。家庭環境の違いにより、レポートを家庭から通信で送れる生徒と送れない生徒が出てくるが、「放課後PC室を開放して対応している」とパネラーの一人。一方、会場からは、「元家庭科の教員だが情報をミシンに置き換えると分かりやすい。学校内でしかできない教材を出すようにしている」という意見も出た。
「コンピュータを利用しないでできる『情報』実習について」は、「簡単な暗号を生徒たちに作らせて解読させたときは、すごく盛り上がった」例や図形の高度化における情報の応用例が報告された。
東京都 | 神奈川県 | 千葉県 | 埼玉県 | 茨城県 | 静岡県 | |
研究会名 | 東京都高等学校情報教育研究会 | 神奈川県高等学校教科研究会情報部会 | 千葉県高等学校教育研究会情報教育部会 | 埼玉県高等学校情報教育研究会 | 茨城県高等学校教育研究会情報部会 | 静岡県高等学校教科「情報」教育研究会 |
会員数 | 129名 | 約200名 | 168名 | 268名 | 204名 | 約420名 |
免許講習会で免許を取得した人数 | 約350名 | 約860名 | 702人 | 549名 | 約250名 | 339名 |
平成15年以降の新規採用者数 | 15年度6名、16年度9名、17年度21名 | 1人 | 毎年5名程度 | 2人 | 5名 | |
必修科目「情報」開設学年 | 全日制1学年約28%、2学年約17%、3学年約55% | 1学年62%、2学年29%、3学年8% | 全日制1学年63%、2学年12%、3学年25% | 1学年36%、2学年25%、3学年30%、4学年4% | 3年次の履修は認められていない。 | 全日制1学年65%、2学年19%、3学年16% |
校内LAN | ほとんど未整備 | ほぼ整備 | 整備済み | 整備済み | 整備済み。 | ほぼ整備 |
教員用PC | ほとんど未配布 | 未配布 | 教室用のPCを代替している場合あり | 教室用2台のうち、1台を教員用として配布 | 学校により状況が異なる | 未配布 |
【2005年9月3日号】