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2004年、インターネット教育利用10年迎える
 今年はインターネットの教育利用が開始されて10年目。米国のインターネット普及に追いつけ追い越せと、技術的な進歩とインフラ整備は確実に進んでいる。その一方で、当初の目標から大きく遅れを取っているものや、これから取り組まねばならない課題も多く生まれてきた。この10年間に何が進み、何が遅れているのだろうか。これから力を入れていかねばならないものは何か。これまでの10年を振り返り、2004年からの課題を考えてみる。



■インターネット10年
 日本におけるインターネットの教育利用は、94年12月に応募1543校の中から、108校が選定され、翌年6月までに回線やサーバ環境が整えられた100校プロジェクトに始まる。
 当時の状況を文部科学省の調査で振り返ってみると、96年3月現在の小学校のコンピュータの設置率は85%で、1校当たりの平均設置台数はわずか6.9台。現在は設置率100%、1校当たり24.4台にまで増加している。
 コンピュータ教室のLANの整備率も10%に満たなかったのが現在は93%に、インターネット接続率も限りなく0に近い状態から、今や100%近くになっている(下表参照)。
コンピュータ整備の変遷
  1995年 1998年 2002年
コンピュータの設置率(小学校) 84.7% 97.7% 100.0%
             (中学校) 99.7% 99.9% 100.0%
             (高等学校) 100.0% 100.0% 100.0%
1校当たりの平均設置台数(小学校) 6.9台 12.9台 24.4台
                 (中学校) 23.9台 32.1台 41.6台
                 (高等学校) 61.9台 76.4台 94.7台
LANの整備率(小学校) 9.8% 27.7% 92.8%
        (中学校) 56.4% 64.6% 95.5%
        (高等学校) 56.3% 65.3% 92.3%
インターネット接続率(全体) 35.6% 99.5%
コンピュータを操作できる教員(全体) 41.3% 57.4% 87.6%
コンピュータで指導できる教員(全体) 17.0% 26.7% 52.8%
*各年度の文部科学省「情報教育の実態調査」から抽出。
「LANの整備率」はコンピュータ教室内LANの整備率。

 また、最も問題とされる教員のリテラシーについてもコンピュータを操作できる教員の割合は41.3%から、87.6%に。指導できる教員の割合も17.0%から52.8%に高まっている。
 数字的に見ると、ハードの整備は格段に進歩し、教員のリテラシーも向上している。また、子ども達のリテラシーも、家庭でのコンピュータ所有や授業でコンピュータを活用する時間の増加により、向上し底辺は全体的に上がっているように見える。

全員がネットワークに接続したノートパソコンでWEBにアクセス、ドリル学習を行ったり調べ学習を行う 2005年を目標とする整備(全校校内LAN構築、各普通教室に2台のコンピュータ)を頂きにたとえると、ハードの整備は中腹ぐらいまでは平均的に進んできたとも言える。問題はIT活用の学校間・自治体間格差、教員のIT活用の熱意の格差、活用の方法である。

 毎日、毎時間のようにコンピュータを活用する学校がある一方で、1週間に1回ぐらいしか活用されない学校がある。毎日のように活用するクラスがある一方で、学期に1回程度しか活用しないクラスがある。

 活用したい、と思っている先生がいても、校内に適切なリーダーがいないため、活用が広がらない学校がある。
 学習指導要領の総則に規定されているだけで、単元・題材に明確なIT活用の規定がないからか。コーディネータの配置が進まないからか。自分の娘や息子の学校でも、嬉々としてITを活用している、といった声を聞きたいものである。


■教育特区

 構造改革特区により、地方公共団体や民間の自発的な立案による、地域の特性に応じた規制緩和の特例の導入が進んでいる。
 平成15年12月には4次提案を募集、多くのチャータースクールや特色ある学校実現のための特例申請が提案された。
 具体的には、株式会社・NPO法人による学校設置、学習指導要領によらない多用なカリキュラム編成や不登校児童を対象とした学校、小中一貫校の設立、国際競争力を身につけるために外国語教育に力を入れた学校などだ。

 東京都港区では、14年8月、構造改革特区制度にかかる国の提案募集を受け、「豊かな明日の子どもたちを育む教育特区」ほか3件を提案。その後、平成15年1月の2次募集、6月の3次募集、11月の4次募集時に、再度教育特区について提案した。また、群馬県太田市では「太田外国語教育特区」が、東京都八王子市では「不登校児童・生徒のための体験型学校特区」、奈良県御所市「葛小中一貫教育特区」、岡山県御津市「御津町教育特区」が既に認められている。千代田区では来年4月より、デジタルハリウッド大学院大学が開校予定だ。

