東京都市指導主事会
確かな学力とは何か
指導主事会として提案
東京の市に在任する指導主事の組織である東京都市指導主事会の平成14年度研究発表会が2月14日、青梅市教育センターで開催され、三多摩の指導主事が26市から72人集まった。東京都市指導主事会は昭和40年に発足、昨年度は評価について研究発表を行った。
同研究発表会は毎年開催され、今年度は学力低下が云々される中で「確かな学力の育成」をテーマに3分科会に分かれ研究を重ねた。第一分科会は確かな学力を分析・整理。第二分科会は確かな学力を育成するための具体的方法・学習意欲を高める評価の改善、第三分科会は授業を変える指導の工夫。
第一分科会「『確かな学力』とは何か」では、学力観の歴史的変遷を追い、分析を進めた。学力観は学習指導要領が改訂されるたびに変わっている。昭和26年の改訂では生活経験を重視した問題解決学習(単元学習)へ、昭和33年の改訂では教科内容の系統的な学習を重視する教育へ、高度成長期の昭和43年の改訂では算数に集合や関数を導入するなど教育内容を高度化、また昭和52年の改訂では知識伝達から主体的に判断し行動できる子の育成を目指した改善へ、そして平成10年の改訂で「生きる力」をはぐくむ教育、が目標とされた。
第一分科会ではこうした変遷を追いながら確かな学力の構造化を意図し、東京都市指導主事会としての「確かな学力」を「児童・生徒の自らの社会生活に生かされる実践的な知の総体」ととらえ提唱した。つまり、「知識・理解」といった目に見える数値で示される学力だけでなく、「技能・表現」、「関心・意欲・態度」、「思考・判断」といった各側面の含め学力と見る。
第二分科会は学習意欲を高める評価の改善が主題。「学習の過程をとらえ、適切に評価することにより、児童・生徒一人一人の学習意欲は向上する」と仮説し、多摩地区の公立小学校の協力を得て、国語「海の光」の単元で授業と学習前、直後、1か月後の3回、児童の変容を見るアンケート調査を行った。意欲の向上を図る指標としてあげたのは、1自己のよさを認める視点2学習の価値への気づきの視点3自分は認められているという視点、の3点。アンケートにより適切に評価することで学習意欲の向上が認められることが確認されたが、評価を本人に返すことが重要と提唱した。
第三分科会は授業を変える指導の工夫、を主題に学力の4つの側面全体に「知のゆさぶり」をかけるため「指導の改善」の視点を追及し、授業を変える指導の在り方を「指導マネージメント」と呼んだ。そして、指導主事として教師への指導・助言のポイントを、少人数授業・習熟度別指導などの推進、小学校での教科担任制の推進、「確かな学力」の育成を目指す評価の推進、などの項目ごとに整理。
また、組織体として機能する学校作りのため、校長への支援のポイントを、「『確かな学力』の育成を明確に位置付けた教育課程の編成」、「育てたい児童・生徒像と身につけたい力の共有化」、「経営組織・運営システムの構築」、「指導マネージメントへの具現化」、「教育課程の評価」の5点にまとめた。
この後、多摩教育事務所指導課長の廣嶋憲一郎氏が講演に立ち、「自ら学ぶ者のみが人を導くことができる」として東京都市指導主事会の存在意義を強調。今回の研究発表を受けて、学力の捉え方や指導主事の指導性などについて大要を次のように話した。
学力低下がかまびすしく言われるが、昭和50年代は詰め込み教育、新幹線教育と批判された。総合的な学習も知識中心の学習スタイルを変えるために登場した。もっと慎重に論議しなければいけない。
そして、学力問題は学力テストによる数字だけでなく、子どもの変容も見据えなければいけない。今の子どもはトイレに行って後始末ができないなどおかしな部分もある。一方、生活科、総合学習、選択科目など教師が指導に対応しきれない面も出ている。
本当に身につけさせたい学力、社会の中で生かされる学力とは何か。学校の中でしか通用しないものではなく、社会に出ても通用する学力が「生きる力」であると。
最後に教師の指導力を高めるために、指導主事はどう関わるかについて、1抽象的な指導から具体的な指導へ2具体的な改善策を示す31回だけの指導に終わらず、指導案の草案の段階から指導し、公開研究発表後も指導に関わっていく、などの点を示した。
(2003年3月1日号2面特集)