「子どもの学力が総合的であるとともに、学校と家庭の教育力も総合的でなければならない」−−ベネッセ教育研究開発センターは調査報告書「総合教育力の向上が子どもの学力を伸ばす」をまとめた。国際学力調査で学力低下が明白となると、日本の学力観は右に左にと揺れるが、教科学力・生きる力・学びの基礎力の3つの学力を総合的に育てることこそ重要と提言。その3つの学力(以下、「総合学力」)は、教師の指導力、家庭の教育力、学校経営力に強く相関することを明らかにした。また、授業に積極的にITを活用している教師が担当する子どもほど教科学力が高く、ただしIT活用はプログラム的指導やプロジェクト的指導の要素を押さえた授業を前提に成果が発揮されることが示された。さらに、「指導」と「支援」もどちらか一方ではなく、両方ともよくなされている場合に教科学力が高かった。
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調査は教師の指導力、家庭の教育力、学校の経営力を多面的に分析。子どもの学力との相関を探った。
ここでは本紙の性格上、本調査の一部であるIT活用と教科学力からまず取り上げる。「IT活用は本当に教科学力の向上に役立つのか」という疑問が現場にまだ残る中、本調査は「しっかりした授業設計」を前提に正の相関を明らかにした。
教師のIT活用状況に関する6項目の回答結果(映像提示や情報収集、プレゼンテーション、レポート作成など)を得点化し、教師を上位群(15%)、中位群(70%)、下位群(15%)に分類し、子どもの教科学力の平均偏差値と比較した。すると、中学校では中位群と下位群で逆転の現象が見られたものの、小学校では強く正の相関を示した。
では、教師の学習指導方法と子どもの教科学力はどう関係するのか。プロジェクト的指導、プログラム的指導に関する8項目(課題探求型の授業、合科的な指導、生活・社会事象と関連させる指導、復習的指導など)から教師の「学習指導スコア」を算出。平均以上を○、平均未満を×として、子どもの教科学力との相関を見た。その結果、「IT活用」「学習指導」が平均以上の教師が担当する子どもの教科学力が最も高く、両者とも平均未満の教師が担当する子どもの教科学力が最も低かった。「学習指導の方法」がきちんと設計・実践されている場合に、「IT活用」は成果を発揮している。逆に、「IT活用」をせず、従来のメディアの範囲内で授業改善に注力しても、「IT活用」+「学習指導」による授業改善を行っている教師を凌駕できない、という結果を示した。
また、教育現場で「指導」か「支援」か、と言われる問題について。「指導」も「支援」もともに平均以上行っている教師が担当する子どもの学力が最も高く、両方とも平均以下のケースは、偏差値50を下回った。両方の観点からの取り組みが学力向上に必要だ。
さて、「総合教育力」について。「教師の指導力」を「学習の土台づくり」「プロジェクト的指導」「プログラム的指導」「形成的評価と指導」等6つのカテゴリー・24項目で分類し調べた結果、「教師の指導力」が高い教師が担当した子どもほど、教科学力・学びの基礎力・生きる力(「総合学力」)が高かった。また、「規律やしつけ」等3つのカテゴリーからなる「家庭の教育力」が高い家庭の子どもほど、「総合学力」が高い。さらに、「校長の経営方針」等4つのカテゴリーからなる「学校の経営力」が高い学校の子どもほど、子どもの「総合学力」が高く、「教師の指導力」にも影響を与えていた。
監修者は田中博之・大阪教育大学助教授ら三名。参考となる事例も示した。調査は小学校第4、6学年児童、中学校第3学年生徒計約1万人、小学校教諭・教務主任・校長、中学校教諭・教務主任・校長計約1600人、保護者約6300人を対象に実施。
【2005年5月7日号】