 特区により、民間の要求を「国」が個別に検討し、ひとつひとつその提案を認めていく、という方法は、これまでにない学校設立のためのアプローチ法といえる。
 これには、新しい学校の設営アイディアを実現するために地方公共団体と民間が連携を取り、ひとつひとつ規制改革案を国に申請していく、という地道な作業が必要だ。
 決して平坦な道ではないが、これまで「法律」が壁となって実現できなかったことが実現する、という新しい可能性に、多くの人々が走り出している。

 「よりよい学校教育の実現」のために大きな一歩を踏み出す時代が到来したといっていいだろう。


■学校評価

 学校が評価を受け、その結果を開示することで地域に信頼される存在となり、教育サービス提供主体としてのアカウンタビリティを果たすことの必要性が言われるようになった。多くの自治体で学校選択制が採用されはじめていることや、地域コミュニティによって運営されるコミュニティ・スクールを想定した「新しいタイプの学校」の実践研究がスタートしたことも、学校評価についての関心が高まる契機になっている。長崎県では平成15年3月に学校評価ガイドブックを作成、HPにアップ済みだ。(http://www.edu−c.pref.nagasaki.jp/gakkouhyouka/honbun/menu.htm
  また、石川県羽咋(はくい)市では、学校評価実施要項を平成15年4月1日から1年間試行、この試行結果を踏まえて改善を行い、16年度から実施するという。東京都教育庁では、都立学校評価システム確立検討委員会を設置、15年6月から16年2月まで月一回程度委員会を開催、2月に最終報告のとりまとめを行なうとしている。

 また、慶應義塾大学・金子郁容教授は、「学校評価支援システム」を提案、16年度以降の本格導入を視野に入れた研究開発を行なっている。

 また、公立学校における学校評議員及び類似制度の設置状況(14年8月1日現在調査結果・公表15年1月16日)によると、都道府県・指定都市の全公立学校のうち約47%が設置済み、約30%が設置を検討している。現代アメリカ教育の合い言葉「NCLB(No Child Left Behind・一人の落ちこぼれもない教育法)」。その実現のための方策のひとつに、「学校評価」がある。学校評価は「科学的」な一斉テストの実施で測られ、テストの成果・結果は、保護者、先生、教育長などに詳細なレポートとして公開される。2年間にわたって成績不振の学校は、改善計画を提出。3年間に渡り成績不振の場合、親に対して学校選択の通知が行われ、4年だと一部の教員の配置換え・カリキュラムの改善をせねばならず、5年間不振だと、州や民間会社へ、学校経営の移譲が行われる。

  日本でここまで学校評価制度にシビアな性質を持たせる可能性は低いといえるが、学校に地域の人々の「目」が必要とされているのは確かなようだ。


■ハードウェア

 10年前、インターネットを活用している人はごく一部であった。5年前、インターネット活用を一般に普及させるためには電話料金の値下げが急務である、と言われていた。当時ISDNが普及開始した頃で、写真1枚ダウンロードするのに数分間かかる時代であった。それがいまやADSLや光ファイバーが普及、動画もストレスなく見ることができ、かつ通信費も日進月歩で価格破壊が進み、世界に類を見ないほどの普及と安さを誇っている。それに伴いコンピュータの性能も半年単位で格段に進歩、当時考えられなかった授業展開が可能になっている。

 しかし、学校現場にはまだまだ5年まえのコンピュータが幅をきかせている状況だ。5年から6年が教委の考えるリプレイス期間の単位である。ソフトひとつを立ち上げるのに数分間かかるコンピュータを使わざるをえない状況にある児童・生徒や教員。これでは「忍耐力」は育つかもしれないが、時流に乗ったすばやい判断やアイディア、発想、柔軟なコミュニケーション能力を育む芽や可能性を摘んでいるようなものだ。日本経済の未来を担う子ども達と、彼らを指導・サポートする教員にこそ、最先端の環境とコンピュータを提供し、今世界がどうなっているのか、リアルに学べる多くの機会をなんとか与える方策を考える必要がある。

 最新機種でできる「授業」の可能性を、各メーカーはもっと学校に向け示唆していくことも必要だ。リプレイス5年間、では遅すぎる。


ノートパソコンを扱う様子も手馴れたもの
ノートパソコンを扱う様子も手馴れたもの


【2004年1月1日号】