■HAB教育を
学校現場に
「ヒューマン・アニマル・ボンド(人と動物の絆、以下:HAB)」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。70年代欧米でレオ・ヒューステッドが名付けたこの理念は、獣医学・精神医学・教育学・脳科学・児童発達学等の複合的協力により、動物介在活動・療法・教育に具体的に取り入れられ、教育・福祉・医療等の分野で応用されようとしている。
加藤さんは、「HAB教育を学校現場に」とNPO法人日本ヒューマン・アニマル・ボンド・ソサエティ(J―HABS/http://www.jhabs.com)を設立。来春には第2期生となる「HAB教育インストラクター養成通信講座」を開講し、HAB教育を広める人材を育成していく。
少年時代、軍事訓練につながる教育になじめず、登校拒否をしていた加藤さんにとって、戦争の終わりは「敗戦ではなく終戦」だった。「グレーな気持ちが逆転した」。教育学界に身を置く者ではないが、この時代を過ごしたこと、30代から今日に至る全米の獣医学教育に携わってきたこと、レオ・ヒューステッドとの交友が、教育に格別な関心を持つきっかけとなった。
少年当時、犬や猫は「犬畜生と呼ばれていた時代」であり、動物の代表格といえば「軍馬」だった。登校拒否をしていた時、母親が図書館から借りてきた小津茂郎著書の「愛馬読本」に出会う。絵や粘土細工の好きだった加藤少年は、その本に魅了され、「馬と馬の飼主」との付き合いが始まった。「知るということは好きになること」。それが「動物」との出会いだった。
戦後、駐留軍の外交官らが犬を家庭の一員として生活する様子を見て、日本との違いに気づき、「すべてのペット動物を診る医師になりたい」と獣医学を選ぶ。講師として渡米していた時、HABの科学に出会い、それが親子関係や、教育にもたらす影響の大きさに気づいた。「教育とは相互作用。人と人、人と動物、人と自然との在り方をサイエンスとして、事実に基づき論理を展開、紹介していくことが自分の役割」と考え、その実際をこの講座で同志と共に実行していく。
同通信講座は、J―HABS認定の2級・1級・マスターと進むコースであり、2級は幼稚園児〜小学2年生、1級は小学校3〜6年生、マスターは中高生から社会人までを対象に指導することができ、人間・動物・自然を大切にするためのプログラムを、脳の発達段階に合わせて組む。
「無知は恐怖と貧困、広い意味での虐待や犯罪にもつながる。子どもとは何かを脳のサイエンスから学び、体感・体得・気づきの教育を、強制されるのではなく自ら進んでやる、陽性強化法で育てることができる人を育てたい」。それを共に学ぶことで、教育者と社会を育てることこそがこのプログラムの目的だ。
<プロフィール>
加藤元(かとう げん)=1932年、神戸市出身。
・北大獣医学部卒業後、神戸市王子動物園勤務。
64年東京都杉並区でダクタリ動物病院を開設。
73年のカンザス州立大を皮切りに、現在もコロラド州立大客員教授を務める。
94年AAHA全米動物病院協会エクセル・アワード、同ウォルサムアワードを外国人として初めて受賞。
01年動物病院基準とアニマルセラピーのJAHA最高賞を受賞。
【2006年1月21日号】