日本の大学は、かつて長らく「理性の府」と言われ、「実学」「職業教育」とは一線を画してきた。職業教育よりも一段高い、科学的研究・哲学的研究・文学的研究を行う場として思われ認められてきた。しかし、今日の社会が求めるのは、「実学」に結びつく科学的研究等ではないか。
さる2月26日、大学・企業が連携し社会が求める人材の育成を目的とする特定非営利活動法人(NPO)「実務能力認定機構」(理事長=坂元昂・文部科学省メディア教育開発センター所長)が設立された。
同機構は、副理事長に後藤滋樹・早稲田大学理工学部教授、斎藤信男・慶應義塾常任理事、理事に岡部洋一・東京大学情報基盤センターセンター長らが就任。大学教育改善の役割も担っていく。
坂元理事長は設立記念式典で、伝統的な大学教育は「実用に供する、マネジメント能力まで含めた実務能力の育成にはさほど、目が向けられてこなかった」と指摘しながら、今日のグローバル化した社会の中で国際的に通用する学力、企業の即戦力養成に応えられる教育が重要と言及。実務能力の育成・向上のために、同認定機構が、国内外の状況を調査し、カリキュラムマトリックスや評価方法、資格認証などについて情報を整理。日本の高等教育や企業に適した教育課程関連表を作成明示し、それらに準拠した各種の講座、研修などの認証を行っていくと強調した。
「大学と産業社会にはこれまで、奇妙なネジレがあった」と語るのは、来賓として招かれた清水潔・文部科学省大臣官房審議官(高等教育担当)。同氏は米国の大学も様々な工夫と努力があり今日がある、と前置き。日本の大学は特に「理論と実務の架橋を大学内にいかに構築していくかという課題がある」と指摘し、「今後の大学の様々なニーズにどう応えていくか。エクステンション、サティフィケイションの場面でコーディネーションとコラボレーションが必要になる」「実務能力認定機構の設立は、1つの大きなインパクトをなす動きである。こうしたスキームが発展していくことを願ってやまない」と設立を称えた。
また、早稲田大学総長の白井克彦氏は、実務能力を学生たちにきちっと与えようという認識は、現在の大学では低いが、今後はスキルを習得させることも大学内で大きな流れになる、と語った。
なお、設立記念式典に先立ち、宮川繁・米マサチューセッツ工科大学教授が、MITがその授業素材をすべてWeb上で公開しようとしている現状と今後の展開について講演。同大学では昨年10月までに500の授業素材を公開し、全世界から約80万人がアクセスしているという。5年後には2000以上の授業素材を公開する予定だ。
事務局は、電話03・5273・9127
【2004年3月6日号】