医療の現場から子どもの心を考える
3.過呼吸症候群の事例
〜中学生編〜
岡田謙医師(関東中央病院 精神神経科部長)
はじめに
事例は、公立中学校2年に在籍する14歳の女子(以下Clクと略)。小児喘息のため小児科に通院中、中2の2学期頃から喘息発作とは明らかに異なる呼吸困難感が出現するようになり、次第に過呼吸発作となってきたために心理的要因を疑った小児科主治医が精神科受診を勧め、Clクと母親が納得したため、筆者を紹介され精神科初診となった。
Clクの家族は両親と5歳下の妹の4人。性格は内向的でおとなしく、やや神経質で自己表現が苦手だった。小児喘息のほか、特に既往歴はなかった。初回面接では、Clクに不安と抑うつ症状が存在したため、薬物療法を開始し、同時にC1クと母親への支持的精神療法を行い、症状が消失したため、治療を終了とした。治療期間は約2年、面接回数は27回だった。
経過の概要
面接場面では当初、Clクには極度の緊張がみられ、なかなか自分の内面や、日常生活上のストレスや悩みを言葉で表現することが出来なかった。しかし、受容的態度で接することにより少しずつ一日の過ごし方、対人関係の様子などが具体的に語られていった。10回目の面接では、C1クからはっきりと、今一番の不安は進学できるかどうかの一点であること、しかもそのことは誰にも言えなかったこと、言ってはいけないと思っていたこと、たとえ言ってもわかってもらえないと思っていること、などが述べられた。しかもそういうことをひとりで考えているときに過呼吸発作が出現すると付け加えられた。中3に進級すると、不安の高まりから喘息発作が悪化し、2回小児科に入院した。支持的面接を続けるなかで何とか高校受験に合格し、公立高校に入学すると、多少の不安はありながらも過呼吸発作は消失した。最終の第27回面接においてC1クは、いままでは自分がどうなってしまうかの不安、行き先不安、自分が取り残されそうな不安に圧倒されていた。でも今は、不安はあるがそれは将来への期待が入った不安と思うと述べ、治療は終了とした。
不安を乗り越える
不安は生活の中で誰もが体験し、不安のない生活はありえないともいえる。不安があるからこそ人間はがんばり、それを乗り越え、生活に達成感が生まれる。不安に圧倒されすぎないことが心の健康につながる。
過呼吸発作を起こす人の特徴は次の3点
・不安の直接的原因を本人は自覚している。
・その解決方法もはっきりしている。
・しかし、その解決方法は今は実現不可能である。
本事例では、不安の直接的原因は受験であり、合格すれば不安は解消するが、それまでは不安は解決しないということになる。
不安をしっかりと受け止め、主体的に解決していけるようになることが、心の成長には必要である。
13歳から15歳
0歳から12歳までに生活の基盤がある程度確立し、自分らしさを意識し、自分の方向性が少し見えてきた子どもは、自分の立場を考えるようになり、自分の役割認識が芽生えてくる。しかし、生活能力にはまだ限界があり、生活体験もまだ不十分である13歳から15歳の子どもには、積極的に取り組もうとするもの全てに不安は付きまとう。その不安に圧倒されないだけの自分なりの心の強さを作り上げることが13歳から15歳までの課題である。試行錯誤が許される自由な生活環境の中で、人間は失敗から多くを学ぶことを体験し、自分の能力の限界、適正を現実的に感じ取りながら、可能性を夢につなげ、自尊心を作り上げることが重要な課題となる。そして、生きていることを感じる思春期となる。
【2004年9月11日号】