■効率悪いものこそ素晴らしい教育
「聞く・伝える・学ぶ」プロ意識で 2年前、北海道・北星学園余市高等学校のドキュメンタリーが放映され全国に知られた「ヤンキー先生」。ベストセラー自伝書「不良少年の夢」(光文社刊)は、映画化され10月15日からポレポレ東中野で公開される。全国から集まったさまざまな境遇の仲間、そして恩師安達先生との出会い。義家先生の「安らげる場所」はここで生まれた。
現在は横浜市教育委員として、500校を超える市内すべての学校を1日1校訪れ、「視察という回り方はしたくない」と児童・生徒から地域の人々、そして先生達と本気で語り合う日々を送っている。
0歳で母親と別れ、高校を退学し親から絶縁された。その時自信ゼロだった自分に、帰る場所をくれたのは里親だった。「神様かと思った」と振り返る。その里親との生活中新聞記事で見つけた母校。寮には帰る場所のない仲間達がいて、「共通のベクトルを共有し、家庭の根本が培われた」。
そこで出会った安達先生は、母親のようであり、教育者としても慕う存在。「見習うべきところはしつこさ」と笑みを浮かべるが、すぐに「安達先生は、継続は力なりの人。疲れたとは決して言わない。教育とは世の中で効率の悪い物。しかし、効率が悪い物こそがすばらしい教育」だと真剣な眼差しを見せる。
子ども達には「道理を示して欲しい、筋を通して生きろ」と教える。例えば、ゲームが欲しいと子どもが言ったとする。それを買うことにより伴う責任感。「そのプロセスを踏みながら何かを与えていきたい」と考える。
教師を目指した時、夢を追う条件として「聞くプロ・伝えるプロ・学ぶプロ」になることを自らに課した。そして、授業力をつけようと予備校講師として4年間努力を重ねた。大人達がこの3つのプロを意識し、本気で接することで子ども達は救われると言う。
教育とは?「愛しかないですよ」。恋愛は片思いのまま終わることが多いが、教育は違う。卒業式まで険悪な状態だった教え子が、卒業後学園祭に来た時、「やっと先生の言っていることがわかった」と言った。その時は涙が出そうだったと、両思いになった瞬間を感じている。
まもなく団塊の世代が一線を退く。その後自分達が感じているものを打破し、新しい物を作るのは今の子ども達。「なんて幸せな子達だろう」、その子ども達のために全力で教育という道を突き進む。壁にぶつかったなら壊して前に進む。「仕事だと思ってやっていたら10カ月しか住んでいない小樽の家を手放して横浜に来ようとは思いません」。教育に終わりはない。
<プロフィール>
義家弘介(よしいえ・ひろゆき)=1971年長野県生まれ。
・高校を退学し、親に絶縁され里親に引き取られた後、北星学園余市高等学校に編入。
大学在学中交通事故に遭うが、恩師安達先生の励ましのもと死の淵から生還し、教師を目指す。
99年母校の教師となり、今年3月退職。
自伝「不良少年(ヤンキー)の夢」の映画化作品は、10月15日から公開(配給=オムロ キネマスターフィルム)。
【2005年10月15日号】