学校における食育の推進のため、文部科学省はその中核的な役割を担う「栄養教諭」制度を平成17年4月から施行した。一年余が経過した今、全国に栄養教諭は約320人配置されている。家庭の教育力が低下している昨今、学校での食育の取り組みには大きな期待が寄せられるところだが、諸事情によりその配置は必ずしも充実してい
るとは言い切れない。その現状と今後の展望を学校給食調査官・田中延子さんに伺った。(レポート/中 由里)
■配置人数は
300人以上
−栄養教諭の必要性と現状について教えてください。
栄養教諭制度創設の始まりは、平成9年の保健体育審議会でした。
最近の食生活の乱れが子ども達の健康に及ぼす影響が危惧されることから、これらを改善するためには、食の専門家である学校栄養職員を活用し、子ども達に対する食に関する指導を充実させるべきで、そのためには、資質を担保するため新たな免許制度が必要であるという答申が出され、栄養教諭制度の検討が始まりました。
栄養教諭とは栄養に関する専門性と教育に関する資質を併せ有する教育職員です。免許には専修、一種、二種の3種類があり、基本的には大学で所要単位を修得することが定められていますが、現職の学校栄養職員が一定の在職経験と都道府県教育委員会が実施する認定講習などで所定の単位を修得することで免許状を取得できるようにもなっ
ています。
17年の4月に 配置がスタートし、これまでに320人ほどの栄養教諭が誕生しています。滑り出しとしては、まあ順調というところでしょうか。
−田中調査官としてはもっとスムーズに配置が進んでほしいということですか?
そうですね。思ったように進まないのにはいくつかの理由があります。栄養教諭は学校給食法に基づく学校栄養職員の定数に含まれており、学校給食法自体は義務法で はなく奨励法ですので、ほかの教職員のように全ての学校に義務的に配置できません。
また、給食を実施していない学校もあります(現在全国の公立小学校は、ほとんど実 施しているが、公立中学校では約70%が実施)。
そのため配置にばらつきが出てしまうのです。
■あらゆる教科
とリンクして
−栄養教諭の主な活動は何ですか?
栄養教諭制度の主たるねらいは、学校の中で教職員と連携し、子ども達に食に関する指導を展開していくことです。
特に年間約180日程度ある給食の時間の指導が大切です。毎日の準備から後片付けに至る実践活動を通して習慣化を図ることが出来ます。
給食指導は学級担任が毎日指導しますので、栄養教諭は土台となる内容をコーディネートし、指導内容を担任に伝えます。また、給食に使用している食品の産地や栄養的な特徴、食文化などについて、資
料やお便り、教材などを作成し、各クラスに配ります。
また、教科などにおける指導は担任教諭等と栄養教諭が連携して行いますが、食を取り上げながらも教科のねらいに添った指導を行うことが大切です。例えば家庭科で学校給食の献立を取り上げて食品の組み合わせについて説明したり、社会科で学校給食に使われている食品の流通を詳し
く追ってみたり。
食は生活の基本ですから、あらゆる教科とリンクできると思います。
■栄養教諭の
全国配置を
−昔は食に関する教育は家庭で行うものでしたが、今は学校が啓発しなければいけないのですか。
栄養教諭制度の創設や食育基本法の審議のときにも、食は個人の問題、家庭の問題という意見がありました。
確かに家庭が基本ですが、子ども達の食の現状はそうも 言っていられないほど危機的状況になっています。
一日の始まりの基本であるべき朝食すら欠食する子ども達がたくさんいるのです。今の小学生はあと十年もたつと親に なる可能性があります。正しい食習慣を次世代に伝えていくためには、正しい食育をしなければなりません。
小学校からでは遅いくらいです。
−今後の展望をお聞かせください。
子ども達が抱えている問題は食ばかりではありません。生活習慣の改善が必要なのです。
文部科学省が推奨している「早寝、早起き、朝ごはん」は食を切り口に生活 習慣の改善をねらいとしています。
まずは、自分の周りにいる子ども達の現状を把握し、計画的に、継続的に指導を展開していくことが大切です。
このためにもコーディネーターとしての栄養教諭が全国に配置され、食育の担い手として力を発揮してくださることを期待しています。
【2006年7月15日号】