教育家庭新聞・健康号
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子どもの心と体の健康
自分育てを止めないで
幼稚園が支える母親達のサークル
 子ども育ちがうまくいかないのは親育ちがうまくいってないからだという意見がある。現代の母親達は学歴も高く、社会から必要とされる仕事に就いてきた人が多い。育児に没頭する中で閉塞感を覚えることもあるだろうし、これまでになかった人間関係に疲れる人もいるだろう。ほうや幼稚園の親の勉強会・「母親と子育てを考える会」が目指すのは、そんな人達の心の開放である。参加した母親たちは、子どもと共に自分を育てることによって心の安定を得、子育てを前向きに考えることができたと口を揃える。新しい視点でこの母親学級を支えてきた鈴木副園長と実際に学びを深めている皆さんに話を伺った。(文中敬称・役職名略)
(レポート/中 由里)


能力発揮の
  場を与えて

−−母親の勉強会を思い立ったきっかけは何だったのですか。
鈴木 私は幼稚園教諭として長年子ども達とお母さん方に接してきましたが、最近、ストレスを抱えていたり、子育てが楽しくないというような感じのお母さん方が増えてきたんです。
 その頃ちょうど、大妻女子大学家政学部児童臨床センターで、児童心理学の第1人者である昌子武司先生について研修生として心理学を学んでいたのですが、その時も教育相談の場で、不安を抱えているお母さんからのご相談が非常に多く、思いあぐねて先生にご相談したところ、幼稚園という場があるのだから、何か活動を起こしてみないか、という話になりまして、平成10年に立ち上げたのです。 

−−当時はまだ今のような活動内容ではなかったのですね。
鈴木 昌子先生のご講演などを中心に、もっぱら「与える」一方の勉強会でした。勉強会は年8回ほどのペースで、主に幼児心理の講義や子育てに関するディスカッションなどでした。手探りで始めたことですが、お母さん方が変わるにつれ、子ども達も非常に伸び伸びとしてくることに気がつきまして、やはり母親の情緒の安定は子育てには不可欠なことだと実感したのです。これまでに延べ約200人のお母さんが参加しました。

−−現在は若干形を変えていますね。それはなぜですか。
鈴木 やはり与える一方では続かないということです。今のお母さん達は能力が非常に高く、自分たちの力を発揮する場がないことにジレンマを感じているのではないでしょうか。でも情報は溢れて、何を選択したらいいか迷うばかりだし、ストレスは高まるばかり。もっとリラックスして自分自身が積極的にかかわれる場を、と考えて発足したのが「サークル制」です。今まで私が1人でやってきたことをお母さん方に引き継いだのです。結果、内容も多様化し、何よりお母さん方が自主的に取り組んでくださったことがとてもよかったと思います。


雰囲気で
  引き継ぐ力


−−サークルは今いくつあるのですか。
鈴木 今、1番古いサークルはママにも子どもにも本を貸し出す「ありんこ文庫」。それから7年目に入る母親同士の交流の場「ぽかぽかさろん」。「エルベ文庫」(「ぽかぽかさろん」の母体)は昌子先生の寄贈図書によってできた図書館です。あと若いサークルは、テーマを設けて勉強会やイベントを開く「リフレッシュママ」、行事の時にはそのとき主役になる子ども達のために弟妹の託児を行なう「サポートママ」。まだまだ手探りのサークルもありますが、確実に次世代に受け継がれていくことに頼もしさを感じています。

−−昨今幼稚園選びでよく重視されるのが園バス、給食、延長保育の「三種の神器」ですが、ここは全く合致せず、むしろ積極的な母親の活動が求められる。母親がこれだけかかわる園ということに関して皆さんはどうお考えですか?
鈴木 私はこうした活動を行って、後続のお母さん方に引き継いでいただいて、とても嬉しかったです。こういう経営方針では昨今のニーズにはとても応えられません。でも私は、たとえ経営が難しくなってもこの姿勢は崩したくないと思っています。

長谷川 「リフレッシュママ」と「ぽかぽかさろん」を担当しています。「リフレッシュママ」は、子育ての中の悩みや喜びを中心に語り合う会員制のサークルです。「言葉のプレゼント」をかけ合う前向きのサークルです。「ぽかぽかさろん」は、学年を超えたお母さん方の交流の場として作ったサークルです。講師は専門知識を持ったお母さん方でお互い専門分野を教え合うような形で勉強会を開いています。

 エルベ文庫の伝統を受け継ぎ、「ぽかぽかさろん」に参加しましたが、皆さんがちゃんと引き継いでいくというのはすごいと思います。言葉ではなく、雰囲気で伝えていってるんですね。そこが素晴らしいと思います。このまま続いていってくれればと思います。

久保 私は細谷さんに勧められて「サポートママ」活動に参加しました。自分自身子どもが3人いるので、この園の「『その日』はただ1人の子のため」(めったにないことなのだから、子どもが主役になる日はほかの子をよそに預けてその子1人の親になりましょうという奨励)という方針には結構困っていたんです。肉親も親戚もそばにいませんでしたし。でも、参加してみると、この考え方は大事なことなんだと気がつきました。自分にできることがあれば、という気持ちで参加しました。

細谷 私も子どもを預けるところがなくて困った口なんです。でも、実際子どもさん達を預かってみると、「預ける」「預けられる」以上のことが生じているのがよくわかります。思い切って先生に申し出てよかったと思います。まだまだ実質的な労働が多い託児なので、難しい問題は多いと思いますが、助かった人が今度はほかの人を助けてあげる、という考え方で引き継いでいってもらえれば、と思います。


母の嬉しさは
  子に伝わる


−−鈴木先生のこの活動を支えてきたパワーはどこにあるのですか。
鈴木 私は子どもも大好きですがお母さん達も大好きなんです。お母さん方が生き生きされることにとても嬉しさを感じるんですね。お母さんが生き生きすれば子どもは必ず生き生きしますから。私は子育てというのはどんな仕事よりすごい仕事だと思うのですが、ご相談を寄せるお母さん方の共通する悩みが「私は今、ここで、こんなことをしてていいのかしら」といったことなんです。評価されないのがつらいんでしょうね。
 もっといい部分での自分を認めてあげればいいと思うんです。そういう気付きができる場にこのサークルがなればと思います。


【2006年5月20日号】