子どもの心と体の健康
メディアと子ども
テレビとうまくつき合う環境づくり
テレビはママにとって、子守をしてくれる強い?味方です。でもこの2月、(社)日本小児科医会から、「2歳までのテレビ・ビデオ視聴は控えましょう」との提言が。また、雑誌「Como(コモ)」4月号(主婦の友社)では、読者家族が「テレビのない日々」に挑んだ記事が評判になりました。そこで今回のテーマは、『メディアと子ども』です。お話を伺ったのは、NHK放送文化研究所専門委員で、NPO「子どもとメディア」代表理事の清川輝基さん。NHK社会報道番組ディレクターとして、子ども、教育問題の他、「新日本紀行」、「ニュースセンター9時」などを担当。著書に『人間になれない子どもたち』(出版社)などがあります。
〈報告・藤田翠〉
NHK放送文化研究所専門委員
NPO「子どもとメディア」代表理事
清川 輝基さん
心とからだを蝕む長時間接触から守る
■テレビを
見ない生活
−−まずは、雑誌「Como」で行われた「ノーメディアチャレンジ」についてのご報告から。
今年1月の6日間にわたって行われました。「テレビ、ビデオ、ゲーム、パソコンなどを消して生活しよう」というもので、読者46家族が挑みました。6日間達成したのは9家族、0日は1家族で、ほとんどの家族が何日間かをメディアなしですごしました。
その間、子どもたちには▼朝の準備が早い▼遊びが豊か▼食事を食べる▼早く寝る▼時計が読める(テレビに頼らない)など変化がありました。そして空いた時間は絵本、オセロやトランプ、お絵かきやままごと、外でのボール遊び、ごっこ遊びなどに夢中でした。
親子の会話も増えて、ママたちは「テレビって時間泥棒だったんだ」、「実は私が見たいためにつけていたテレビだった」と、さまざまな気付きがあったということでした。参考=『ドキッ
!?テレビに子育てをまかせていませんか?』(主婦の友社より)
■からだや
心に異変が
−−今日は「なぜ今、・ノーメディア・なのか」を、伺いたいと思います。
私は26年前の1978年10月に放映された、NHK特集『警告!!子どものからだは蝕まれている!』という番組を担当しました。この番組は全国の小、中、高校1000校を対象に、子どもたちの体に起きている異常な部分を調査・取材して作られたものです。その結果、子どもたちの足や筋肉などの発達、脳の活動や体温調節など、人間としての基本的な部分に『異変』が起きていることがわかりました。
特に背筋力の低下や、70年代半ばからの裸眼視力「1・0未満」の急増が目立ちました。
−−心の面ではどうでしたか?
翌79年にNHK特集で『何が子どもを死に追いやるのか』という番組を制作しました。子どもの自殺、家庭内暴力、不登校など「心」をテーマにしたもので、当時、からだや心の発達の遅れや歪みがひどく表れてきていました。中学校で不登校が増え始めたのも70年代です。
データを総合的に見ると、子どもたちの発達に「変化が起こり始めたのは60年代」で、「70年代にからだや心の異変」が見られ、その頃の『異変第一世代』が子育てを始めた「90年代には子どもの発達の歪みや遅れがいっそう加速し、深刻になった」と言えます。
■便利・快適さに
マイナス作用
−−子どもの異変は、何が原因でしょうか?
一言でいえば、「文明の副作用」によるものでしょう。これまで大人がずっと求めてきた「便利さ・快適さ・安全性」は、人間の完成品である大人にとっては、良いことです。ところが子どもはもともと未完成で生まれ落ち、生きる過程で発達してゆく生き物。子どもにとって「便利・快適・安全」はプラス面もあるものの、マイナス作用があるということです。
また、大人は生きる環境を自分で選択できますが、子どもにはそれができないのですから、大人が整えてあげなければ。それなのに大人は子どものことを顧みず、ただ、自分たちの都合で社会を変えてきました。
−−その結果、今の子どもの環境は?
今の子どもは、遊ぼうにもダイナミックな空間(原っぱなど)が少なく、遊べません(仙田満『子どもと遊び』によれば、90年代の遊び空間は、55年の40分の1)。車社会になり、昔のように路地でも遊べません(「路地」は子どもにとって、近所の人と出会う重要な場所だった)。また、生き物の宝庫である川は護岸工事がなされ、子どもは遊泳禁止(代わりに学校ごとにプールが作られた)。
こうして、子どもは原っぱ、路地、川など、仲間と遊び、けんかをし、仲直りをしていた『子ども文化の伝承の場』(自然)を、ことごとく失ったのです。そして大人はそこから追い出された子ども達がどこへ行くのかを考えなかった…それが大人の大きな過ちです。
私がノーメディア運動をするのも、子どもの頃に自然の中で友だちと暗くなるまで遊んだ体験があるからです。
−−テレビやビデオ、パソコンなどが特に子どもにとって悪者扱いされていますが。
それは他の物と違い、メディアとの長時間接触によって、「子どもたちの大切な活動時間を奪われる」からです。
これまでのデータから、子どもは外遊びをしなくなり、足の働きや立体視力などの発達が損なわれたり(からだへの影響)、仲間と遊ばないことでコミュニケーション能力が育たなくなっているからです(心への影響)。特に、『乳幼児期』は人間の体と心の基本を作る大切な時期であるのに、その時間を奪っているのがテレビやビデオで、これは子どもに対する大人の大罪です。
今、子どもの体に異変がおき、心が、犯罪にまで結びつくことがあるのも、この幼児期の過ごし方が大きく関わっていると思われます。また、最近では、幼少期からテレビゲームをすることによって、脳の中で「人間らしさ」を司る「前頭前野」という部分の活動が低下してゆくといわれています。(森昭雄『ゲーム脳の恐怖』NHK出版)。
■これからの
メディア対策
−−これからのメディア対策はどのように?
子どもの心とからだの発達を保障するためには、メディアとの接触時間はどのくらいが良いかを考えることが重要で、そのために、子どもの現状調査が必要です。
先進国では、テレビに振り回されずに豊かに生きようと、「メディア・リテラシー教育」(メディアに対する主体性を育てること)をしています。日本でも学校教育に取り入れるべきでしょう。
また「テレビを消す生活」に挑戦してみましょう。冒頭に「ノーメディアチャレンジ」が紹介されていますが、私も参加している福岡県の市民共同型プロジェクト『子どもとメディア』では、00年に保育園18園を対象に『ノーテレビデー』(月に1日、テレビを見ない日を作る)を、01年には47家族を対象に『ノーテレビチャレンジ』(テレビをまったく見ない週と、2時間まで見てよい週を交互に4週間)を試みました。
それは、「本当の家族を発見するチャレンジ」(活動の中心になった九州大谷短大教授の山田真理子さん)でもあり、最終的には「見たいものだけを見る」という生活に落ち着きました。こうした取り組みは各地に広まりつつあり、「子どもの居場所作り」などの運動と併せ、より良い子どもの環境が作られていくことを期待します。
−−本日はどうもありがとうございました。
【2004年9月11日号】