■「人間力」の育成
を目指す 東京・三鷹市立第四小学校は現在、参画型コミュニティ・スクールとして地域が積極的に学校教育へ関わる「NPO法人夢育支援ネットワーク」と協働で、アントレ教育やキャリヤ教育の拡充を図っている。子ども達が現代社会を生きていく「人間力」を育むこの取組の原点は、その仕掛け人、同校の前校長だった貝ノ瀬滋・教育長の経歴に垣間見ることが出来る。
貝ノ瀬教育長は元来、弁護士志望だった。青年時代、市民社会には人権の尊重をと大学進学を目指すが、高校3年生の時に父親を亡くし、家族の生活のために中央大学の夜間部に進みながら、昼間は採用試験に合格した東京都の職員として働いた。大学卒業後は、司法試験の勉学に励む傍ら北区の小学校で夜間警備員を務める。
そして3年後、「教員になって子ども達を育てるのも国づくりにつながる」と、当時の学校長の勧めで教職へと進路変更、中央大学では中・高社会科の教員免許を取得していたが、玉川大学の通信課程に進み、小学校の教員免許を取得、北区内の小学校に勤めた。27歳だった。だが、30代を教員として務めるうちに、一つの学級経営だけでは物足りず、40歳を機に指導主事となって教育行政の道へ。4年後、都立教育研究所(現・教育研修センター)に異動、島しょ担当指導主事として3年間、伊豆大島ほか11の島を巡った。
元々、島に住む人達は学校に協力的という地盤が都市部より固い。そこにコミュニティ・スクールの可能性を見てとり、その影響は現在に及ぶ。東大和市教育委員会へ異動した時には、指導室長として不登校児童・生徒に対応する「不登校問題市民会議」に関わった。このメンバーは学識経験者のみならず、実際に不登校児を育てた保護者や不登校経験者も参加して不登校者本人の気持ちにより即した実践的な試みでもある。また、弁護士などのボランティアが中心となる第三者機関の人権オンブズマン制度を設立、悩みを持つ子ども達のための相談電話には、フリーダイヤルで24時間、臨床心理士が対応するチャイルドラインを構築した。
三鷹市立第四小学校の取組は、教育ボランティア制度を基盤として、「人間力」のある子どもを育てるという目的で進めている。貝ノ瀬教育長が求める「人間力」は、チャレンジ精神、責任感、判断力、コミュニケーション力など今の子ども達に不足しがちな力を教科と同時に総合的な学習の時間を通して育てていく。
三鷹市では今年度、コミュニティ・スクールの基盤となる小中一貫のカリキュラムを作成、次年度のモデル事業、3年後の全校拡大に向け、取り組んでいる。
<プロフィール>
貝ノ瀬滋(かいのせ・しげる)=1948年北海道生まれ。
・中央大卒。
東京都内小学校教諭、東久留米市教育委員会、都立教育研究所、東大和市教育委員会、三鷹市立第四小学校校長などを経て、現在、三鷹市教育長。
主な著書は、「市民が考えた不登校問題−子どもの心の叫びに答える−」(共著・教育出版)、「子ども・学校・地域をつなぐコミュニティスクール」(共著・学事出版)他。
【2005年5月21日号】