毎年、この時期になると懸念され始めるのがインフルエンザ。近年は東南アジアで鳥インフルエンザH5N1の人への感染も報告され、このようなウイルスが遺伝子再集合によって人から人へ強い感染力を持つ新型ウイルスになる可能性も否めない。日本政府はその対策として、2500万人分のオセルタミビル(商品名タミフル)の備蓄を決定、これにより大流行発生時でも予測される死亡者数の大幅な軽減が期待されている。〈11月29日、中外製薬(株)(永山治・代表取締役社長)主催/「インフルエンザ研究の最前線」(河岡義裕・東京大学医科学研究所ウイルス感染分野教授)、「インフルエンザ診察、最新の話題と問題点」(菅谷憲夫・けいゆう病院小児科部長)より〉
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97年に香港で確認されたH5N1は毒性が強く、これまでベトナムでは都市部の2病院で20名の死亡例が報告されている。
インフルエンザ対策にはワクチン接種と抗ウイルス薬投与があり、ワクチンはWHOも推奨しているように有効な手段だが、ウイルスの培養によって製造するワクチンは、供給までに6カ月を要するという特性上、流行期間が約2ケ月の新型ウイルスでは間に合わず、従って、流行当初は抗ウイルス薬での治療となってくる。
日本での抗ウイルス薬としてはアマンタジンとノイラミニダーゼ(NA)阻害薬があり、NA阻害薬にはオセルタミビルとザナミビルの2種。菅谷医師のグループによるオセルタミビルを発症2日以内の小児に投与した報告では、投与翌日には44%の患者が37・5度まで熱が下がり、2日後では86%。だが、体内におけるウイルス量は、成人が体温の平熱化に伴って減少する傾向にあるのとは違って、年齢が低くなるほど死滅率は緩やかで、1歳児では全滅まで約10日かかるという。そこから平熱まで下がってもすぐに幼稚園・保育園や学校に通うことは、すなわちウイルスを広める結果になるので、幼児では熱が下がってから最低でも4日以上、7歳児では3日は学校を休む必要があるということになる。
オセルタミビルは通常、インフルエンザ発症後48時間以内が効果的という。
課題は公平な供給
新型インフルエンザが大流行した場合の罹患者数は現在、推計で3000万人を予測している。一部報道ではその致死率は20〜30%とあったが、世界で2000万人の死者を出した大正7年のスペイン風邪の大流行でも日本の死亡率は1・6%で、常識的には高くても0・3%、9万人、入院患者は最大で53万3000人を予測、これが2500万人分のオセルタミビルの備蓄で、死亡者は3万人に、入院患者数も3分の1になるという。
では、新型ウイルス対策として、なぜオセルタミビルなのかという点だが、河岡義裕・東京大学医科学研究所ウイルス感染分野教授によると、日本での抗ウイルス薬としてはアマンタジンとノイラミニダーゼ(NA)阻害薬があり、NA阻害薬にはオセルタミビルとザナミビルの2種。抗ウイルス薬には抗生物質に耐性菌が出現するように耐性ウイルス出現が確認されており、アマンタジンはその出現頻度が高く、H5N1では、すでにアマンダイン耐性なので効果がない。また、ザナミビルはNA阻害薬としては有効だが、生産量が少なく、直接感染部位である肺に作用させるための吸入器を必要とし、備蓄には向かない。そこでいまのところ、経口投与のオセルタミビルしかないのが現状という。
■予防の基本は
ワクチン接種 菅谷憲夫・けいゆう病院小児科部長によると、オセルタミビルを投与した場合、A型とB型のインフルエンザではその有効性に差異はなかったという。小児のインフルエンザ入院患者の年齢分布では、特に低年齢層が多く、1〜2歳にピークがある。オセルタミビルの有効性は3歳以下と学童でも差は見られず、今後、小児のインフルエンザが原因となった入院は大幅に減少するとみる。
だが、菅谷医師はまた、インフルエンザ対策の基本はあくまでワクチン接種という。抗ウイルス薬は予防としての効果も有効だが、ただし、これはワクチンのように抗体や免疫をつくるわけではないので、健康な成人・小児への投与は膨大な備蓄を必要とするばかりでなく、濫用を招く恐れが大きい。また、多数の患者を抗ウイルス薬で治療するという場合、コスト面ばかりでなく、既存の病院では対処しきれなくなり、十分に治療を受けられずに重症化が危惧される。新型ウイルスが出現した場合、NA阻害薬は投与期間の短縮から投与量の減量が予想されるが、NA阻害薬の備蓄は全国民に公平に治療を提供することを目的とすべきと、菅谷医師は提言する。
【2004年12月11日号】