全国の学校給食関係者が学校給食の意義と役割についての認識を深め合う、第55回全国学校給食研究協議大会が11月10日、東京芸術劇場(東京・池袋)で開催、学校、調理場への表彰式や、学校給食の現状と課題についての文部科学省説明、東京都豊島区立小学校教育研究会学校給食研究部と足立区立入谷中学校の実践発表を行った。
大会会長の横山洋吉東京都教育委員会教育長は、「都市化、情報化が進んだ今日、食を巡る周囲の環境は、子どもたちの心身に大きく影響を及ぼしている」と懸念、今大会の主題「・生きる力・をはぐくむ健康教育の推進と学校給食の充実は、まさに今を生きる子どもたちにふさわしいテーマ」と、学校給食への期待を寄せ、文科省の山口敏スポーツ・青年局学校健康教育課長は、「食育をクローズアップすることに注目すべき」と、議院立法で提出されている「食育基本法案」への関心を寄せてほしいと述べた。
引き続き行われた表彰式は、58校、19共同調理場、17団体、個人72人を表彰、受賞者代表として東京江戸川区立下小岩第二小学校調理職員の清水幸代さんが賞状を受け取った。また、受賞者代表として東京都足立区立入谷小学校の笹サヨ子校長が、「豊食から飽食になってきていることに危機感を感じている」と、学校給食を通してさらに精進していきたいと抱負を述べた。
「野菜を食べよう」で
栄養士10人が細かく対応
豊島区は各学校ごとに色々な形態の給食を行っている。身体の健康に関する知識の定着と自己管理能力の育成をねらった給食として、3つの形態を紹介する。
1つ目はカフェテリア方式給食。自分にふさわしい量や食事内容を考え、バランスの良い食事を選択できる力を育てることがねらい。2つ目はリザーブ方式給食。2つのコースから、食べたい献立を選んで前もって予約しておく給食。自分の好みの料理を中心とした栄養バランスのとれた食事の内容に興味・関心がもてるようにすることがねらい。3つ目はバイキング方式給食。自分の食べた量や皿に盛られた料理と栄養バランスを考え、好きなものだけとって食べるのではなく、苦手なものも少しは食べてみようと指導。
学年間や異学年の友達と一緒に楽しい雰囲気で食べられるように場所を変えたランチルームでの給食はもとより全校いっせいに1年生から6年生が縦割り班などのグループで交流しながら食べる野外でのお弁当給食。
豊島区給食研究部の発表 |
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他にお弁当給食に思いやりや感謝の気持ちを育てるふれあい給食、敬老給食。家庭や地域との連携として給食試食会、講演会、料理講習会、給食だよりの発行など。保護者と個別に連絡をとりながらアレルギー児への対応も行っている。
給食活動がねらいを持った食の指導として共通理解の元に実施できるのも、豊島区の学校給食研究日に教諭と学校栄養職員が参加し、30年近く合同で研究をしてきた成果。現在もチームティーチングでの授業を計画し、各学校ごとに各教科、道徳、学級活動、総合的な学習の時間などの幅広い領域で食に関する指導を実践している。
■3年生での実践例 「栄養のバランスを考えて食べようとする態度を育てる」ことをねらいとした「野菜をもっと食べよう」の授業。ここでは児童の実態に即した教材の工夫として、3年生の発達段階を考慮し料理や学習に使う野菜は実物を使うことにした。市販のハンバーガーセットと給食の実物を見せて、使われている食品の種類を比較させた。
取り組む段階で児童1人当たりの野菜の分量を知らせ、2人一組で実物の野菜を計らせた。目と手で野菜の量を実感できる活動は、今までの給食をふりかえる目安となった。この学習の指導の重点は「健康に過ごすために野菜を好き嫌いしないで食べることの大切さがわかる」とした。
児童1人ひとりにこの大切さを捉えさせる指導法の工夫として、担任と10人の区栄養職員が協力して授業。野菜を計り、グループ活動になった時点で栄養職員が1グループに1人ずつ付き、児童の質問や疑問に答えていった。さらに野菜は生のままより、ゆでたほうがかさが減り、たくさん食べられることも実物を見せながら示した。
専門的知識をもった栄養職員が1人ひとりの思いを聞き取り、きめ細かく対応することで、児童は好き嫌いしないで食べることの大切さをより深く理解した。
■2年生「元気になる
お弁当を考えよう」 低学年は、食材に親しみ知る段階だと考え、ねらいは「食品は働きによって3つの仲間に分けられることを知る」、「栄養の3つの働きを考えてバランスよく食べようとする意欲をもつ」の2点。用意された料理の中からバイキング方式で選んで、自分が食べたいお弁当をつくる活動を行った。
