子供が様々なジャンルの本に親しみ、活字を目で追う習慣をつけ、さらには学習への活用といった位置づけで、独自の「必読図書(課題図書)」を設けている学校がある。自校の児童生徒を良く知る教員が選んだ「必読図書」は公立・私立、校種によっても、選書のポイントや動機づけは異なるはずだ。学校の学びの特色の一つとして「必読図書」に取り組む3校の事例を紹介する。
味見読書や押しかけ授業
東京・小平市 小平第一小学校
公共図書館のコーナー |
石橋幸子司書教諭(小平第一小学校)は例年秋頃から、次年度の「一小必読図書」リストの検討を始める。毎年新たなラインアップで、1年生10冊、低・中・高学年各20冊を考える。
石橋教諭が本の選定で留意していることは、(1)日本・海外の偏りがないようにする、(2)ノンフィクションは必ず入れる、(3)昔から読み継がれた本と、新刊でぜひ読んで欲しい本のバランスを考える、(4)高学年でも絵本を入れる、(5)出版社は偏らせない、(6)同じ作者は2冊以上入れない、(7)自校と市の図書館に蔵書があるの7つ。
同じ本を学校図書館で何冊も揃えられないため、学校で貸出し中であっても公共図書館に蔵書があることは重要だ。公共図書館にも「一小必読図書」のコーナーを設けている。
児童が積極的に必読図書を読むための様々な"仕掛け"も行っている。
まず、必読図書のブックトークは石橋教諭と学校図書館協力員で全クラス年に1回は行う。また一人10分ずつ本を読み、次の人に渡していく「味見読書」も実施。少しでもその本に触れた児童は続きが気になり、本を読むきっかけとなっている。
そして、必読図書を読破した児童は校長室で校長から表彰される。その様子は写真で各クラスの「学級通信」にも掲載される。児童にとって大きな励みだ。
一方で課題も。毎年の改定を児童は楽しみにしているが、読書が好きな児童はすでに読んでいる本も多く、期待に応えようとすると新刊が多くなる点と、中・高学年の読破者数がなかなか増えないという2点だ。
そのため、新年度(平成27年度)は中・高学年の難易度を少し下げた。「新年度は"押しかけ出前授業"を増やし、児童が本を手にとるよう促したい」と石橋教諭は話す。
さらに、市内の他の小学校にも同校の「必読図書」のリストを紹介している。「一小のリストをベースにすることで、自校に合わせた必読図書を選定しやすくなるのではないか。子供たちが本を読むきっかけとして、必読図書を活用して欲しい」。市をあげた読書の底上げに期待したい。
3年間で100冊 活字に慣れる
東京・小金井市 中央大学付属高校
中大附属高校の課題図書は、国語科の現代文の教諭が選定し、生徒は3年間をかけて100冊の本を読破する。国語科の大高知児教諭は「"活字に慣れる"ことが最大のポイント」と話す。ゴールは、3年生全員が書き上げる1万字以上の卒業論文。「論理的」な文章を書くためには、豊富な読書量が必須だ。
同校の課題図書制度のねらいは、(1)読書の楽しさを知ること、(2)豊かな教養を身に着けること、(3)思考力・判断力を養うことの3つ。多くの本を読むことで、紙メディアに対する親近感を育て、様々な本を読みこなせるように工夫している。
課題図書のラインアップは、1年間を8期に分け、各期ごとに発表される。1、2学期の各前半/後半・3学期・夏休みはそれぞれ5〜6冊、冬休み・春休みはそれぞれ2〜3冊が示される。100冊のリストを一度に生徒に渡すのではなく、4〜5週間でその期の課題図書を読む形だ。「いつ」「どういう形で読むか」を明確にしている。
生徒らはその課題図書を熱心に読む。課題図書の内容が現代文の定期試験で出題されるからだ。100点満点中30点が配点されており、本を読んでいないと解答できない設問が並ぶ。
「最初は義務感で読むかもしれないが、日常的に読み続けることでほとんどの生徒が本を好きになる」と大高教諭はその効果を語る。名作、評論、授業と関連がある図書、その時期の年齢に読んでほしい本、エンターテインメントをラインアップに入れている。「エンターテインメントを読むと、その延長線上で(敷居が低くなり)名作も楽しめるようになる」。
平成24年度に入学した生徒が1年生の1学期前半に読んだ本は「注文の多い料理店」(宮沢賢治)、「友だち幻想」(菅野仁)、「レキシントンの幽霊」(村上春樹)、「ミッキーマウスの憂鬱」(松岡圭祐)、「蹴りたい背中」(綿矢りさ)。文庫・新書がほとんどで、多くの生徒が購入する。本を手元に置き、繰り返し読めることを大切にしている。
なお中央大学附属中学校でも同様の課題図書制度(60冊)がある。
読書活動の一環 入学前から指導
愛知・名古屋市 椙山女学園中学校
前年度の2月中旬、次の年度に入学する新1年生に「読書ノート」が渡される。読んだ本について簡単な感想を書き込むもので、同校の課題図書とも言える「椙中100冊の本」も解説つきで掲載されている。入学前にまずは1冊読むなど折に触れ、椙中100冊の本を読むよう指導している。
選書は各学年1名ずつの図書係の教諭が担当する。様々な教科の教諭で構成されており、英文も含め幅広い分野の本が選ばれる。適宜一部の本を、よりふさわしいものに差し替えている。
佐野輝明教頭は「生徒が読みたいものを選ぶだけでは、埋もれる本もある。椙中100冊の本は、教員として勧めたい本を選んでいる」と話す。
他にも、朝の10分間読書、ホームルーム読書会など、様々な読書活動も実施。図書委員の生徒が年1回書店に足を運び、学校図書館に入れたい本を購入する活動も行う。
なお、椙山女学園は、保育園・幼稚園から大学まであり、その中で小学校、中学校、高等学校にそれぞれ課題図書がある。
小学校の「椙小50冊の本」は、学年ごとに5〜13冊の本を選ぶ。1クラスの人数分30冊ずつを図書館に常備し、クラス単位での貸し出しが可能だ。朝の読書などで読むように促している。
高校の「椙高100冊の本」は、中学校と同様、図書係の教諭が選定。中学と高校で重ならないよう、教員間で調整。小学校から高校を通じ、本に親しむ環境を整えている。
【2015年4月20日号】
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