2005年を目標に各学校・各自治体で整備を進めている、情報通信ネットワーク。昨年3月の文部科学省調査によると、公立学校の全教室の29.2%がLANに接続しているという。いち早くネットワークを整備した学校は、「IT環境の活用を考えるのではなく、どうやって良い授業を作るかを考えることが、活用に結びつく」という。先進事例の紹介を通じて、今後の活用のあり方を探る。
ネットで予約配達
図書館の蔵書ビデオ教材も
千葉県袖ヶ浦市
■教科指導力なしで
IT授業はできない 袖ケ浦市は13年前から、市の重点施策として教育の情報化に取り組んできた。2001年の段階で、教員のコンピュータ利用率は100%、コンピュータを利用した指導も90%以上の教員ができるという。
中学校は1999年、小学校が2003年に普通教室・特別教室に各1台ずつのコンピュータを設置し終えており、校内LANも2001年に整備完了。2001年度から2003年度にかけ、市内の小中学校13校中10校が「学校インターネット3」に参加している。
「教育の情報化の議論は、とかく『情報機器をどう扱うか』に終始しがちです。教員の指導力不足を補うITや、無理なIT活用には意味がありません。あくまでも、『教科の指導力向上』が情報化の主眼であるべきです」と、袖ケ浦市教育委員会の庄司三喜夫指導主事は語る。
本格的な教員への指導を2年前から始めた際、袖ケ浦市がとったアプローチは独特なものだった。
教員の研修を行うにあたり、県内から指導力を評価されている教員を招き、丸1年を費やし、教員の教科指導力の底上げを改めて図ったのだ。
子どもが論議できる良い授業ができて始めて、機器やネットワーク、という考えが貫かれている。
■全国調べ学習コンクールで
11冠 同市の総合教育ネットワーク「ウグイスネット」には、教材やビデオ6000点をオンラインで予約できる教材貸し出しシステムや、市内共通の校務書類をダウンロードでできる機能が搭載。予約された教材は、総合教育センターの定期便で各学校に配達してもらうこともできる。
同市では図書教育にも力を入れており、ここでもネットワークが活用されている。
例えば蔵書の種類を補うため、小学校同士で蔵書を共有する。「〇日の授業に、この本が〇冊必要」と、ウグイスネットの掲示板に書き込むと、各校から蔵書の状況が報告され、週に1度の定期便で届けられる。蔵書がない場合、図書館で貸出予約をすることもできる。
2003年9月から「LIB」(図書館情報検索システム)が導入され、貸し出し・返却処理がバーコードで処理行えるようになった。データ集計も可能で、「今週一番借し出しが多かった本」などを呼び出せる。
各校には読書指導員が配置され、1998年にはインターネット用のパソコンを3台、データベース用のパソコンを1台ずつ導入。2003年に更新した。
図書やインターネットを、広い意味での情報資料と捉えた取り組みが評価され、文部科学省が主催する「図書館を使った『調べる』学習賞コンクール」で、袖ケ浦市から11作品が入賞、小学生の部の文部科学大臣奨励賞も獲得している。
■無線LANがコスト
削減の秘訣 インフラ面の特徴として、ネットワークのLinuxでの整備や、モニタが360度回転する、学校向けの専用コンピュータの利用が挙げられる。市の総合教育センターから、ハブとして選ばれた3つの小学校を光ファイバーで結び、そこから無線LANで他の小中学校を結ぶ。常時接続の利点を生かしてコストを下げた。
例えば、平岡小学校幽谷分校では、テレビ会議システムを昼休み中つなぎっ放しにし、生活の一部として他校との交流を図っている。
「ノート型パソコンは盗難や情報漏えいに結びつきやすい」と言い、教員が私物で持ち込んでいるパソコンにもIPアドレスを発行、事故の予防に気を配っている。
「情報化等への対応で教員が忙しい今こそ、本来の学校の役割を忘れるべきではない」と、庄司指導主事は話している。
一太郎スマイルで作文の授業。答え、分かるかな?
