メディアリテラシーとは何か 高校生が報道の問題問う
現役高校生と卒業生による「メディアリテラシーの本質」についてのプレゼンテーションが1月13日、東京大学(文京区・本郷)で行われた。これは、メディア研究者やメディア制作者らで組織された「MELLプロジェクト」の立ち上げシンポジウムで行われたもの。
プレゼンを行ったのは、長野県松本美須々丘高校・放送部の現役部員とOB・OG。同校放送部は、松本サリン事件の報道に疑問を持ち、長野県内すべてのテレビ局の第一線記者と報道責任者を取材。制作したビデオ番組「テレビは何を伝えたか」で、第20回東京ビデオフェスティバル大賞を受賞。無実の人をあたかも犯人のように報道してしまった記者の苦悩と本音を描き出した作品は、放送関係者らに大きな衝撃を与えた。
プレゼンでは、番組制作をきっかけに始まった5年間にわたる、メディア・リテラシー認識を深めるための部員たちの実践を紹介。
ビデオ制作の過程では、「警察情報に頼り過ぎていたのでは」「サリンが原因と判明したのになぜ容疑者を切り替えられなかったのか」など部員の核心をつく質問に、取材を受ける記者たちは憮然となってしまうことも。苦労してビデオを完成させた結果、「メディアを批判するのでなく理解することが大切」「テレビ局の体質は変わらない、視聴者が変わる必要がある」ということに部員たちは気付く。
さらに、自分たちが先生役となる「メディア・リテラシー授業」を企画。テレビ局の報道制作現場を取材し、授業内容の構成にはテレビ局の記者らにも参加してもらい、記者には実際の授業にも出てもらうという画期的な試みだ。授業準備をとおし、部員は「記者が取材した原稿をスタジオの主婦レポーターが読み上げるテレビニュースの演出はおかしいのではないか」などと悩むが、「情報は選択・構成されている」「情報はメディアからしか知ることはできない」ということを知る。
先生役となり授業を行った部員は、「情報は人間が送り、人間が受けるとるもの」「メディア・リテラシーとは情報の送り手と受け手がともにつくりあげるもの」ということを実感する。「授業もメディアのひとつであり、会話、服、様々な商品もメディアであることが分かった」と、プレゼンを行った現役放送部員は話した。
「生徒が教師役になって教えるということが、学校を変える力になる」。放送部顧問として生徒の指導にあたっていた林直哉先生(現在は長野県立梓川高校に勤務)は、こうプレゼンを締めくくった。
〈MELLプロジェクト〉
MELLとはMedia Expression, Learning and Literacyの頭文字の略。5年間の期間限定で、シンポジウムやワークショップのほか、メディア・リテラシーに関する教材開発、カリキュラム作成、学校とのネットワークづくりなどを行う。総括担当=水越伸氏(東京大学大学院情報学環)、山内祐平氏(東京大学大学院情報学環)。 http://mell.iii.u−tokyo.ac.jp/
(2001年2月3日号より)
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