■コンプレックス、マイナス要素
そこから生まれた力をプラスに 12月10日公開の映画「あらしのよるに」の原作は、1994年に出版。その後第6部まで出版され、ベストセラーとなっている。暗闇の中で出会い友情が結ばれたヤギのメイと、オオカミのガブ、二人の不思議な友情が描かれている。
第1話は、暗闇の小屋の中で2匹がお互いを誰か知らずに出会う。「真実を知らない人の気持ち、真実を知ったら大変なことになる緊張感。何の冒険もしていないのに緊張する」、作家としてそんな話が面白いかなと思い書き上げた。
初版が発行される3年前くらいにこのストーリーが思い浮かび、メモをため、ある時ファミリーレストランで、一晩で書き上げたそう。無意識に、今まで生きてきた中の引き出しが化学反応し、ヒラメキが出てきた。「ヒラメキとは、その作品のうまみ。ビカっと光るものがないと書けない」と言う。その雷が起きる瞬間がないと、作品は生きてこない。
幼い頃は、近所の人にかわいがられていたが、外に出ると内弁慶で、勉強も運動も出来ない子ども。イジメに近いものもあり、「その中で心のなかにためてきたものが、作家のもとになってきたのかもしれない」と振り返る。ガブがメイを食べたいと思う本能と、友達なのだからという理性との葛藤の部分を、「『我慢』という点ではガブの視点になっていることが多いかな」と自分自身を分析する。
高校受験に失敗し、木村さんはコンプレックスだらけだった。偶然、絵や文章を書くことに目覚め、「オレでもできることがあるんだ」という気持ちが湧き起こり、「人に褒められることで存在の切符を手にいれた」。
高校には美術部がなく、「それなら作ろう」と美術クラブを作り、部長になった。「美術部がないというマイナス要素がプラスになった」それから自分が変わった。美術部がなかったことが現在の木村さんを作った。
映画の中では、声優としても参加し、「プロとアマの違いを感じた」。この体験をもとに、「今度は人間のドラマを作り、実写をやってみたい。会話の面白さを表現していきたい」と夢を語る。
絵本を手にとる世代の子ども達には、「何でも善悪にしてしまうことは、危険なこと。この話は天敵同士の心が通じる話。外的先入観に縛られることなく付き合って生きて欲しい」と、この作品を通して伝えたい思いを寄せた。
<プロフィール>
木村裕一(きむら・ゆういち)=1948年東京生まれ。
・多摩美術大学卒業後、造形教育の指導、小学館学年誌の付録のアイディア担当などを経て、絵本・童話作家となる。
大学で教鞭をとるなど、幅広い分野で活躍し、著書は300冊以上。
国語の教科書にも採用され、数々の賞も受賞の大人気シリーズ「あらしのよるに」(講談社刊)が、この冬映画化される(配給=東宝)。
【2005年9月10日号】