全国養護教諭大会特集
 保健室の健康相談活動1

スクールカウンセラーと連携を
  心の側面ばかりみることは問題

インタビュー
 筑波大学 渡辺三枝子教授

 人はだれでも精神的に強いストレスにあると体に変化が現れてくることはだれでも知っていることです。特に年齢が低ければ低いほど、その傾向は顕著です。最近「こころ」にばかり注目が集まっており、体のことが置いてきぼりになりかねなくなっていますが、今こそ「心と体の関係が切り離せない」ことを再確認し、子ども達の心身の健康を促すことこそ重要になってきています。
 このような状況の中、養護教諭は身体のことはもちろん、同時に心の問題にも早期に気づき、対応していかなければならないのが現状です。とはいえ、体のことで相談に来ている子どもたちに対してすぐに心の問題につなげてしまうことはとても危険です。あくまでも保健室は子どもが健康な生活を送るために病気の早期発見や生活の見直しなどをすることが目的であり、心の治療までするところではないということを忘れないでほしいと思います。


□カウンセラーにならないで!

 養護教諭の中に、カウンセリングや心理療法を熱心に勉強するあまり、あたかも心のセラピストであるかのように子どもたちに対応しているケースが見られます。養護教諭の役割はあくまでも身体の問題を扱うことにあります。身体が不健康になっている時に心の問題もあるかもしれないという知識を持つことは大切ですが、心理検査を行ったり、心理治療家の視点で子どもを見ることは問題ですね。
 たとえば、「お腹が痛い」といって来た子どもたちには、まずは身体的な状態をきちんと把握するべきです。そして、まずは「おなかの痛み」に対応することの焦点を当てるべきです。その過程で子どもはいろいろ話してくれるでしょう。子どもから心の問題について話してきたら、その話を真摯に聞いてあげ、心理的な状態を理解する姿勢をもつことは大切です。来室する子どもに対していつも心理的、情緒的な側面からしか子どもを見れなくなってしまうと子どもたちは保健室に足を運ばなくなってしまうのです。


□スクールカウンセラーと手を携えて!
 最近、養護教諭とスクールカウンセラーの役割分担がよく問題になっていますが、養護教諭は子どもから話を聞いた上で、心に問題があるかもしれないと判断した場合にカウンセラーのところへ相談に行きやすくするよう働きかけることも大切な役割の一つかと思います。それぞれ何のために学校にいるかということを考えれば、共存こそでき、役割分担でもめるということはおかしいことです。
 養護教諭は基本的な応急処置や病気の初期症状の発見などで本来の専門性を発揮する役割があると思うのです。言い換えれば「心と体の関係の強さ」をよく理解し、知識をもっていることは基本です。その範囲の中での心理治療的学習は必要です。カウンセリングを学習するのは、さまざまな児童生徒とコミュニケーションがとれ、早期にどんな援助が必要かを判断できるためです。
 養護教諭の主な役割は、心身の健康を害している、害しそうな子どもを早期に発見し、軽いうちに対応できるようにすることではないでしょうか。そのためには、子ども自身が自分の状態を安心して、教師に説明できることが重要です。その上で自分が対応すべきことなのかとそうでないのかを迅速に判断し、専門家と連携を図る。
 保健室は逃げ場でなく、あくまでも通過点であるということを忘れず、養護教諭の役割について今一度見直してほしいと思います。



(2002年8月10日号より) 新聞ご講読のお申込はこちらへ