学級文集、PCで作ろう
国語科の内容ITで
袖ヶ浦市立昭和小学校
3月23日、3年生の「総合的な学習の時間」の授業が行われた。内容は「思い出の作文作り」。学年末に編集する学級文集を、一太郎スマイル(ジャストシステム社)を使って編集する。
授業はコンピュータルームで行われた。コンピュータは、壁に向かうようにコの字型に設置されている。バック投影型の電子情報ボードに、一太郎スマイルの画面とソフトウェアキーボード(コンピュータのキーボードを、コンピュータ画面上に見やすく表示したもの)を映し、mimio(コクヨ社)も設置。児童はコンピュータルームの中央のスペースに椅子を持って集まる。
◇ ◇ ◇
授業を行った若林勲教頭はまず、一度書いた文章を見直すことの大切さを確認し、ソフトウェアキーボードを操作しながら、修正の仕方を指導した。
「紙を使って、鉛筆で書く場合、消すのが大変だよね」と、コンピュータと紙に文章を書く場合の比較をしながら、「字を消すときには、何キーを使えば良かったんだっけ?」と、質問する。「デリートキー!」と、子どもたちが口々に元気な声で応える。
「ソフトウェアキーボードを投影すると、低学年の子どもに対し分かりやすく説明できます」と、袖ケ浦市教育委員会庄司三喜夫指導主事。
「この文章の頭を見てください。前にどんな言葉を入れたら、文章がもっと良くなる?」
「『いよいよ』」
「その方がいいと思ったら、どうするんだっけ」
「キーボードで、文字を入れてみる」
コンピュータの操作に関わる事だけでなく、接続詞として適切な表現を応えさせる。総合的な学習の時間だが、教科をイメージした授業を実施しているようだ。
「そうすると、『いよいよ』に続く文章はどうなるの?」
「後ろに動く」
「会話文のところは、このまま前の文章に続けていいんだっけ?」
授業の後半に差し掛かると、子どもたちはコンピュータの前にそれぞれ移動して、自分の課題に取り組み始めた。
「数人で1台のコンピュータを使う環境だった頃は、子どもによって、コンピュータに触れる時間に差が出てしまいました。1人1台だと、利用時間が平等でいいですね」と、若林教頭は話す。
文章を書き終えた子どもは、学校の共有フォルダから気に入った画像を呼び出し、作文の余白のスペースに思い思いにイラストを挿入していた。ネットワークによって、イラストなどのリソースがいつでもどこでも使える。共有フォルダには、1年間の授業を締めくくる「修了証」のフォーマットも入っており、授業の終わりに、子どもたちに配られる。
原稿データをそのまま使って作られた文集は、製本され、子どもたちの一生の思い出として残されるだろう。
共有ファイルからお気に入りの画像を取り出し、文集作り
動画と一緒に踊ろう
英語ゲームをLANサーバに
神奈川県大和市
■PC教室・普通教室に
2300台を導入
大和市は、2002年度にコンピュータを普通教室に約1000台導入。小学校は、調べ学習の環境として、全普通教室にデスクトップ型1台と教師提示用のノート型1台、中学校は、全普通教室に教師と生徒の利用を考えてノート型2台を設置した。
校内LANは、2001年から2002年の間にかけて順次構築。LANサーバーは学校別に整備した。
機器を実際の授業で活用していくにあたり、大和市では、1学期と夏に「教育課題講座(情報モラルの研修)」「情報教育研修講座(5コース、21回、25日)」の2つを実施している。
IT機器を利用した教科指導力をつけるために行なわれる「情報教育研修講座」は、毎年7月21日〜8月6日の毎日実施。「すでに情報機器を活用している教員による実践事例の発表と、それを行なうために必要なパソコンスキルの習得研修という形式で行なっています。習得するスキルの内容は、ワードやエクセル、画像編集の方法や、パワーポイントの操作の他、校内LAN用グループウェア『通信くん(TDK社・小学校に導入)』『スタディノート(シャープ社・中学校に導入)』などです。(大和市教育委員会・中村敦指導主事、以下同)」
また同市は、校内LANの整備によりグループウェアの重要性が増してきた事を踏まえ、中学校教職員には、3年間に渡り、年度毎に教科を指定し、実践事例をもとにした研修会を通して教材開発の取り組みも行なっている。