2年生という発達段階を考え、写真や料理カードよりも意欲的に活動できる教材として、実物に近い立体模型を作り、どの料理をお弁当箱に入れるか、選ぶ楽しさを味わうことができるよう工夫。学習のねらいを達成するため、一つの料理に複数の栄養の働きが入らないようにした。
また食材として入っている実物の野菜を、料理模型のそばに置き野菜の名前を知る機会にもした。児童は歓声をあげ、生き生きとお弁当作りに参加した。
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手作りランチルーム活用
対話や資料展示で情報発信
足立区立入谷中学校の給食は7年前に民間委託になった時から、子ども達のためのおいしい給食を作ろうと、学校栄養職員を中心に調理師と心がけてきた。学校、家庭、地域が連携した取り組みとして、手作りランチルームの設置がある。
入谷中の発表風景 |
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地域の人々と教職員が一緒に壁をピンクに塗り替え、統廃合になった小学校より食器戸棚と長テーブルをはこび、テーブルクロスをかけ、手作りのランチルーム。またランチョンマットや、小さな花、箸置き、黒板に白いレースのカーテンをつけ、教室では味わえない環境の整備を行った。
ランチルームでは食事時間を確保するためにテーブルバイキングが主流。みんなが「いただきます」をしてからテーブルごとに回ってスープを配り、出来立てを味わえる。ある日のメニューはイタリアン。全校分は無理でも1クラス分なら手作りのピザ、熱々のグラタンができる。
生地から手作りのピザは3種類。ピザカッターで、生徒が自分たちで切り分ける。自分が食べている料理の献立名を知り、理解して欲しいから必ずメニューを添える。ランチルーム給食は、一般の給食メニューをアレンジすることで、なるべく調理時間の負担を軽くするように努力。盛り付けを工夫している。
給食はリフトで各フロアーに配膳。牛乳だけはあえて給食当番が取りに来るようにし、学校栄養職員が給食内容や衛生面を一言話す。調理師も作るだけではない。子ども達が受け取りに来た各フロアーで「スープ熱いよ、気をつけて」「おいしいから、たくさん食べてね」。その一言で調理師の感情、思いが伝わる。
お昼の放送で、給食のメニューが紹介される。楽しく食事ができるように、栄養的なことよりも調理師の苦労や一言メモ的なことを、学校栄養職員が毎日原稿を書く。放送担当の先生がその原稿に目を通し、放送委員を指導。7年間毎日欠かさず続いている。
■素材と手作りに
こだわり残業ゼロに 食材には何よりも気を使う。パンは朝焼きパンを使用、出来立てで残菜はほとんどない。また食数が280ということもありほとんど手作り。カットは包丁で。デザートの果物もどうすれば生徒たちが食べやすいか、おいしそうに見えるかを考えて盛り付け。焼き菓子、ゼリーも十分な加熱を条件に手作り。安い材料費で出来、残菜もほとんどゼロ。枝豆は農家から朝取りのものが届く。
年1、2回、お楽しみのアイスや卒業祝いのケーキは教室へ直接、栄養職員と調理師が運ぶ。
ランチルームは何より栄養指導の場としやすい。パネル等を見せ、食事の大切さを訴える。また、給食だよりは興味をひくよう、マンガを取り入れたりクイズ式にしたり工夫。子ども達の苦手な野菜も、一日に必要な量だけお皿に盛り展示した。その多さに驚き、また調理すればかさが減って、食べやすくなることも勉強した。
給食委員会の日常の取り組みは、白衣点検と給食の残量調べ。特に冬は、牛乳の残数をまとめ、表にして発表したり、寒いときだけ紙パックにしてもらうなど工夫している。なお、寒いときに40本前後残っていた牛乳が紙パックにすると、寒いときでも残数がほとんどなかった。
給食委員会の年間の大きな取り組みとして、文化祭への参加がある。平成14年度のテーマは「ダイエットの本当の意味とは」。危険なダイエットと食生活について取り組んだ。ダイエットをしたことがあるか、したいと思ったことがあるか、など質問を考え、各クラスの委員が調査。その結果をまとめた。その他に、ダイエットの本当の意味、肥満度の算出、食生活チェック、はてなクイズなどをまとめ、発表。
また紙粘土を使って中学生の一日の食事例を再現。学校栄養職員のアドバイスを見ながら、和食と洋食の2通りの朝、昼、夕食の見本を作った。食事からどれだけの量をバランスよくとればよいのかを学んだようだ。
【2003年12月11日号】