「食育」の実践は多様で、総合的学習の活動の一つに位置付ける学校も多い。総合的学習の達人として知られる善元幸夫教諭は、米作りの活動を軸として食と農の学習を展開するなど、豊富な指導経験を持ち、栄養教諭への期待も大きい。
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米づくりや有機農法などの体験学習を授業に取り入れ、実績を上げている新宿区立大久保小学校の善元幸夫教諭。総合的な学習の時間は「楽しくなければ活動じゃない」をモットーとしている、そんな新しい授業の達人に訊いた。
■コンビニ調べ
「利き水」など 米づくりのほかにもこれまで「コンビニ調べ」や「利き水」など、食に関する様々な活動を実践してきた。コンビニ調べでは「賞味期限が切れた弁当はどうするのか」、「なぜ他の店のように期限切れの前に安売りをしないのか」、などの疑問を子ども達が地域に飛び出して調べた。
利き水では、水の匂いを嗅いだだけで全国どこの川の水かわかる水道局の職員を授業に招いた。実際に荒川区と新宿区の水道水の匂いの違いを実感した上で、利根川下流の水と、多摩川と利根川のブレンド水との違い、そして水源地の高度や地形などの社会科学習に結び付けていった。
その善元教諭が米づくりを授業に取り入れたきっかけは、自分の失敗からだった。数年前、5年生の社会科の授業で日本の農業を取り上げたとき、子ども達が真剣に取り組めば取り組むほど農業人口の減少、減反政策など、現実の諸問題の壁に突き当たった。
学習の成果は上がったが、反面で暗い想いを抱かせてしまった。その経験を踏まえ、再び5年生を受け持ったとき、農業体験を通して学習ができないかと、米づくりを思いついた。
最初の『しかけ』は米作農家の協力者から稲の苗をわけてもらうことだった。しかし、子どもたちに強制するだけでは学習効果は上がらないと考え、日常生活のなかにある「米」を調べる事から興味を盛り上げていった。そして、いよいよ米づくりがはじまったのだが、それがただ稲を育てて米を収穫するだけでは終わらない。
子ども達は農家の協力者との出会いのなかで、自分たちの食卓に並ぶ食べ物が土から産まれてくるのだということを実感し、農業に対して愛着が生まれたからこそ「米の輸入問題」に接した時には、また調べ学習に力が入り「自給か輸入か」の討論会にまで発展した。
まとめ学習では児童の一人が書いた文章に衝撃を受けた。「田んぼを守るということは水を守り命を守ること、命を守るということは農業を守ること。この意味は、田んぼを守ることは全てのものを守るということだと思います。田んぼは食料のためだけにあるんじゃない。田は水を100年かけてきれいな水にしてくれる。その水は草や木を育てる。すなわち、すべての命を守るということ」。子ども達は本物の食と出会い、教師も驚かせた子どもらしい新鮮な感覚で、命の循環、「命の大切さ」を学んだのだ。
■ポイントは
本物との出会い
そのポイントはなんだろうか。
例えば米づくりといっても、農家から作り方を教えてもらうだけではない。善元先生は「感覚を大事にしよう」、「本物と出会うこと」、「仕掛けが大事」と強調する。教育素材としての準備(仕掛け)をしているからこそ、子ども達から米づくりの時のような思いもかけない偶然が飛び出してくるという。テーマの下調べから、テーマに触れ、そして学習することで授業を創っていく。
テーマが農作物の場合は、理科的な学習はもとより、有機野菜を取り上げ、一般的に高いとされる市場価格も流通過程によってはスーパーよりも安くなる場合もあることを学んだ。
「教師がその素材に自ら関心を持つかということです。けれどもそれはけして困難なことではない。模倣からはじめればいい。大事なことは教師主導にせよ、子ども主導にせよ、『子ども中心』であれば」。
学校栄養士に対しては、自信を持って素材と味を大切に、そして、栄養教諭として教壇にたった際には、栄養指導を基本とした食の楽しみやその意味、食の文化を教えてもらえることに期待を膨らませている。
【2004年8月14日号】