例えば2002年度の指定は、国語科と社会科。該当の教員を集め、市内教員による実践例の紹介と、操作研修。さらに、5〜6人程度のグループにより、今後の活用場面について話し合い、2学期以降の授業研究を行なった。同様に、2003年度は数学と理科、2004年度は英語、技能教科(音楽、美術、体育、技術家庭科)が予定されている。
■学級新聞・学級日誌を
メルマガで配信 大和市では、1996年からコンピュータ教室の整備を始めた。
当初は、コンピュータの活用度はさほど高くなかったが、校内LANを整備・活用し出した頃から、コンピュータの活用時間が多くなってきた、と指導主事は語る。
「学級日誌をワードで子どもたちが打ち、職員の公的アドレスから、学級新聞としてメールマガジン形式で家庭に配信している学級もあります。コンピュータが無い家庭にはプリントで渡します。学校のメールアドレスは、『学校への窓口』としての役割がさらに期待されそうですね。」
■動画で、
楽しく英語を学ぶ また、データの蓄積・共有の1つの例として、このような取り組みを行なっている。
校内LANサーバーに、大和市教育研究所で作成いたコンテンツの英語の歌やダンス、ゲームの動画を置く。伴奏曲だけのもの、子ども達が実際に歌ったりゲームをしたりしているもの、数パターン用意してある。それを教室のコンピュータで再生させて、授業に役立てる。4月から、利用できるようになる予定だ。
「今後は、教育ネットワーク上に教師の研究会、グループなどの会議室、実践事例、指導案の他、子ども達の会議室を作ることなども検討しています」
授業の続き、教室で
グループウエアを活用
大和市立上和田小学校
■TV会議システムで
学年の合同授業も ウェブカメラとマイクを利用し、WindowsのTV会議機能「NetMeeting」で視聴覚室とコンピュータルームを繋いだ5年生の「総合的な学習の時間」の合同授業。
「子どものグループが3階のコンピュータルームと4階の視聴覚室に分かれると、教員も分散してしまい、進捗状況を確認しにくくなります。そこで、ウェブカメラで教室内を映しあい、カメラ越しに教員が相談しながら進めます。子どもたちも、担任の教員に質問をしたりするなど、利用しています(高島裕樹教諭、以下同)」
2003年度からは、学習で使ったウェブサイトを、校内LANの中でのみ利用可能なウェブページにリンクさせる「上和田リンク」が登場した。作成は、教育委員会から派遣されている補助員。コンピュータルームや各教室で、効率よく調べ学習ができるように工夫されており、子どもたちが利用している。
「グループウエア『通信くん』の共有フォルダを利用し、コンピュータルームで作ったプレゼンテーションを教室で発表したり、やり残した課題の続きを教室のコンピュータで仕上げたりできます。撮り溜めた画像をデータベースにもできます。どこからでも共有できることが、ネットワークの利点ですね」
同校では、学年ごとに曜日を指定し、休み時間にコンピュータルームを解放している。メール機能の利用で、教員同士児童同士の意見交換も活発になったと語る。今後は、児童会の活動計画や、新着図書の紹介をコンピュータで確認できる仕組みを検討中だという。
高島裕樹教諭■技術の習熟が今後の鍵 校内LANが導入されて1年が経った今、その変化について教諭は語る。
「『とにかくコンピュータを使う』という世界から、『授業の1つの道具としてコンピュータを使う』というステージに移行してきた気がします。教科の授業での利用、ドリル学習、プレゼンテーションなど、様々な可能性が見えてきましたが、教員の技術的スキルや授業の時間数、製品の選定など、まだまだ課題もあります。教員の技術的スキルに関しては、教育委員会から各学校に派遣される補助員の方に、とても支えられています。サーバ管理をはじめ、トラブル対応や、授業前の各種設定には、意外と手間を取られます」
また、コンピュータ技術の習熟について、
「『調べ学習』だと、課題選びにも時間が掛かりますし、コンピュータスキルを1から教える必要があります。教員と子どもたちの両方が情報環境に慣れてくることで、少しずつ授業も充実してくると思います。現在学年ごとに、子どもたちにどこまでコンピュータスキルを習熟させるかを研究中です」と語った。
【2004年4月3日号】