自然の中で心も体も豊かに育つ健康学園

特別な方法、対策はせず
東京・杉並区立南伊豆健康学園

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↓学園のすぐ前は海岸

 ぜん息や太りすぎなど、体の弱い子どもたちのために恵まれた自然の中で健康の回復と体力の増進を図ることを目的としている健康学園。
 伊豆半島南部、弓ケ浜のほとりにある杉並区立南伊豆健康学園では、現在3年生から6年生まで36人の子どもたちが全寮制で生活している。特別な食事療法や、ぜんそく児のための特別な対策もとっておらず、肥満児だけに特別の運動をさせることもないが、子どもたちは自然と健康体へと戻っていくという。
 入寮期間は原則として1年間。入園の際の判定会においては、健康学園で過ごした方がその子にとって幸せかどうかを保護者と子ども、学園で話し合う。「もっとも大切なのは、子どもにがんばりたいという気持ちがあるかどうかということです」と小山浩副園長は話す。

 
 肥満度も大幅ダウン                  「たくさん食べるからおなかもぺこぺこ」↓
 肥満度80%代だった子が1年間で30%代に、60%代の子が10%代になる。また1日に13回ものぜんそくを起こしていた子が1日2回程度に落ち着き、偏食のひどかった子も大体の食品を食べられるようになるなど、大きな成果をあげている。
 このような成果をあげる同校の特徴としてまず挙げられるのが、子どもたちが実によく体を動かしているということだ。月曜日と金曜日に1時間ずつ「さわやかタイム」という養護訓練の時間を設けている。このさわやかタイムの時間を使って、温水プールを利用した年20回の水泳、弓ケ浜沿いを走る2キロマラソンを年に10回行っている。このマラソンは、競争ではなく一人ひとりが目標をもって行うもので、歩いても構わないもの。それぞれが目標をもちやり遂げようとすることが大切であるのだ。また、これとは別に12〜25キロを歩くウオーキングも年3回実施している。
 毎日2時間目と3時間目の間に「遊び時間」という25分間の長い休み時間があり、校庭や学校の裏山を駆け巡る。また、放課後の自由時間にも大半の子は外へ出てくるという。「今までの学校だと休み時間も短くてすぐ終わっちゃうからなかなか遊べないし、校庭も狭くてスペースもとれなかった。だからここはすっごく楽しいよ」と4年生の男の子は話す。山を駆け回って遊ぶなんてことは、都内にいてはなかなか体験できないことだ。ターザンロープをしたり、大きな木に基地を作ったりと生き生きした子どもたちの姿が見られた。また部活動も盛んで、週4回行われる様々な部活動すべてに所属しているという子もいるという。


 心のケア
 同学園では、体の健康だけでなく、心の健康も大きなねらいのひとつである。肥満はとかくマイナスのイメージが強く、周りからの中傷を受け内向的になってしまう肥満児も多い。しかしこの学園では、全員がなんらかの病気を抱えているため、それぞれが励ましあうことで、自分自身に自信がついてくるそうだ。「まずは自分に自信をもつことで、心も体も健康になっていきます」と小山副園長。
 また、学習面でも自信をつける子が多いとのこと。教育過程は通常の区立の小学校とまったく変わらない。一学年10人弱で授業が行われるため、ぜん息で授業が受けられなかった子や、これまではなかなか内気で発表すらできなかった子どもたちも、ここでは発表する機会も多くなる。また指導の面でも小人数制であるために一人ひとりに対応ができ、勉強面でも自信をもてるようになるという。
 
 多くの食品を献立に
 同学園の給食は、朝、昼、晩におやつと1日に4回で、1人分の1日の総エネルギーは平均2200キロカロリー。偏食をなおすという学園の目的のために、できるだけ広範囲にわたって食品や料理を選び、子どもの好物にとらわれないよう調理の工夫もして何でも食べられるような献立を作成している。また、栄養士、調理員、養護教諭、寮の指導員と子どもたちの代表による食事委員会が毎月行われ、メニューについての意見を出し合い、よりよい献立つくりを目指している。
 取材した日のメニューは野菜たっぷりのラーメンとみかん。残菜はほとんど見られなかった。食事の時間にも「食べなさい」といった先生の声はなく、残してしまっても「そのうち食べられるようになるよ」と声をかける程度。ぜんそくがひどくて入園してきたという3年生の児童も、体は小さいが、食欲は旺盛。「いっぱい動くからおなかすいちゃうの」と話す。また、1年半で171114も減量した6年生の女子にその理由を尋ねると、「前は家に帰っても食べてばっかりだったけど、ここに来て運動することがとても好きになった」と笑顔で話す。入園前はお茶碗で必ず2杯は食べていたが、今では軽く1杯の量で十分満足しているという。どの子も笑顔で元気よく答えてくれたことが印象的であった。
 
 健康考える理想的な施設
 現在、東京都の健康学園は伊豆や箱根、勝浦など自然に恵まれたそれぞれの地域に15ケ所設置されているが、来年度、江東区立と中野区立の学園が廃校と決定している。費用などの諸問題の面から行政改革の対象となるなど、厳しい状況に置かれているとのことだが、子どもたちの健康を考える理想的な教育施設として、子どもたちのためにも残していかなければならない大切な施設である。
(教育家庭新聞2000年1月15日号)