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子どもの心と体の健康
拒食症
治療は子の心の叫びを親が聞くことから
「娘の拒食症をこうして治した」の著者・カウンセラー 麻生洋子さん 「拒食症」と「過食症」は「摂食障害」と呼ばれ、さまざまな治療法が試みられていますが、未だにこれというものは確立されていません。そこで今回は『娘の拒食症をこうして治した』(第三文明社刊)の著者でカウンセラーの麻生洋子さんに、その体験談と麻生さんが設立した摂食障害自助グループ「たんぽぽ」の活動から学んだ課題、「拒食症とは何か」「母親はどう生きたらいいのか」などについて語っていただきました。
〈報告=藤田翠〉



 母親に嫌われたくない子どもたち


■我が子の拒食症

お嬢さんが拒食症だったそうですね。
 中3の夏休み、部活の合宿で友だちから「あなた、ほっぺたがふくらんでいるわ」、と言われたことが始まりでした。拒食症はダイエットが引き金になるといわれますが、単なるダイエットとの大きな違いは、「拒食症へと移行する子には強いメッセージ性がある」ということです。

お嬢さんの場合それは何でしたか?
 私からの愛情に飢えていたことだと思います。ある日カウンセラーの先生から、娘への「接し方が間違っている」と指摘されました。先生が娘に「お母さんにほめられたことある?」と聞いたところ、「1度もない」と答えたというのです。私はすごいショックを受けましたが、成績が心配だった弟に比べ、何でもできた娘には「できて当たり前」という態度で接していたのです。

拒食症と診断された時の気持は?
 「自慢の娘が拒食症になるなんて」と恥じる気持と、娘に対して腹が立ちました。「家事、子育てをこんなに一生懸命やってきたのに、何が不満なの?」と。でも娘と一緒に拒食症と闘ってみて、母親として大きな間違いを犯していたことに気がつきました。(そのことについては、後半でお聞きします。)


■拒食症のあれこれ
拒食症は危険な病気なのですか?
 娘はどんどんやせ細りましたが、「いずれ空腹に耐えられずに食べ出すだろう」とみていました。ところが拒食症は「食べない」のではなく「食べられない」のですから、対応の仕方によっては命の危険があります。死亡原因は、食べないことによる内臓の機能障害のほか、突然死や自殺があり、周囲の人はその危険性を頭に入れておかなければなりません。

拒食症と過食症との関係は?
 どちらも摂食障害で表裏一体です。どちらか一方に偏る人もいますが、両方をいったりきたりの人もいます。拒食症は回復期または慢性化する過程で過食症に移行することがよくあり、娘も回復期に一時的に過食となりました。

拒食症にはどのような症状が出ますか?
 順にあげますと。
 1.初期は食事量が激減するのに、元気で活動的。これは体の感覚が鈍感になるためなのと、本人がカロリーを消費しようとするため。一定の時期がくると体力が限界を超え、危険。2.寝るのをいやがるなど、カロリーを消費するための異常行動が多い。

対応の仕方で気を付けたことは?
 1.拒食症は心の病なので、食べなくても家族一緒の食卓につかせる、2.子どもが食べたからと大喜びしない。拒食症の子は「食べない」ことで自己表現をしているので「食べれば家族はいいなりになる」と思ってしまう、3.食べさせるためには食べ物を少量さりげなく置いておく。食べ物の話や身体の話をしない、などです。


■こうして快方に
最終的にどのように治っていったのですか?
 娘は1度目の入院で少し体重が増えたものの、退院して数ケ月で23kgまで激減し、再入院しました。2度目の入院をひどくいやがり、「家に帰りたい」と激しく泣いてばかりでした。それまでは内心(ウザったい子だなア)と思うこともあったのですが、骸骨みたいにやせ細り、ワンワン泣いている娘を目の当たりにし、私は本当に生まれてはじめて(なんてかわいそうな子なんだろう)と思いました。

 翌朝すぐ私は病院に行き先生を訪ね、「うちの子を、帰してやってください。その結果、駄目でもあきらめます。今は娘の望む通りに」と、土下座して頼みました。主治医の先生も娘に「あんたのお母さんには負けた。そうするよ」と言って下さり、娘は家に帰ってきました。娘はそれが嬉しかったのか、その頃から徐々に快方に向かいました。

 結局我が家のケースは、娘と私との関係改善が最も強力な治癒効果をもたらしました。つまり2人の人間関係が原因だったのです。


■拒食症は問いかける
摂食障害の自助グループ「タンポポ」の活動で感じたことは?
 子どもたちと仲良くなり本音を話してくれるようになりましたが、親の考えととてもギャップがあるんです。そこで私は「子どもたちが親に伝えたいこと」を代弁するつもりで、親にカウンセリングをしています。親が子の心をわかれば、子どもは変わります。

子どもたちの本音はどういうことですか?
 子どもに「あなたはどうしたら幸せになるの?」と聞くと、ほとんどの子が「お母さんが幸せになること」、小さい子は「お母さんが本音で笑ってくれること」といいます。

なぜそこまでお母さんを見ているのでしょう?
 お母さんは自分の指針であり、その人が幸せでなければ自分も大人になりたくない、それはつらいことだろうからと。それから子どもたちは、お母さんが「だーいすき」なのです。この病気になる子は特にその傾向が強いようです。

具体的にはどのような場合ですか?
 受験でせっかくいい学校に入ったのに、この病気になる子がいます。私が「へー、誰が学校選んだの?」と聞くと、「私です」と言う。「親が言ったの?」と聞くと、「いいえ、うちの親は私を押さえつけるような育て方はしません」と。実は子どもたちは「お母さんが希望しているのはどこか」を本能的にわかっていてそこを選び、自分の意志だと思いこんでいるのです。

 ところが思春期になって「自分らしさ」が芽生えると、そのギャップにとまどいます。自分のしたいようにすると、お母さんに嫌われるのではないかと。こうした「自分の意志で選択したことがない子どもたち」が、摂食障害の増加につながっているとも言えます。


■お母さんは 本当に幸せ?
子どもたちがそのように思うほど、お母さんたちは不幸でしょうか?
 娘が病気になりたての頃、「お母さんみたいな嘘つきはいない!」と言われたことがあります。その時は意味がわからなかったのですが、色々な親子の話を聞くうちにわかってきました。例えば夫から暴力をふるわれているお母さん。〈なんでお母さんはお父さんと一緒にいるんだろう〉。お父さんが家を出てしまった家庭のお母さん。〈とても大変そう〉。つまり子どもたちは親の生き方を見て、「もっと幸せになって。今のままで本当にいいの?」と問うているのです。

麻生さんの場合はどうでしたか?
 確かに姑との問題や夫とうまくいかない部分もあり、子どもの世話をしてはいましたが心は子に向いていなかったと思います。当時は自分の中でそれを認めず、とにかく世間体を取り繕っていました。娘に拒食症を通してそれを指摘され、私は初めて自分と向き合いました。今では「いつも夫婦円満といかなくてもいい、自分に正直に精一杯生きれば」と思うようになり、自分の道もわかって娘に感謝しています。

 ある子はお母さんから、「あなたは命がけでお母さんが幸せになることを教えてくれた」と感謝されたそうです。その子は「私の病気は無駄ではなかったんですね」と嬉しそうでした。また、ある子はこうつぶやいたんです。「私たちって、スポンジみたいにお母さんのいろんな思いを吸って、重くなっちゃったんだね」と。

どうもありがとうございました。


 母と子の幸せを考える会「麻生洋子カウンセリングルーム」=
   TEL&FAX 03-5565-5442


【2004年3月20日号】