教育家庭新聞・健康号
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子どもの心と体の健康
高校生へ向けた環境教育の取り組み
主眼は気づくこと、そして行動すること
 地球規模での環境破壊が懸念され、一般の人々も環境問題の重要性を深く認識し、小・中学校でも、環境教育は大切な問題として取り扱われている。しかし意外なことに、最近まで高校レベルでの公式な環境問題研究会は存在しなかったという。本紙でも発足当時紹介したが、先月で発足丸2年を迎えた「東京環境教育実践研究会」は、都内の高校の横のつながりを核として、環境教育の研究を地道に続け、会員の増加や環境教育指導者資格取得者の急増という実績に見られるように、順調に発展している。実践的で真に教育的なその活動内容を、研究会の専務理事・入江祥史氏に伺った。
(レポート/中 由里)


プロジェクト・
  ワイルドの奨励

−「東京環境教育実践研究会」のあらましを教えてください。
 この会は平成16年5月に、都内の私立中学・高等学校校長先生及び理事長先生方の呼びかけによって発足し、顧問に現環境省事務次官、炭谷茂氏をお迎えしました。発足当時の参加校は、私が在籍する文京学院大学女子高等学校を含め文京区内の4校でした。現在は都内7校が加盟しており、かつ、個人会員として都立・私立高校の教員が多数在籍しています。  会の趣旨は、加盟校の生徒達にさまざまなプログラムを体験させることによって、環境問題を深く理解するように導くことです。  

 これまで、わが国には全国高等学校組織としての環境に関する公式的なものはありませんでした。そこで、私達の研究会の目標として、会の名称には東京とついていますが、できるだけ早く、私達の活動の輪が、全国に広がっていければと考え、今一生懸命活動し、仲間を求めています。

−具体的にはどのようなことを行うのですか。
 加盟校から参加者を募って自然体験施設での体験学習を行ったり、環境関連の研究を深めるなど、さまざまな活動がありますが、もっとも重要な活動が「プロジェクト・ワイルド」の奨励です。

 「プロジェクト・ワイルド」とは、1980年にアメリカで開発された、幼稚園から高校までの生徒を指導する指導者を育成する環境教育プログラムです。
 日本では財団法人公園緑地管理財団が米国環境教育協議会(CEE)と独占ライセンス契約を結び、1999年に導入しました。講習を受けカリキュラムが終了すれば環境教育の指導者の資格が取れますが、資格は3種類あって、今では全国に1万人以上のエデュケーター(一般指導者)、400人近くのファシリテーター(上級指導者)、43人の推薦ファシリテーター(最上級指導者)が誕生し、活躍しています。こうした指導者は幼稚園や学校の教育現場や地域の環境学習の場、企業の人材育成の場などで環境に関するワークショップを行います。今は自然観察員、森林インストラクターなど、いろいろ環境・自然に関する仕事が増えていて、勉強をするだけではなく環境の資格を取って仕事にしたいと考える人が大学生・高校生にも非常に増えています。

 ここで取り上げた「プロジェクト・ワイルド」は、正確には18歳の誕生日が過ぎないと資格が取れないので、高校生には無理なのですが、フォローワークを年間を通して実施することを前提に、特別に許可を得て、私の学校では仮免許のような形で資格を取得させ、卒業と同時に正式資格を取れるようなシステムを作っています。昨年度本校ではエデュケーター(一般指導者資格)を84名取得し、かつ、今年5月3日にも新たに44人が取得しました。非常に権威のある資格ですが、まだあまり知られていません。しかし、あと数年のうちには必ず、環境の指導者の資格として、わが国のトップになっていくと思います。


正しい知識の
  啓蒙活動を

−ここで学んで資格を取った生徒達はやはり変わっていくものですか。
 このプログラムは「何を考えるか」ではなくて「どのように考え行動するか」を指導するものです。

 子ども達が正しい知識・情報・技能・経験を身につけ、野生生物、人類、共有する自然環境を守るための正しい判断と責任を持って環境保護活動に参加することができるように作られているのです。
 机の上の勉強だけではなく、さまざまなアクティビティ(環境問題に基づいた活動のこと。基本テキストには153ものアクティビティが提示されている)を通じて環境を考えますから、勉強して資格を得たあとに「私達はこのあと、どうするのか」という考えに自然と至るようになります。これら環境教育システムのキャッチ・フレーズが「気づきから、責任ある行動へ」となっているのはそのためです。

 知識や思考を行動に結びつけることができる人材は、自分をプレゼンテーションする能力に長けています。そういった意味で、ただ勉強する以上の伸びが見られます。また、このプログラムは結果的に指導者を生むわけですから、一人が学べばその人からどんどん正しい環境の知識が広がっていくわけです。環境問題の啓蒙という点で大きいことですね。


プレゼンテーション
  できる人間に

−先生のご経験から環境教育の意義をお話いただきたいのですが。
 多くの大人達は、高校生レベルでこんな真面目なことを勉強する人はいないというような偏見を持っているようですが、私はそうは思いません。真面目に、考えるべきことは考えている高校生が大多数だと思います。やはり教師が一つのことについて深い知識と情熱を持って、学校の中で核となるような存在でいれば、生徒達の気付きは違ってきます。気付くことから行動は生まれます。私達の学校でもやる気のある生徒達がどんどん増えています。

 私自身にとっても、環境問題は勉強すればするほど興味の尽きない問題で、生徒も全く、同様です。俗に言う「ハマる」人が非常に多いのです。また環境に限らず、何かに打ち込みやり遂げたということは、必ず実になります。「自分はやる気のある人間である」と、いつ何時でも、自信を持ってプレゼンテーションすることができるようになります。それは現在の高校生、大学生のこれからの人生にとって、一番不可欠な要素ではないのでしょうか。  自分自身に自信を持つことこそ、今の若者には必要なのです。

 さあ、始めよう。みんなで「プロジェクト・ワイルド」。

【2006年6月17日号】